13話 うさぎさんと難攻不落なバグだらけダンジョン その1
【何事もバランスって大事だと思う】
ゲームバランス。
やる上でプレイヤーがいつも気にかけているもの。
あまりにも度が過ぎているとクソゲー認定されたり、たんびにアンチが湧いたりする。
なのでちゃんと、ゲームを作る上で大切なことはとにかくバランスが大事だ。最初っから強い相手を敵にしたくねえ。
しかし私はそういうものは。
やりがいがあるので、見かけては買ってすぐやる派閥の人間だがさてこれは。
「それでそのダンジョンは一体どんな感じなの」
先ほど私が帰ろうと、馬鹿総理である狂政の部屋を出ようとした時呼び止められた。
金の音に釣られて、その場の雰囲気で引き受ける羽目になったわけだけど。
自分でも情けないと思っている。
こんな安い罠になぜ引っかかったのかと。
でもさ人間って金に対する欲求が強いじゃん。欲しくなるのは当然。
あんな大金出されたら、断ろうにも断れないよ。
して現在。
部屋にある大きいソファに腰掛け、彼の話を聞き始めた頃合い。
隣に座っているシホさんはモジモジしながら、何か言いたそうな顔をしている。
トイレでも行きたいのかな。使い古されたくだらないダジャレ“トイレにいっトイレ”と心の内で呟いてみる。
異世界でこのようなギャグが受けるか知らないけど、言わない方がいいよね。
つーか絶対滑るよ言わない言わない。
「どうしたの? そんなモジモジして」
「いえ、なんか急にダンジョン行く話になりましたけど、このまま引き受けて大丈夫なのかと」
耳打ちして。
彼には聞こえない小さな会話。
トイレじゃねえのかよ。
私はてっきり用を足したいと思っていたが、そっち方面での素振りなのね。紛らわしい。
あ私は決して、下ネタを言いたくてこんなこと言っているわけじゃあないからな。
心配を和らげるように私は彼女に応じ。
「それなら心配いらないよ。何があっても私がコテンパンに蹴散らしてあげるから」
前向きな言葉で彼女を元気付ける。
今私が言っている言葉が、フラグにならないことを願わんばかりだが。
この間のミドロンの件といい。あんなクソ耐性を持つモンスターとは正直戦いたくない。
「愛理さんがそういうなら安心ですけど大丈夫ですかね?」
重ねてくるか。
そんなこと聞かれると、こっちが逆に不安になってくるからまじでやめて。
「大丈夫だって」
「本当に本当ですか?」
身を乗り出して顔を近づけるシホさん。
近い近すぎるって。
「心配性だね。全然心配いらないって」
「ならいいんですが、これから向かう場所がどんなところかくれぐれも油断しないように慎重にいきましょうね」
満足そうにほっとしたシホさんは、狂政の方を向き話を聞く。
というかそのダンジョンが本当に気になってしょうがない。
「話はおわったか? じゃあ要件を話すぞ」
案外待ってくれるんだなこの人は。
バカではあるが以前大統領をしていたこともあるせいか、人には優しく振る舞えるらしい。
政治云々はよく分からない案件だが、コイツが腹黒い人ではないと確信した。
☾ ☾ ☾
【戦力補充は必要不可欠】
「実は前に作ったダンジョンがあってな」
前に作ったダンジョン?
そんな場所がこの一帯にあったんだな。RPGでは鉄板中の鉄板だが密かに作っていたなんて……ずるいぞそれならそうと早く言えよ。
「一番最初あたりに私が作った世界一の、鬼畜ダンジョンを作ったんだがそれが結構問題だらけでな」
「ふーんそうなんや…………って今なんて?」
さらっと鬼畜ダンジョンというワードが出てきたぞ? やめろそういうの引退者が続出するやつ! 大統領さんバランスって大事⁉
もう言っていることからして、既にやばく感じれるこれなに?
おおかた想像できるのだが。いや理解したくない。
どうせろくでもない話に決まっている。
「内部に入ると、本来上層にいかないとない、ギミックや強力なモンスターがうじゃうじゃでてきてな」
それなんて言うバグゲーですか? 色々問題がありすぎてツッコむところも過多。でもここは空気を読んで聞くだけにしておく。ほら空気を読むのって大事じゃん。
でもそれはそれとして、とりあえず優秀なプログラマーでも雇おうぜ。
「問題を解決させようと、何人か私の部下を向かわせたが難しすぎて奥には辿り着けなかったんだが」
あぁ。テストプレイやらずに作ったやつだこれ。
他人が潜っても攻略できないとかどんな難易度設定ですかそれ⁉
あまりにも鬼畜要素が高いのなら覚悟しなくては。
だが1つ断っておくぞ。私はそう簡単にてぃうんてぃうんとかしない!
