11話 うさぎさん、街に驚愕するあの街は一体なんなんだ? その2
【反則の限度を知らないと異世界のイメージぶち壊しじゃん】
目を半目開きにしながら入った。
辺りの目につく限りの物を見渡しながら、私は今いる世界がどこなのか困惑しつつあった。
はて、私が今いる世界は本当に紛れもない異世界なのかと。
「同人イベントでもやってんのここは。私服より仮装いやどう見たってコスプレのようにしか」
「ドウジンイベント? なんですかそれ。変わった服装着ている方がたくさんおられますね、ここの民族衣装かなにかでしょうか」
「たぶん違うとおもうよ」
見ているものが錯覚なのではないかと疑わしく思えてくる。
歩く大通りに建つビルには、美少女の描かれた大きめのポスター掲げられている。本当にここって異世界なのか?
よく見たら私も知っているアニメゲームのキャラも、ちらほらと見えるのだがなんぞあれ。
行き交う街の人々は。
「はい、旅のお方。オタクシティにようこそ! どうですかうちに寄っていきませんか?」
真上を見上げると、【メイド喫茶☆ザオタク】と書いてある大きな看板が。
看板も独特で縁には虹色に光る電球が付けてあった。
……ゲーミング系の何かかな。
あぁこれ前私がいた世界でよくあったやつ。
メイドさんが路上にでてチラシ配りするあれ。
それでオタク達はその餌に食いついてしまい、そのまま店内へと入ってしまう。
今話している人。
メイド服を着た人はなにやら書かれた紙を私に手渡しているのだが。
明らかにこれ、メイド喫茶の勧誘じゃね。
そういう現代要素排除してくれない? 一応等作品は"現代"のタグとかつけていないはずなんだけどな。
バグか? 不調か? それともなにかしらの深刻なエラー的なあれか!?
とりあえず、修正パッチでも定期メンテかやれよ畜生。
この世界にバイトがあるのかは知らないが。
メイド喫茶の出てくる、異世界ものなんて聞いたことも見たこともないよ。全く訳がわからなく意味不明。
店に入って……『萌え萌えきゅん♡』とか誰がするか。リバースしそうになるから絶対したくないわ。
因みになんだが、私は小さい頃メイドになりたいと思っていたことがある。
けど年を重ねるにつれて、恥ずかしく思うようになりやめた。おぉなんとも哀れな私の黒歴史恥ずかしい恥ずかしい。
あれをこなせるのは、恥じらいを持たない人ほどだろう。
到底私には狭き門だまじでないない。なのでここは断った方が無難。すごく興味をひいてきそうな視線をこちらに向けてくるが……もうやだこういう勧誘イベントは。凡人は配られたティッシュをもらうくらいが丁度良い塩梅。
悪く思うなよバイト(?)のお姉さん。
「いや、別にいいよ。ちょっと野暮用があって」
「そんなこと言わず~お客さん入りましょうよ~」
う、うぜぇ。
でも見た目は可愛いショートヘアをしているので。
案外いい……。いやいやよくないわ。
こんなくだらないメイド喫茶に入るくらいなら、他のところに行った方がマシに思えてくる。
さて目ぼしい物はどこかないかな。
この場所にあるという確証は正直持てないけど。
「「本当にいいから!!」」
あまりにも強情な態度を示してくるので、大声で軽く怒鳴ってやった。
この世界ではどうも"しつこいやつは嫌われる"理屈は通じないみたい。
はあマンドくせ。私はシホさんの手を握り疾走するがごとく、その場を後にする。
周りの行き交う人々から注目の視線を帯びるが、無視だ無視。そうそう、こういうときは気にしたら負けってね。
「ちょ、ちょ、ちょっ愛理さん! 何もそんなに急がなくても。結構あのお店楽しそうでしたし入ってもよかったのでは?」
いや興味あるんかい!!
異世界の人にとってそこは興味の惹かれる場所なのだろうか。言い方が悪いがヘンテコな料理が出てくるばかりだよご主人様とか相手を尊重した呼び方が定着している。どんな利点があるのか愛理さんには皆目見当がつかない。
でもワンチャンシホさんのメイド姿見たくあるかも。(何考えているんだ私は)
「いや、入らなくていい場所だから!」
「何を躊躇っているのかは知りませんが、まあいいですよ」
通り過ぎて。
メイド喫茶が見えなくなったところで一旦ストップ。
異世界だと思って油断していた。
まさかこの世界に来てまで、メイド喫茶を見る羽目になるなんて。
何でもありか? この世界は。
もうこれは。
"公式が病気"か"作者が病気"のタグをつけたくなるレベルだな。
――人だかりは凄く。
それは指では数え切れないほどの人数だった。中にはアニメゲームのコスプレをする人も中にいた。
「……すんません、あのその服どうしたんですか」
恥ずかしながら、とあるコスプレをする女性に話しかけてみた。
美少女アクション系の服装をした格好だけど。
首を傾げたのち、女性は丁寧に答えてくれた。
「あなたはこの街くるの初めてかしら」
「えぇまぁ。みんな変わった服装着ているなあって」
変わったという表現は適切な答えなのかと頭の中で疑問を巡らせた。す、水準がわかんね。この世界での“当たり前”はどこまでが“当たり前”なのか問題は募るばかりである。
ここでコスプレと言っても『なにそれ?』的な答えしか返ってこないと思い。
変わった服という表現で呼称してみた。
「これ、コスプレっていうのよ」
いや知っているんかい!!
