171話 うさぎさん達、決戦の準備なう その3
バイタスとの決戦前日です。
次回から本格的な決戦! さて愛理達の運命は如何に。
この異世界を果たして救えるか⁉(ででどん)
【攻略サイトの情報を信じるか否かはプレイヤーの意思によって委ねる】
街の雰囲気は騒然としていた。
何か所には人々が塊を作り冒険者同士で会話をする。
バイタスの話だろうか。少しパーカーの能力を駆使して遠くの会話を盗み聞きして。
「ギルドで聞いた話なんだが、あの例のやばいモンスターがもうすぐ来るみたいだぞ?」
「まじかよ……なんだっけバイタスっていうモンスターだっけ? 突如として現れた地球外生命体らしいが」
突如現れたか。
ブラフも同族が解き放った産物だと暴露してしまえば、ギルド支部で罪を負わされる可能性もゼロではない。そこを懸念して突如飛来してきた謎モンスターという設定で話を通し……うむ後先必ず考えているんやなあいつ。
スーちゃんとただいま聞き込み中だが、誰もその存在を恐れていた。私が“バイタス”という名前をくちにするだけで、冒険者の表情は一気に沈んでいきその感情の表れを私達に示してくれる。
「だからそんな怯えんなって。私はバイタスの足がかりを知りたいだけだからさ」
「……はい。急に襲ってくると聞いて怯えることに関しては同情しますよ、ですが少しでもいいんです微かながらの情報を提供してくださると……」
仲介で少々詳しく補足説明してくれるスーちゃん。
今日は珍しく……。
「いやだからうさぎ……愛理、あんたがそれは倒してくれると思っていいんだな?」
認知されてもらえず、久方ぶりの展開だが彼女の言葉はあっけなくスルーされてしまった。
視線は私の方に向き、会話の対象は彼女の方には向かなかった。あ、やべスーちゃんが。
「……ぺ。いつもの……いつものパターンですよこれ。虫が無視されて……なーんてぶつぶつ」
酷くまた拗ねてしまっていた。
駄弁を話す冒険者達の口をその場で止め私が抗拒すると。
「あ、あのさ……彼女……うちのスーちゃんが必死で話してくれていたんだけど無視すんなや。ラビパン食らわせるぞごらぁ!」
ガン付けしその冒険者を逆恨むように、睨み付ける。
人の話は無視するのってだめなんですよお二人さん。……脅迫用に私の拳をひとつふたりに近づけびびらせようとする。……私の仲間が必死で話しているんだ無視なんてただじゃあおかないぜ?
「ひ、ひいいいいいいいいいい! やめてくれやめてくれ‼ 今のはマジで聞こえなかったんだ! ……す、すまなかったな白い魔法使い。スーちゃんだっけ? ごめんな」
「あぁそうだそうだ、悪気はないんだ……だから愛理よぉ許してくれ」
「……スーちゃん大丈夫だってもう心配いらないよ…………んじゃあ情報提供してくれたら許してやるよ」
拗ねるスーちゃんに声をかけると、私がふたりに慰謝料をいただくことにした。
彼女を決して悪いように使っているわけではないのだが、この罪はきっちりと払ってもらおう。
「わ、分かったよ。その聞いた話なんだが、巨大な図体が特徴でこの地球上に住まうどのモンスターよりも大きかったんだとか」
「ふむふむでかいとな? 攻撃手段はどんな感じ?」
ここでリバースしてくるとか言ってきたらさすがに吹くぞ。
「えぇと背中から放射線状の光線を放出して辺り一面を焼け野原にするとか」
「こ、殺す気満々じゃん! そ、それは確かに収穫情報だうんありがとう!」
後退りをし駆け足で立ち去っていくその冒険者は。
いちど立ち止まって、私の方を向いた。
お、なんだ?