「ちゃんと作る時確認できなかったの?」
「すぐにやってからこそ、面白味があるだろう? 君ならそれがわかると思うが」
まあ確かに一理ある。
体験版のゲームより、早く製品版をプレイしたい的なあの感覚わかりみが深い。
肩をくすめる狂政。なにやれやれってなっているのさ。
「そこでだ、見た感じ君には私にはない強力な力があるとみた!」
強いのは確かだけど、そこまで私がなんで強いってわかったのさ。
まだ戦ってもいないのに。そこは控えた方がいいか自重は大事だし。
「ひとつそのダンジョンに行ってくれるか? 無論この報酬はやるなんとこの中には50枚の金貨が入っているぞ!」
いいように物で人を釣るの上手いなこの人は。
どうせ変なゲームのワンシーンをまねした演出なんだろうけど。でもここまできたら引き下がるわけにはいかないだろう。乗りかかった船っていうし。
「いいよやってあげる」
瞠目して狂政は両手で、私の手を握り感謝の意を込め。
「おお本当か、それは助かる君がいれば百人力だ」
百人じゃなくて数百万人の価値があると思うよ、私じゃなくてこのパーカーは。はいはいうさぎさんのワンショットキル俺TUEEEE! 伝説が始まるんですね分かります。
すぐ。
そうと決まればすぐ片付けようと決め、私は扉の前まで行こうと足を運ぶ。
思い立ったが吉日という、何かをやろうと心で決めたことはすぐやる言葉があるが私はそうしたまで。宿題は早くやりなさいと言われたらみんなやるでしょ要はあれと同義語だよ。
しかしそんな私を大統領さんは呼び止めてきて。
「ちょちょっ愛理君それは早すぎなんじゃないか! 自分の力を過信すぎなんじゃないかね!」
「「いいだろ! 別に減るもんじゃねーし!」」
自分でもこれは図に乗りすぎだと自覚はあるのだが。
なんだろう、宿題感覚で終わらせたいからついイキがってこのような荒い口になってしまう。
止められるのあまり好きじゃないんだよね。シリアス展開ならここで「お前はここに残れ、後は俺が食い止める」的な言葉が発端となり事態は丸く収まったりするが、やらねえよそんなロマンチストがやりそうなことは。
「ふむ、でもこのまま君を無防備に行かせるわけにはいかん」
すると私の方に近づいてなにかをしようとする。
ま、まさかナンパか!? おいやめろこの小説タグにR18のタグ付いてないでしょ!! もしこれ以上なにかやるというのなら「しばらくお待ちください」の立て札下ろすからな!
まあ小説だからそういうのは表現しづらいけど。ていうかマジで自重しやがれ!
「お、お前! まさか私にハレンチなことをしようと考えているんじゃないのか!? 言っておくが私に薄い本の展開なんてないと思いやがれ!」
と一瞬疑った私だったがポロリ。
何かを手渡してきた。軽やかで手の平サイズに収まる大きさの物が。
長方形型の物体。見慣れたその物体に既視感を覚える。
これって。
「スマホ?」
「ああそうだ、私が作ったスマホだもちろん失敗作ではないちゃんと動作する」
そのスマホらしい物体は、私がよくみるタイプの均等に整えられた端末だった。
形も私がいた世界にあった物と大して差はない。完全にうり二つな見た目で誰がどう見ても正真正銘スマホじゃないかこれ。
「連絡手段がなかったら不便だろ? だからこれを手渡しておく」
「でもこれってどうやって動かすの? 電気はおろかSIMカードもないんじゃ無理でしょ」
「心配はいらん、全て魔力を注入すればその機能を十分担うことができるぞ」
有能スマホすぎてわろた。
それを聞いてやはりこいつ凄いなと思う。大統領さんスペック高杉っす!
でもこういうのに頭は回るのに、なぜ前の世界ではこの知識を別の形で有効活用できなかったのか。あ、でも持つよりできれば。
「でも私どうせなら持つより付ける派がいいんだけどできる?」
パーカーに内蔵してくれるよう頼み込む。
そんなことできるわけないと、ダメ元で言ってみたが。
意外な返答が返ってきた。
「では愛理君、君のそのパーカーのことを話してくれたらそれに応じた力をあげよう」
できるんかい! ふぅ、やったぜ
かくして私はこの私が着ているうさ耳パーカーの秘密を。
シホさんに聞こえない声で晒し説明した。
ばれたらばれたらでなんか言われそうだし。
「ふむなるほどな。よしわかった。はっ」
狂政は私に向かって手を振りかざした。
すると私の着ているパーカーが煌めきだす。
光が収まると、なんだか体中から凄まじい力を感じるようになった。
「通話機能を追加しておいたぞ。これで念じた相手と通信をいつでも取ることが可能だ。……ついでに」
「ついでに?」
「ラビットボックスという物を付けておいた、それはいわゆる無限に収納できる収納箱だ。メニューを開けばすぐでて来るはずだ」
【ラビットボックス(無限ボックス)が使用可能になりました】
メッセージウィンドウが現れたので早速メニューを開いてみた。
そこにはBAGという項目が。
開くと空白がいっぱいある画面が現れ右下には0/∞と表示された数字が。ガチで無限に収納するボックスみたいだな。
なにそのクラインの壺みたいなやつ、序盤に入手できるアイテムとしてはアドが高すぎるんじゃ。
上限ないとかぶっ壊れなのでは。
でも今更返却するのも悪いし諦めよう。
「その中入れた物は時間が停止し、時間経過の影響を一切受けない」
えそれやばくない。
単に収納するだけじゃないとか、バッグのくせに生意気だぞ!
