173話 うさぎさん巨大な強敵を討つ その2
【チャリの速度には注意を払え、スピード違反には注意しろよおおおおおおお】
一面を覆い尽くす大きさの敵に向かって疾走。
しかし行く手を拒むように、背中から発射される攻撃で妨害する。
だが彼――マックス・ヘルンは慣れた器用な足遣いでことごとく回避していく。
「ぬぉぉぉぉおぉおお! すげえええはえぇぇじゃん!」
「これぐらい造作もないですからね、さあマックス・ヘルンあのデカ物さんに向かって走ってください!」
シホさんが手綱を引くと、マックス・ヘルンは期待に応じるように速度を増させていく。
背中に乗っている私の感想なのだが、馬とは思えない超迅速と言える速さで数秒も経たない内に彼は大敵メガ・バイタスの中距離まで近づいた。
あともうちょっと。
背中からの攻撃が鬱陶しいが、マックス・ヘルンがなんとかしてくれる。……それにこちらには、シホさんがついてくれているのだ。試しに銃で敵の部位を狙い撃ちしてみるか。
風の中、私はノマアサにチェンジをして銃を構えた。狙うのは上部、それとも下部か照準を交互変えながら思考を巡らす。さてどこから撃とうか。
「少し攻撃してみるね。普段より強めに発射するからふたりとも注意して」
「危険ではありませんか? でも愛理さんがそのように言うのであれば私はその言葉を信じるまでです。お願いします」
「任されたぜ、んじゃ」
いつも銃を使うとき、力の半分くらいで発砲している。というのも辺りに被害甚大にならないようにと自分なりに抑制しているのが理由である。
だが今日という今日は、そんな“遠慮”という言葉を私の辞書から抹消しフルパワー全開で攻撃するつもり。
「おりゃ! ラビット・ショット」
乱れ撃つように、各部位に弾を目一杯の弾を撃ち込んだ。
ビシュ! ビシュ! ビシュシュシュ!
どこが弱点なのか考えるのが面倒くさくなった私は乱れ撃ちを仕掛けた。
撃ち込んだ数弾は、メガ・バイタスの体に直撃し軽く破裂。
手応えは。
「どうだ? ……少しへこんだくらいか」
「グゴオオオオオオ……」
以前より体積は格段に違う。
力を込め、撃った弾丸に関わらず歯ごたえなし。少々へこんだくらいで相手にとってかすり傷程度のものだった。
ちくしょー、こうなるぐらいだったら、あの時にフルパワー出すせばよかった。
「だめだ、全然びくともしないよ。やっぱり近くで張り合った方が良い感じだ」
「そうですか、敵もそれほどにたくさんの力をつけていったという訳ですね。納得」
「戦う敵に対して尊敬してもなぁ」
「あ、愛理さんそろそろつきますよ」
話している間に、ようやく巨大なバイタスの面前に。
マックス・ヘルンは速度をさらに加速させていき。
このままもう突進して、一発私の力強いパンチをお見舞いする。
「マックス・ヘルン、もっと速く走ってください。……愛理さん彼が走っている間にとびっきりのパンチを!」
「おう、言われなくともやってやる!」
迫り来る攻撃を避けながら、攻撃の準備に私は拳に力を入れる。
タイミングはゼロ距離。腹部に近づいた瞬間に渾身のパンチ食らわせてやる。……再生する可能性も視野に入れ、今回は無効化の能力も有効化にして。
――接近する寸前、こちらの動きに気づいたバイタスが四つ手で襲いかかろうとするが、高速で移動するマックス・ヘルンの動きについていけず難なく躱されてしまう。そしてマックス・ヘルンが体に突撃する瞬間、力を入れ高々に声を張り上げ言い放つ。
「食らえ! 10倍ラビット・パンチ!」
ドゴオオオオオオオオンッ!
