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留年になったので異世界生活することにしました  作者: 萌えがみ
番外編 シホさんの日々苦労してます
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番外編 うさぎさんと出会う前の腹ぺこ戦士 その2

シホさんの話の続きです。

食べてばかりな描写が多いですが楽しんで下さると幸いです。

【努力は大事って言うじゃないですか? 私は両親からそのように教わりましたが】


 平原の高台。

 見渡すと上空に、広大な大空が広がっていました。

 日差しが強いせいか、私の顔面に一筋の光が射します。

 透かさず私は腕を(ひたい)の上に被せ。


 眩しい。

 崖の下を見下ろすと凸凹とした自然豊かな大地が一帯を覆っています。極小で見えづらくはあるもののモンスターが動めく光景が見えます。……あれはスライムでしょうか。

 そんな高台で私は何をやっているか。


 さあみなさんここで問題です。

 私は何をやっているでしょうか。

 正解は当然。


「いただきます」


 手を合わせ食事をしていました。

 布袋に詰め込んだ最低限の食料は、私にとって必要な活力源です。出る前に食料の確保は行いましたが……正直なところ自分の家がほしいところ。改めて家族がどれだけ恵まれた環境なのかと痛感した私は自然の空気を吸いながら空を見上げます。……空気がおいしい。


「さて、このあと何回また倒れてしまうのやら。いっそ辺りに転がる大岩にでもなりたい気分です」


 街を出てから数10分。

 空腹を感じた私は森を抜けたのち、切りがいいと思ったのでここで一息つくことにしました。


 でもこの場所結構眺めいいですよ。

 なぜなら大空の下で、こうして美味しい食事を摂ることができるんですから私にとってこの上ない幸せはないですよ。


 一口。

 手に持っている大好きなお肉とサラダを口に運び、よく噛みながら辺りを見渡します。……母に小さい頃よく言われました。『ちゃんと噛んでから飲みなさい』と。隙を伺って水で飲み込もうとしたら母に気づかれて頬を軽くつねられたこともありましたが、今思えば良い思い出です。みなさん他のことを早くしたいからと言って、早まってはだめですよちゃんと何でも噛んでから食べるように。


 街で美味しそうな物を見つけたので、念入り買った物なのですがいけますよこれ。

 空腹に不便さを感じたりしますけど。

 活動時間が非常に短いのは私の欠点、この空腹さえなければと悔やむ一方。いけないいけないこれでは里のみなさんに合わせる顔が……自尊心を保たなくては。


 「報酬金の為、午後からも頑張りますよ」


 食事を終えると迷いを断ち切るように両手で頬を軽く叩き活を入れました。


☾ ☾ ☾


 崖から見える出っ張り部分を目がけて飛び降ります。


「わっと!」


 降りる部分は段差になっているので、勢いよく滑り込むのがとても難関。途中転げ落ちそうになりますが、軽快な体の動きを活かして、瞬発的に回避。巨大な岩壁をいくつも越えていきます。ふう危ない。