それはアプデかなにかで、付ければいい塩梅に仕上がる気がするがマジレスするのはやめよっと。はい3分ルールなき3行ルールです。
「つまりチンしたグラタンを入れれば常時保温状態になるというわけだな」
「なぜにグラタン? 因みに私はドリア派だからそこんとこよろしく」
「私はエビとマカロニ大好きなんだがな」
「「おめぇは子供か‼」」
例えが草。
もっとマシな例えはなかったのかよ。電子レンジさんがこれだと涙目である、解凍ができるのが彼の醍醐味であって、これはもう役割を全てこれに持っていかれているが……改めてみるとそれならイメージがつきやすいな。
「それはそれでありがたいね。ありがとう」
「ところでシホ君、君も少しいいかな?」
「はっはい!?」
ぴくりと反応したシホさんは彼の方に近づいて。
また手を振りかざし何かの力を彼女に与えた。
「こ、これは?」
「全体的に能力を上げておいた。これでこれから出会う敵とある程度渡り合えるはずだ」
空腹はともかく、それ以外の能力に関してはハイスペックなんですがこのお方は。
でもちょっとした、餞別品をもらえたしよかったねシホさん。
本人もにこにこしながら嬉しそうにしているし。
「えへへ。ありがとうございます」
あそうだ。
「シホさん、これあげるよ」
私が先ほどもらったスマホを彼女に手渡す。
「これなんですか? 見たことないものですが」
「それはスマホっていうんだよ。連絡する魔道具って言えば分かりやすいかな。使い方は狂政さんから聞いて」
そう言うと狂政はそのスマホの使い方を分かりやすく丁寧に教え。
シホさんは数分足らずですぐ覚えたのだった。
覚えるのはっや。
「なるほど、結構便利ですねありがとうございます」
因みにそのスマホは。
所持者が使う言葉によって、言葉が自動翻訳されるみたいで持つ人が困らず使用できる品物らしい。
どこかのクソガバガバ翻訳サイトみたいに、曖昧なはたまた支離滅裂な翻訳にはならないのでご安心を。
「うむ、有効活用してくれるといい。因みに一部地域限定だがネットも使えるぞ」
ふと私は敏感に彼の方を振り向き。
「マジで!?」
「うむ、と言ってもここ一帯だけだがな。独自のサーバーを作りのに苦労はしたがな」
なんでもありだなこいつは。
「愛理君も欲しいのか? 物欲しそうな目をしているが」
しまった。欲求のあまりに顔に出たか。
不覚だ。
「ああいや、でも改めて考えてみたらさ。そうしたらなんかつまんなくなりそうだなって。だから今はいいかな」
本当はこの人、めっちゃネットやりたい気持ちで一杯です。
だが今は我慢。とりあえず今は通信機能があればいいかな。
「じゃあ明日そのダンジョンに向かうとするよ」
こうして今日はもう遅いので、街にあった宿屋。
ホテルに一泊し、明日目的のダンジョンへ向かうことにした。
でも。
~♪
~♪
「がぁ! 寝れねえ‼」
布団から起き。
寝ていても騒音がやたらと耳に響いてきたので。
なかなか心地よい快眠は取ることはできなかった。外から聞こえてくる騒々しいBGMが私の睡眠を邪魔するBGM自重しやがれ。うるせえ。
そんな長い夜を乗り越えた翌日。
~翌日~
言われた場所へとやってきた。
場所はこの街より、少し進んだ場所にそびえ立つ山だった。
「やたらと高い山ですね」
頂上には黒雲が渦巻いていた。
この高くそびえ立ついかにも攻略難易度が高めなダンジョン。
――してその名は。
バグ・マウンテン。
おかしな名前ではあるが。
問題がおおありな面が、名前からさらけ出してあるようなダンジョン名であった。
そして私達はそのダンジョンの中に潜り込み探索を始めるのであった。
つーかもうちょっとマシな名前他にあっただろ絶対。
読んでくださりありがとうございました。
結構元総理がいい仕事してくれましたね。無限バッグの付与やスマホなどなど。
始めに言っておきますが、この世界にあるスマホは他作品にでてくるような、チート能力は端から備えておりませんのでご配慮を。主に基本的な機能くらいなものだけなので後はこれと言ったものはありません(※アプリ等はありません)
次回はいよいよダンジョン攻略の時間ですよ愛理さん。さあ思う存分蹴散らしてください! 心の私がそう語りかけていますがさてその問題だらけのダンジョン内は果たしていかなものか。
それではまた次回お会いしましょうではでは。