貫徹力は平均以上。ドリルで一瞬にして穴を開けられるような感覚だ。
私の放ったラビット・パンチは、バイタスの体に風穴をあけそれによって作りだされた抜け道を通り、マックス・ヘルンは地表を強く蹴ってミヤリー達が待機する方面へと飛躍。
高々とした衝撃に耐えながら着地すると。
「す、すごい爆発が起きたけどなにがあったの? ……スーちゃんは、冒険者達に補給してもらって元通りよ」
「……はぁもう大丈夫です。一発食らわせることはできた感じでしょうか」
体力が回復したスーちゃんもその中にいた。
魔力の方はもう大丈夫か、というかこの世界の魔力って時間が経てば、回復するものなのか?
先ほどより、元気なスーちゃんを見て、そんな気がし少々気がかりだが。
冒険者達がなんとかしてくれたってことは、回復アイテムあたりをもらったということかな。
「あぁ。ご覧の通り仕留めたぜ」
「……そうですか……って愛理さん」
「ん? なに」
「あれバイタスの方からなにやら異質な気配を感じます」
私が倒したことを、結果報告をすると仲間達の雲行きが怪しくなる。
倒したバイタスから舞い上がる黒煙を凝視して……。
あれ、倒したよな。
無効化の能力も適用したし、もはや完全…………ん?
私もそちらの方を見るとなにやらただならぬ気配を感じた。
パーカーの効力も相まって、なにやら遠くで何かが蠢く音が聞こえてくる。
「な、なんだ……おい」
冒険者の1人を筆頭に、続くように他の冒険者もその異変に気づいていく。
ざわめく喧噪が妙である。私もなにかしら胸騒ぎを感じていた。そうまだ終わっていないぞと言わんばかりの兆候。
僅かだが、無数に動く何かがあの煙の中に“それ”を感じる。
「……煙が……あ、あれは」
煙がなくなるとそこには。
禍々しい竜の姿をした、気味の悪いモンスターが1体。
うぇ、ま、まさかと思うけどさ、そのまさかになるのこれって?
おそるおそる図鑑を開いてみると。
【ギガ・バイタス 解説:メガバイタスがやられ更なる力を蓄えたことによって誕生した新しいバイタス。口から吐くバイタス・フレイムを食らうと数秒も経たない内に朽ちてしまう】
いやいやいやいやいやいやいや! もうどうしようもねえだろこれ。
ちゃんと使ったぞ? 使ったんだけど……もしかして質量が違い過ぎて効きづらかったとかそんな感じかな。
【AIさん:多分そうだと思います。以前よりバイタスは様々な生態を食らいつつ成長しています。なのでいくら愛理さんと言えども、ワンパンで仕留めようとも夢のまた夢。能力はこちらが勝っているとはいえ、無効化の能力が微量だったみたいです】
マジかよ。
「……今度は竜ですか、なにやら体内に大量のエネルギーを蓄えているようですが……あれを吐かれたら一筋縄ではいかないでしょう」
「やはり、あの再生能力も健在というわけですか。……さてどうします」
「…………そりゃ決まってるだろ」
単純な考えかもしれないが、以前のようにやられにいくような考えはとらない。
戦うんだ。戦いながら敵の弱点を見いだすんだ。
今はそれしかない。……それとあともうちょっとでガジェットが使える。その繋ぎとして今は時間稼ぎで戦う必要がある。
まずは敵の弱点を探ること。これがあいつを倒す為の攻略方だ。
「戦って敵の弱点を探る……けど無茶は禁物、危険だと思ったら直ぐさま引き下がること……いいね?」
一同、軽くうんと頷くと。
手に構える武器を力強く握りながら決意を固め。
「えぇ勿論ですとも。もう愛理さんには迷惑はかけられません……ですからここは愛理さんの言う通りに従います……さて2回戦目いきますか」
まあ正確には、2回戦目ではない気がするが……何回目だろもう分からないくらい倒したから、数え切れたものじゃない。
さてみんなもやる気満々だし、私もみんなと力を合わせてこいつをコテンパンにするとしよう。
弱点もない怪物バイタス。相変わらずぶっ飛んだスペックだ。マスターがどれぐらい対抗できるかしらないが試す価値は十分にある。
私達は恐れながらも気を落ち着かせるのだった。
「」