番外編 うさぎさんと出会う前の腹ぺこ戦士 その2
シホさんの話の続きです。
食べてばかりな描写が多いですが楽しんで
くださると幸いです。
【努力は大事って言うじゃないですか? 私は両親からそのように教わりましたが】
平原の高台。
見渡すと、広大な大空が広がっていました。
日差しが強いせいか、
透かさず私は腕を額の上に被せて。
「眩しい」
風を受けた草木は、ゆっくりと踊り
掠める音を鳴らします。
崖の下を見下ろすと、凸凹とした自然豊かな大地が
一帯を覆っています。
極小で見えづらくはあるものの、魔物が動めく
姿が見えます。
「あれはスライムですかね。柔らかい
感じの形していますし」
そんな高台で私は何をやっているか。
さあみなさんここで問題です。
私は何をやっているでしょうか。
正解は当然。
「いただきます」
手を合わせ食事をしていました。
布袋に詰め込んだ最低限の食料は私にとって
必要な活力源です。
出る前に食料の確保は行いましたが……正直なところ
少しこれだけでは、物足りなさを感じますが。
「さて、このあと何回また倒れてしまうのやら」
「いっそ辺りに転がる大岩にでもな
りたい気分です」
町を出てから数10分。
空腹を感じた私は森を抜けたのち、
切りがいいと思ったので、ここで一息つくことにしました。
でもこの場所結構眺めいいですよ。
加えて、口たくさんに広がる味も絶品です
一口。
空腹に不便さを感じたりしますけど。
活動時間が非常に短いのは私の欠点、
この空腹さえなければと悔やむ一方。
いけないいけない。
これでは里のみなさんに合わせる顔が……
自尊心を保たなくては。
「報酬金の為、午後からも頑張りますよ」
食事を終えると、迷いを断ち切るように
両手で頬を軽く叩き活を入れました。
☾ ☾ ☾
崖から見える、出っ張り部分を目がけて
飛び降ります。
「わっと!」
降りる部分は段差になっていて、
勢いよく滑り込むのがとても難関。
途中、転げ落ちそうになりますが、
軽快な体の動きを活かして、
瞬発的に回避。
「間一髪ッ!」
巨大な岩壁をいくつも越え。
斜面で転びそうになっては
片足を上げて、滑り込むようにして
前進。
「危険はつきまといですが、
こうやって降りるのやはり楽しいです」
※危険ですので、絶対マネしないでください
おふざけで降りたら大けが……
なんてことも。
私は山岳育ちなので、こういうもの
には慣れているので、動じることも
ありませんが、普通に考えてこれは危険ですね。
段差を伝って地上へと着きました。
……この一帯に住むモンスターはそこまで
強くないので。
私ぐらいの冒険者であれば、ほぼ一撃で
倒せるでしょう。
でも大型モンスターは勘弁願いたいです。
いえ、技能的な意味ではなく、燃費
が悪くて……ですね。
「静かですね、厄介事にならな……」
草を踏みしめ、辺りを見渡しながら
歩いていると。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
なってしまいました。
突然、藁の服を着た大型の魔物が出現。
遠吠えをあげ、こちらへと向かい
棍棒を振り回しながら襲ってきました。
あぶない。
体躯の差により、簡単に避けることができましたが
果たして倒せるかどうか。
「歓迎にしてはとても派手なように思いますが……
さてでは行かせてもらいましょうか」
剣と盾を持ち構え、攻防に徹した
体勢を取ります。
このトロルという中級者向けのモンスターは、
冒険者の間では、まず即死級の強さを
持った魔物です。
鈍重な動きだからといって
浮かれていると、頭をひとつぱっくりイカれた
という話もないんだとか。
初めて見た者はその力の前に圧倒され、トラウマ
を埋えつけられた人も少なからず。
しまいには尻尾をまいて逃げる冒険者の方々も
多いみたいですが。
「おっと!」
敵の猛攻を幾度も避けながら、攻撃する
チャンスを伺います。
円を描くように互いに間合いを取り。
「近くにある木がほとんど倒されてしまい
ましたね……この先は」
避けていてわかるんですが、あの攻撃
一発でも食らえば、生きては帰れない
と思います。
凄まじい振り回しがとても脅威
なので、慎重に避け、攻撃の隙を作るのが
とても難しいですね。
「そんな、崖っ⁉」
避けているうちに崖のほうへ
きてしまいました。行き止まりです。
「困りましたね。このままではぶつか
りそうです」
避けることができないので
あればと思い私は、襲ってくるトロルの攻撃を
今度は横側へと身を寄せました。
するとそのまま壁にぶつかり、ヘロヘロ
になりました。
これはチャンスです。壁の方に近づいたのは正解でしたね。