「と愛理よ。お前口は悪いがお前のそのパーカーの力があれば確かにあいつを倒せるかもなぁ。聞いたぞ幾多のクエストをことごとく熟していったとか。そんなお前……いやお前さんのパーティならあいつを倒してくれると信じてるぜ。もし帰ったらなんか奢ってやんよ。んじゃあな!」
と再び前を向いて去って行くその冒険者。
これって信頼されているの? ……初見な顔ぶれだったけど名前呼びしてくれるってことは、知名度もそれなりに上がってきたということでいいのかな? ……少し嬉しくはあるかな。
「でもさらっと死亡フラグ言ってなかったかあいつ? これが今生の別れになりましたみたいなこと書かれたら全て水の泡だけど!」
「……だ、大丈夫ですよ、先ほど少し頑張って聞き回っていたのですが……みなさん心底あなたに信頼を寄せているみたいでしたよ」
「そうなのか、よくわからないけどよしとするか、シホさん達どうしているかな。私達ももう少し聞いてまわろうか」
シホさん達と別れてからほんの数十分。
滞りなく、バイタスの情報収集は順調に進んでいき、ある程度の正味が掴めてきた。
遠隔射撃をぶっ放すとんでもなやつ、木より遙かに大きいであろう体積に形を自由に組み替える厄介なモンスターと多岐に渡る。
僅かな情報でありながらもこれは大きな収穫。
一方は情報を掴めたのか心配なところ……。
探索を続けていると、シホさん達と約束していた時間が迫ってきた。おっとやべ。
「そろそろ時間だな。スーちゃん急ごう」
「愛理さん……心配無用です」
突っ走ろうとするとスーちゃんが袖を引っ張ってきて止めてきた。
弱い力の入れようがとてもかわいいな。……なにか私に言いたそうだが果たして。
今いる位置だと30分はかかるであろう長距離。
私持久走とか得意じゃあなかったんだけど、能力駆使したらどのくらいかな。
【AI:全速で走った場合、一応時間内に到着はできます……しかし街の人に被害が及ぶので使うのは控えた方がよろしいかと】
つまり自重しろってことですね分かります。
そうなると、スーちゃんなにかあるんだね……えぇと。
「……移動魔法で一瞬です。はい一瞬で移動します」
「確かにそれなら……ってスーちゃんこんなくだらないことの為には使わないとか言わなかったっけ?」
移動魔法。
順当なお手軽移動方法だけど、今までのスーちゃんなら些細なことで使わなかったはずだが。
あれ、地味にこれ好感度上がっているんですか?
「……そうですけど愛理さんなら別に使ってあげてもかまいません。それに先ほど助けてくれましたしね」
「大したことないよ当然のことしたまでだし……それじゃ遠慮せず任せてもらおうかなスーちゃんや」
「了解です……ではいきますよ」
スーちゃんの移動魔法を経由して集合場所までひとっ飛び。
一瞬で移動を完了させ視界が見入ると眼前に誰かを待つ、馴染みあるふたりの姿がそこにあった。
「おす。待たせたね収穫はどうだった?」
「はい、僅かですけれども……」
「疲れたわよ、途中アイテムを落として死ぬところだったわ」
まあ人だかりができている街だしミヤリーにとっては、都会を知らない田舎人が初めて都会に訪れたような感覚か。……つーかおまそんなこと今更言って……いい加減慣らせ口で言うのもううんざりだから我慢してやるけど。
「……それはお気の毒に、ではみなさんこちらも収集が完了したので今週のうちに作戦会議ですね」
「私長話は苦手だけど……人類の運命はお前に任された的な責務を背負わされているから少しガチめに頑張るぜ」
私の仲間達はテキパキと話を進めてくれた。
今週のうちに対策を練るべく作戦会議……ですか。まあいいだろう。
それからというものの、決戦に備えて仲間と共に話し合いをした。ときどきギルドの人に呼ばれて情報の共有や、こうした方がいいなどの手配を進めて、街の冒険者達の役割を分配してもらったりと不慣れながらも街の人の為にと尽力するのだった。
☾ ☾ ☾
それから1週間後。
あっという間に運命の1週間が経過した。
街の外壁には街の冒険者達が各々の武器を携え、まだかまだかと待ち構えていた。
中部で待ち構える私は、銃のスコープに目を当てながら空を仰いでいた。
するとなにやら巨大な物体が目に負えない速さで飛行しているのが見えた。
「来たか………………みんな来るぞヤツが」
ドスン!
大きな地響きが木霊すると、表面が一瞬地震でも起きたかのように大きく揺れた。
スコープから目を遠ざけ私は遠巻きに正面を見た。
「……現れましたねついに」
「少し姿が変わっていますけど間違いなさそうです」
「さぁてお仕事しようかしら……後ろのみんな準備はいいかしら!」
「うぉーーーーー!」
と戦いの一声を上げる後ろの冒険者達。
どうもやる気が十分ありみたいだな。
正面に控える巨大な物体。キメラかそれ以上の体格を持つそのモンスターは草原のほとんどを占めていた。
以前より明らかに大きくなっている。肥大……いや甚大か、そのモンスターは矛先を私達に向けるよう一声を上げて。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
挨拶代わりに私はそいつに向かって銃弾を1つ放ち。
「ふう……ようやく会えたなバイタス。この間の屈辱今度こそ晴らさせてもらうからな。これはほんの挨拶代わりだ食らえラビット・ショット!」
私の撃った弾は軌道を変えずその巨大になったバイタスの方へと飛んでいくのだった。
【メガバイタス 解説:バイタスが強大な力を蓄え続け姿を変えていった姿。現在調査中用心せよ】