頭の中で視界が一瞬上下揺れ動く。
「ほうほう。それはコスプレって言うんですね」
納得して、彼女をまじまじと見つめるお方が約1名。文化定着していたよこの街、通りで名前にオタクとついているわけだ。
ましてやこの街がどういった場所なのか概ね理解した。
認知しているということは、やはりここの長になにかありそうな。
「映像や雑誌に描かれた人物の、衣装を見様見真似で着ているだけよ」
即売会もやっていそうな匂い。
次のカタログを購入するのすっかり忘れていたけど今はそんなのどうでもいい。過ぎ去ったことは気にしたら負けだ。
「この街だとそういう文化がはやっていてね、こういう服着るなんてごく普通のことなのよ」
うわ。
マジ二次元に汚染されているんじゃねこの街は。
「は、恥ずかしくないんですか?」
問う度に私の表情は次第に怪しくなっていく。もうヤケクソになりそうな気分。
私だってこの服着るの本当は嫌なのに……これだと罰ゲームずっとやらされ続けて慣れちゃった人みたいな感じじゃあないか。どうかしているぜここは。
「えぇ全く。変なこと聞くのねあなたは」
私からみたら、この街に住むみんなが変に見えてきますよ。
コスプレを民族衣装、または普段着か他の物と勘違いしているんじゃないの。
というか私が元いた世界でも常時コスプレ着ながら歩く人なんてみたことねえよ。
せいぜいキャラが描かれた服を着ることはできたが、そういうのはコマケでやれって言いたくなるけど。
まあ私だってうさぎのパーカーを着ている時点で。
一概にも無関係者とは言いきれない。
「色々ありがとうございました。この街を楽しんでいきたいと思います」
「そうならよかった。それと最後に1ついいかしら」
立ち去ろうとした時、その女性が呼び止めてきた。
「あなたのそのうさぎのパーカーもなかなかかわいいわよ。うふふ」
ぐっ。
はい、いつものパターンですねこれ。
絶対言われたくないことをまた言われた。そうただ街中を歩くごく一般の人に。
「あの愛理さん、大丈夫ですか? 膝なんかついて……」
やはり私はどこ行ってもこの服装見た人達は。
可愛いだとか愛嬌があるとか言ってくるのだが。なに? そう言われる呪いでも付いているのこのパーカーは。
するとウインドウが唐突に現れた。
何か書いてある。
【そんな機能ついていませんよ】
と。
こんな装置付いているのか。
って。
そうじゃなくて急に語りかけてくんなし。
街中で膝をついているのもあれなのですぐ立ち上がり。
「シホさん、この街歩くのなんかすっごくハズい」
涙目になりながら、シホさんの方を振り返る。
すると彼女は優しくよしよしと私の頭を撫でてくれた。
やさいせいかつってやつかなこれ。
☾ ☾ ☾
【お金は大切に使わないと後々後悔する】
「それにしても、建物のあちこちに謎の人物が描かれた物が下ろされていますけどあれなんですか」
当然シホさんは知らないようだから私はザッとだが説明する。
「あれはね、二次元っていう架空の人物なんだけど、それを描いたええと紙かな」
材質は何でできているか知らないけど、取りあえず紙って言っておこう。エアプ? なにそれおいしいの? 専門家じゃあないから私が細部まで説明できるわけがない。パンフみたいなものあったらなあと他の物に頼り気味な私がここにいます。
「そうなんですね、でもなんのために飾っているのですか? あれは」
「この街の人の趣味なんじゃないかな……あはは」
やばい情報源が少なすぎてピンチ。私のエアプばれない大丈夫?
「よく分かりませんけど楽しむことって大事ですよね」
さらっと納得してくれたのでほっと一安心。
何割本当のことを言えたのかは分からないけど、本人さんが満足しているのでここはこれでよしとしよう。
それにしても長いこの街は。
歩いても歩いても終わりが見えない。
いやそういう所がア●バそっくりなのだ。
本当どうしてこうなったんだよ。
同人ショップ、ゲームセンター、玩具屋みたいな建物もちらほら。イッツジャパニーズ異世界。
ヘイ、ユーは何しにこの異世界へ!