後は得意の斬撃で仕留めるだけです。
「隙だらけですよ、この攻撃でも受けてください!」
混乱している敵の背後に立ち
攻撃する準備をします。
背中にかけた鞘から、愛用の剣を抜いた
瞬時に狙いを定め、斬り払い。
バシン! バシン。
見事2回放った斬撃は全て命中。
力尽きて倒れました。
どうやら難なく倒せたみたいですね。
……一時はどうなるかと思いましたが
倒せたのでよかったです。
「ふわぁ、焦りました」
斬っただけなのにお腹が空いたので、
また布袋から三角ゴハンを取り出します。
これは昨日食べた、ゴハンの料理らしく
オニギリというらしいです。
その美味しいオニギリを口に運んだのち、
目的の第1村へと向かうのでした。
☾ ☾ ☾
「これはいかがですか~?」
村の十字路に立ちます。
行き交う人々にその紙を手渡して。
みなさん心の広い方が
多いせいかこの村に配る紙は速攻で
なくなりました。
でも戦士の冒険者がなんで紙配って
いるんだって話ですけど。
戦士は戦士らしく、ひたすらモンスターを狩れ
って言われそうですね。
まあ私の剣の腕なんて宝の持ち腐れですよ。
技量はたしかでも、体力がないのでは
話になりませんね。
私はどちらかというと、長時間の戦闘は向いていません。
すぐお腹空いちゃうので。
なのでこうした雑な仕事を、着々とこなし
たほうが、個人的には向いている気がします。
最後配った人が私に声を掛け
てくれました。
中年くらいの目に隈ができた男性です。
とても働き疲れているご様子。
「き、君みたいな綺麗な美人さんが
お店にいるならちょっと行ってみようかな」
目線がいやらしいです。
父から言われたことがあります。
変な目つきをした男には用心せよ
と。……本音は語らず普通にここは対応
しましょうか。
「あの、私は冒険者です。依頼を受けて
この村に店の宣伝としてやってきたんですが
お店の従業員ではないです」
「ごめん、そうだったんだ。
……てっきり可愛い美人さんがいるお店
かと思ったよ」
「ならこれは気持ちとして
受け取っておくね。……それじゃ」
あのあっさりすぎませんか? もうちょっと
粘ってくると思ったのに。
男性は去って行きました。
どうやら私の紙を受け取ってくれた人達は、
私みたいな人がお店にたくさんいる
と思い、興味本位で受け取ったのでしょうか。
「素直に喜ぶべきですかねこれ。
違う意味で人気になっているような……」
……自分が美人だという自覚は
端からありませんが、見た目に惑わされるのは
これはこれでよくない気がします。
でも一応1つ目の村を無事配り終えたことですし、
次の村へと行くことにしました。
☾ ☾ ☾
2つ目の村に向かう、途中の洞窟にて。
辺りからは、ポタポタと水が落ちる音。
暗闇の中、私は袋に入れてあった、
ランプを取り出し火をつけました。
「使いましょうかね、それ」
火はどうやってつけているかというと。
予めこのランプには魔法使いの
使う炎魔法が備わっています。
そのため引き金をずらすと
魔法が発動。炎魔法が擬似的に起動し炎が点火する
仕組みのランプです。
聞けば大体100回分までは持つんだとか。
照明も明るく、周囲を鮮明にうつします。
キャー!
「「ひやあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ⁉ ここここここうもりぃ⁉ あっちいってくださいいってください! 血でもなんでもあげますからぁ! ですから命だけ………………は?」」
急に暗闇の中から1匹のコウモリが
私の方へと飛んできました。
途端に驚いた私は鞘にさしたままの剣を
無意識に振り回し。
ゴンッ。
ギヤァ……。
偶然にも頭部に命中し、コウモリは地面へと
落ちて気絶しました。
私はこういう脅かしはとても苦手なので。
奥へと進み、ようやく出口が見えてみました。
そして光射し込む出口に
進もうとした瞬間に、背の低い小型の
モンスターが現れます。
「ギャア!」
「ひやあああああ!!」
ゴブリンでした。
ゴブリンは人語を話す種と話さない
2種がいますが、
これは人語を話さない種のようですね。
また驚かされたので、鞘をまた振り回し攻撃します。
すると。
手を差し出してきました。
「へっ? あ、どうも」
理性を取り戻した私は、正気に戻り
手を差し出しました。
「ギャ……ギャ」
すると申し訳なさそうな
顔をしながら、その手で私の手を握手
してきました。
……単に驚かしただけだったのでしょうか。
それで謝ったとふむふむ。
事を終えるとゴブリンは一礼をすると
去って行きました。
このような好意的なモンスターも
中にはいます。
聞いた話によれば