……つまらないセンス0のギャグ言ってサーセン。
と。
「シホさん、あそこ入ってみない?」
目に付いた、とあるガラス張りのない中が露出したゲームセンター。ほほう。
少々興味深い。
いっちょこの世界のゲーセンがどれほどのクオリティなのか、私直々確かめようかな。
まずは軽く小手調べ。
「おぉいいですね、一体どんなものがあるか楽しみです」
楽しそうににこにこしながら進むシホさん。
☾ ☾ ☾
目に飛び込んできたのは1台のクレーンゲームだった。
見た目は私の世界にあった物とほぼ一緒。
相違があるとすれば……入れる硬貨の違いぐらい。
当然住んでいる世界が違えば、使うお金も違ってくるだろう。
台には。
『1回1銀貨。……100回で1金貨』
……草生えた大雑把すぎ。
『5回分作るの面倒くさかったからあえて金貨1枚で100回にしました』的なノリやめろ。
盛りすぎだろ。どこの頭の悪いヤツが作ったんだよ顔出せ。
金貨1枚(大金貨(10万円)金貨(1万円)銀貨(1000円)銅貨(100円))は大体日本で言う1万円だから、100回相当だね。500円がないとはいえ、100回するアホは廃人でもない限りまずやらないと思うが。
ここは銀貨5枚がベストかな。日本額で5000円……ゲームソフト買えるじゃんこれ。
というか金貨投入して下にある返却レバー引くと。
これめっちゃ出てくるんじゃないか大丈夫? 営業妨害ならないかなこれ。さり気なくついているけど。まあ細かいところはつっこんだら負けだろう。
はいそこ、悪用しようとしない。
愛理さんとの約束。
ガラスケースの中には、美少女フィギュアが数台。
位置はトレイ台の丁度真ん中辺り。
さて取れるだろうか。
銀貨を5枚投入して、起動させる。
『オタクレーン!! GOGO! ピrrrrrrrrrr……』
ビッくした。
「うわっ! なんじゃこれ!」
音声が出るとは予想外。
これは本格的過ぎて草、やべえな異世界のゲーセン。
「なんか妙な声が……」
「いや、これただこの機械から出ている音だから」
「凄い装置あるんですね。聞いたことも見たこともないんですが」
この世界に録画機や録音機があるのかは定かではないが、取り敢えず音で解釈。
私はケースを見ながら、手元の『↑』『←』のボタンを駆使して、フィギュアにクレーンを近づける。
ウィーン。
ウィーン。
いたって音普通だなおい。
私のいた世界だとレバー式の物があったのだが、まあそんな大した差はないだろう。
慎重にクレーンを動かし、対象物目がけてそれを下げ。
ウィーーーン。
ガシ。
「お?」
クレーンは対象物をがっしりと掴み、そのまま落ちることもなく元いた場所へと戻っていき。
レーンが開き持ち上げていた物はそのまま。
ポロっ。
掴んでいたフィギュアは穴へと落ちて、下に付いている取り出し口へと着地した。
あっさりじゃんこれまじヌルゲー。そしてフィギュアを片手に。
勝利の決めゼリフ。
「取ったどおーー!」
するとシホさんがパチパチと拍手をくれる。
「すごいです! 愛理さんいとも容易く取ってしまうなんて」
8888するシホさん。
「どうってことないよ。こういうの慣れてるし」
本当は動画サイトに上がっていたとある投稿者の動画を頼りに覚えたんだけど、ここで役に立つときが来たとは。
結局覚えはしたものの、あまり使いはしなかった私の実質秘技でもある。こういうのをしこたまというのでは。
これ下ネタじゃあねえからな。変な妄想するなよ。
それでも時々取りにゲーセンに行ったりしていたな。……懐かしい。
まさかこんなところでこの知識が役に立つなんて。
「それでもすごいですよ。私は全然できませんし」
……このまま複数フィギュアを取ってもいいけど、それだとなんかつまらない気がする。そこで私は1つ提案する。
「ねえシホさん。残りの分よかったらやってみる?」
私は複数欲しいとかそんな欲求は端からない。
なので残りの分は彼女に譲ることにした。それに彼女の腕も気になるし。
「ではお言葉に甘えて……」
私は彼女に操作方法を教えた。
専門的な知識などは教えず基本的な操作を。だって基本が大事っていうじゃん。
まずは慣れろってね。
☾ ☾ ☾
って上手く教えたつもりだったけど。
「すみません愛理さん」
「まじかよ……」
実は上手いんじゃないかと期待していた私が馬鹿だった。
彼女の腕は上手いどころか、アームはフィギュアに全く当たらなかった。
何回か彼女は試してみるものの、結果は同じでプレイ料金が死に金にされる。