魔物を思うがまま、操る冒険者も
いるそうですが。
「さて、あと2箇所ですしさっさと
おわらせましょうか」
ここでまたお腹が空いたので一口。
食べ物を口に運び、次の村へと向かいました。
☾ ☾ ☾
【食べ物を要求しても別に悪くないですよね?】
無事残り2箇所の村でも着々と
チラシ配りをこなし。
クエストを達成することができました。
「よしっ」
報酬金は後日もらえることとなり、事を終えた私は
来た道を無事に戻り。
帰る途中でした。
ですがここで私は、重大なミスを犯して
しまいました。
それは。
「……し、しまった。……食料足りませんでした」
「……どうしましょう」
もう少しでリーベルに着くというのに
またお腹が空き、何か食べようと袋の中を漁りま
したが。
何一つ残っていませんでした。
そう帰りがけに、食料が底をついて
しまったのです。
不覚です不覚です、実に不覚すぎます。
あわわ。
辺りを見て実がなる木もなければ、食料となる
モンスターもいませんでした。
もう少し、踏ん張ってみようと
歩いてみますが。
途中。
森のひらけた野原で、とうとう
空腹に限界がきて、そのままうつ伏せに
なってしまいました。
このまま餓死は確定ですね。
ともう諦めかけていました身も体も。
「これも戦士さながらの運命
というのなら…………受け入れてあげますよ
ガクッ」
もう煮るなり
焼くなり好きにしろと。
知らない間に、狼の遠吠えが聞こえてき
ましたが、気のせいでしょうか。
とその時でした。
「な、な、何事? 破裂したような物みたいな音
がしましたけど、なんなんですか?」
突如、何か大きな物が爆発する
音が聞こえました。
爆弾? 地震か。
うつ伏せになり、身動き1つすら動けない状態。
ですのでこの状況では、
直接見て確認が行えないのでこうして
想像することしかできませんが。
果たしてあの爆発音の正体は一体……。
まあこれから魔物の食事にされる私にとっては
関係のない話ですが。
☾ ☾ ☾
そして少し。
その爆発音が過ぎ去った後。
何やら草木を踏みしめる足音がしました。
最初は魔物か何かだと思い。
しかし野生の獣がする遠吠えは
全く聞こえず、殺意すら感じませんでした。
もしや人なのでは?
密かな希望を抱き、近づく人に向かって
喋りにくい状態でありながらも
私は必死にその人に向かって声を
飛ばすのでした。
「……を」
「へ?」
その声は幼いながらも
人でした。
声の高さからして、
それはそれは愛おしい幼い声。
けれども突然の反応に
困ったその少女は、唐突な私の反応に
驚いて言葉を失いました。
「えっとその……」
「たべ……食べ物を!」
念の為もう一度声をかけてみます。今度は
私が欲しいものをお腹一杯大きな声で。
「食べ物をくれませんか? あぁなにか……
なにか食べ物をぉぉぉぉぉぉぉ!」
無性に空腹に飢えた私は、その人に対して
食べ物を求めました。
このままではまともに動けないので、
ついでにと思い、自分の活力源となるものも
相手には悪いですが要求しました。
いえ今本当に
お腹減りすぎて力が入らないんです。
それぐらい空腹の度合い強いというか。
というか本当に助けて
くださいお願いします。なんでもしますので。
神様もう、人を無差別に巻き込んだりしません。
なので今一度このシホにチャンスを。
声を大きく出した途端に。
何故か無意識に体をゴロゴロと動かせ
ましたが、その力は一体どこから
湧き上がったのか。
私にはよくわかりません。
でもその揺れ動きは、多少揺動するくらいで大き
く動いたりはできませんでした。
すると何やら美味しそうな匂いが
漂ってきました。
とても美味しそうな匂いです。
我を忘れた私は
その方向へと飛びつきかぶりつきました。
視線の先には声主がいました。
苦痛を伴う声を上げて。
「「いってええええええええええッッ!」」
それは可愛らしい、少し私より若干背が低い白い
うさ耳パーカーを被った
黒髪長髪を隠す女の子でした。
これが愛理さんとの出会いに
なろうとは、このときの私には全く想像もつかない
ことだったのです。
読んでくださりありがとうございました。
一応今回でこの番外編は閉めるとして明日からまた本編に戻ります。
シホさんは色んな人に迷惑かけ気味ですが
それでも自分で努力しようとする強い精神の持ち主です。
抜いたら相手は死ぬ……みたいな。
まあ腹ぺこキャラという立ち位置は変わず。
本編でも度々また空腹で倒れたりしますが、
それでも「またかよ」程度な気持ちで読んでくださると
嬉しく思います。
次書くとしたら今書いている
章が終わったくらいでしょうかね。
そのタイミングでまたこの章を書くかもです。