私はなにか間違ったことをしてしまったのだろうか。
彼女の操作があまりにも下手すぎて言葉が出なかった。
その操作性に笑い1つ全く感じさせず。
……親が子供にお小遣いを手渡す気持ちが、どんなものか分かったような気がする。
あのとき、無残に散っていった私のノグチ(親からのお小遣い)なんかごめん。
だが下手にもほどがあるだろ。
普通は、かすりの1回ぐらいはすると思うんだけどなんで? ある意味奇跡じゃん。
【シホは『ある意味奇跡的に、ゲームでミスを連発させる女戦士冒険者』の称号を手に入れた!】
なんかよくわからない画面出たけどなにこれ。
称号ってなんぞや。なにか意味あるのかな。
すると画面が表示され。
【意味ありません サーセンm(_ _)m】
ないんかい。
……ミス連発ってそれもう壊滅的じゃね。
「あの大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ。だからそろそろ行こうか」
プレイ回数が0になっていたので、そろそろお暇。
ちょうど区切りでよかったな。
……彼女のプレイスキルを理解した私は、その場をあとにしふと思った。
シホさんにこういうギャンブル系はさせるべきではないと。
【オタクは自分の欲するものを見せられると食いつく】
歩みを進めていると街で大きなビルへと辿りついた。
巨大な金箔の塀には相変わらず、可愛らしい二次元キャラの巨大ポスターが何枚も。
なんとなく。
ここの長の趣味が大体分かってきたような気がする。
私は大扉にいる門番の人に語りかける。
「すみません、ここの……村長さん? にお会いしたいのですが通してもらえませんか」
慣れない敬語で聞くと。
「だめだよ、見ぬ知らずの人を通すと思いで?」
ですよね。分かっていました。
「じゃあ、どうすれば通してくれるかな」
できれば入ってどんな人なのか会ってみたい気はする。
入るなって言われたら入るそれがベター。
気になるから入ってしまいたくなるのは。
人として仕方のないことだと思う。さあ要件を呑もう。
どんなものでもきやがれ。
「そうだな……村長の好きな物を渡してくれれば通してやろう」
また、身も蓋もないことを。
村長の趣味とか全然わかんねえよ。
ん?
待てよ?
趣味で思い出した。
この街の人は二次元物が大好き。
その観点からあることを察する。
高い通行料だが――――。
「愛理さんそれいいんですか?」
「いいんだよ。……ほいこれでいい?」
私が手渡したのは、先ほど取った二次元キャラのフィギュア。
これ以外私の残された手はない。頼む通ってくれ。
「むむむ……」
門番の人は険しい顔つきを見せながら、なにやら思い悩んでいる様子。
「むむむ」
こっちみんな。
……そしてようやく悩みごとが、吹っ切れたかのように一拍おいたのち返答が返ってきた。
「ま、間違いない! これは最近ゲーセンのクレーンゲームに入荷したばかりの、村長が大好きなキャラの限定フィギュアじゃないか! ……いいだろうこれを献上するというのなら通ってよし」
……あっさり通ったんだけど。
というかチョロすぎだろ。
「よかったですね。でも本当によかったんですか? せっかく先ほど取られたものなのに」
フィギュアは犠牲となったのだ。高い通行費となって。
まあ家がないしどこに仕舞って置くってんだよ。重荷になるからこの選択は大いにありだと私は思う。
「ああでもしないと通してくれないでしょ? ……それにまた取ればいいしね」
「そうですか。……まあ愛理さんならすぐ取れますよね」
事を終えて。
大扉を開け、その街一番大きいであろうビル内へと入り。
私達はその村長さんに会うことにした。
それにしても本当ここの村長さん一体何者なんだ。
街の感じといい、趣味といい。
どんな人か検討もつかないのだが。
改めて確信を持てた。
ここの村長さんは、紛れもない転生か転移者の二次元大好きなオタクなんだと。
読んで下さりありがとうございます。
さて、今回はバトルメインより、ギャグメインの展開にしました。
本当は村長さんのところまで書きたかったのですが、長くなりそうだったので次回に回すことにしました。
一章ごとのチャプタータイトルを付けるように今回いいえ前回から、【】を付けるようにしました。
理由はなんかこちらを採用した方がなにかと良い感じになるのではないかと思いましたので。
次回はついに愛理達が謎のオタク村長と面会。果たして一体何者か。
オタクシティの謎はいかに。それでは次回にではでは。