「危険はつきまといですが、こうやって降りるのやはり楽しいです」


 みなさんはまねしたらだめですよ。

 おふざけで降りたら大けが……なんてことも。私は山岳育ちなのでこういうものには慣れているので動じることもありませんが決して私ができるからといってやらないように。


 段差を伝って地上へと着きました。

……この一帯に住むモンスターはそこまで強くないので。

 私ぐらいの冒険者であればほぼ一撃で倒せるでしょう。

 でも大型モンスターは勘弁願いたいです。

 と草を踏みしめ、辺りを見渡しながら歩いていると。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」


 突然藁の服を着た大型のモンスターが、遠吠えをあげながらこちらへと向かい棍棒を振り回しながら襲ってきました。

 あぶない。

 体躯の差により、簡単に避けることができましたが果たして倒せるかどうか。


「歓迎にしてはとても派手なように思いますが……さてでは行かせてもらいましょうか」


 剣と盾を持ち構え、攻防に徹した体制を取ります。


 このトロルという中級者向けのモンスターは、冒険者の間ではまず即死級の強さを持った魔物です。

 鈍重な動きだからといって浮かれていると、頭をひとつぱっくりイカれたという話もないんだとか。



 初めて見た者はその力の前に圧倒され、トラウマを埋えつけられた人も少なからず。

 しまいには尻尾をまいて逃げる冒険者の方々も多いみたいですよ。

 ……今回は1匹なので苦戦を強いられることはまずありませんが。

 まさかよりにもよって戦いたくない相手に、いきなり出くわすとは私もついてないです。


「おっと!」


 敵の猛攻を幾度も避けながら、攻撃するチャンスを伺います。

 避けていて分かるんですが、あの攻撃一発でも食らえば生きては帰れないと思います。

 凄まじい振り回しがとても脅威なので、慎重に避けながら攻撃の隙を作るのがとても難しいですね。

 と避けているうちに崖の方へきてしまいました。行き止まりです。


「困りましたね。このままではぶつかりそうです」


 避けることができないのであればと思い私は、襲ってくるトロルの攻撃を今度は横側へと身を寄せました。

 するとトロルはそのまま壁にぶつかり、ヘロヘロになりました。

 これはチャンスです。壁の方に近づいたのは正解でしたね。後は得意の斬撃で仕留めるだけです。


「隙だらけですよ、この斬擊でも受けてください!」


 混乱しているトロルの背後に立ち攻撃する準備をします。背中にかけた鞘から愛用の剣を抜いた瞬時にトロルへ狙いを定め斬り払いました。


バシン! バシン。


 見事2回放った斬撃はトロルに命中し、そのままなすすべもなく倒れました。

 どうやら難なく倒せたみたいですね。

 ……一時はどうなるかと思いましたが倒せたのでよかったです。

 と斬っただけなのにお腹が空いたので、また布袋から三角ゴハンを取り出します。

 これは昨日食べたゴハンの料理らしく、オニギリと言うらしいです。

 その美味しいオニギリを口に運んだのち、目的の第1村へと向かうのでした。



☾ ☾ ☾



「これはいかがですか~?」


 村の十字路に居立って、村を行き交う人々にその紙を手渡します。

 みなさん心の広い方が多いせいか、この村に配る紙は速攻でなくなりました。

 あまりにもなくなるの早くないですか。

 普通ならもっとかかりそうなお仕事だと思いますが。

 でも戦士の冒険者がなんで紙配っているんだって話ですけど。


 戦士は戦士らしく、ひたすらモンスターを狩れって言われそうですね。

 まあ私の剣の腕なんて宝の持ち腐れですよ。

 技量はたしかでも、体力がないのでは話になりませんね。

 私はどちらかというと、長期戦より短期戦向きですから長時間の戦闘は向いていません。

 すぐお腹空いちゃうので。


 なのでこうした雑な仕事を、着々とこなした方が個人的には向いている気がしますね。

 と最後配った人が私に声を掛けてくれました。

 中年くらいの目に隈ができた男性です。とても働き疲れているご様子。


「き、君みたいな綺麗な美人さんがお店にいるならちょっと行ってみようかな」


 なんか色々勘違いしてそうな気がします。

 とても本音を語りづらいのですが目線がいやらしいです。

 父から言われたことがあります。変な目つきをした男には用心せよと。……本音は語らず普通にここは対応しましょうか。


「あの、私は冒険者です。依頼を受けてこの村に店の宣伝としてやってきたんですがお店の従業員ではないです」

「ごめん、そうだったんだ。……てっきり可愛い美人さんがいるお店かと思ったよ。……ならこれは気持ちとして受け取っておくよ。……それじゃ」


 あのあっさりすぎませんか? もうちょっと粘ってくると思ったのに。


 男性は去って行きました。

 どうやら私の紙を受け取ってくれた人達は、私みたいなかわいい人がお店に沢山いると思い、興味本位で受け取ったのでしょうか。


「素直に喜ぶべきですかねこれ。違う意味で人気になっているような……」


 ……自分が美人だという自覚は端からありませんが、見た目に惑わされるのはこれはこれでよくない気がします。

 でも一応1つ目の村を無事配り終えたことですし、次の村へと行くことにしました。



☾ ☾ ☾



 2つ目の村に向かう途中の洞窟にて。

 辺りからは、ポタポタと水が落ちる音による木霊。

 暗闇の中私は袋に入れてあった、ランプを取り出し火をつけました。

 火はどうやってつけているかというと。

 予めこのランプには魔法使いの使う炎魔法が備わっています。


 そのため引き金をずらすと魔法が発動。炎魔法が擬似的に起動し炎が点火するそんな仕組みのランプです。

 聞けば大体100回分までは持つんだとか。照明も明るく周囲を鮮明にうつします。


 キャー!


「「ひやあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ⁉ ここここここうもりぃ⁉ あっちいってくださいいってください! 血でもなんでもあげますからぁ! ですから命だけ………………は?」」



 急に暗闇の中から1匹のコウモリが私の方へと飛んできました。

 途端に驚いた私は鞘にさしたままの剣を無意識に振り回し。


ゴンッ。


 ギヤァ……。


 偶然にも頭部に命中し、コウモリは地面へと落ちて気絶しました。

 決して狙ったわけではないんですただのまぐれですよ。

 私はこういうドッキリ系はとても苦手なので、急にされると焦ってしまう癖があります。

 それで今は私の焦りによる攻撃ですので、2度言いますがまぐれです。

 奥へと進みようやく出口が見えてみました。

 そして光射し込む出口に進もうとした瞬間に、背の低い小型のモンスターが現れます。


「ギャア!」

「ひやあああああ!!」


 ゴブリンでした。

 ゴブリンは人語を話す種と話さない2種がいますが、これは人語を話さない種のようですね。

 また驚かされたので、鞘をまた振り回し攻撃します。

 すると。

 手を差し出してきました。


「へっ? あ、どうも」


 理性を取り戻した私は咄嗟に正気に戻り、手を差し出しました。


「ギャ……ギャ」


 すると申し訳なさそうな顔をしながら、その手で私の手を握手してきました。

 ……単に驚かしただけだったのでしょうか。それで謝ったとふむふむ。

 事を終えるとゴブリンは一礼をすると去って行きました。

 まあこんな好意的なモンスターも中にはいます。


 これまで何度かありましたが、優しい心を持ったモンスターも中にはいるんだと思います。

 魔物を思うがまま、操る冒険者も中にはいるそうですが。


「さて、あと2箇所ですしさっさとおわらせましょうか」


 ここでまたお腹が空いたので一口。食べ物を口に運び、次の村へと向かいました。



☾ ☾ ☾



【食べ物を要求しても別に悪くないですよね?】


 無事残り2箇所の村でも着々とチラシ配りをこなし。

 クエストを達成することができました。

 報酬金は後日もらえることとなり、事を終えた私は来た道を無事に戻り帰るのでした。

 ですがここで私は、重大なミスを犯してしまいましたそれは。


「……し、しまった。……食料足りませんでした……どうしましょう」


 もう少しでリーベルに着くというのにまたお腹が空き、何か食べようと袋の中を漁りましたが。何一つ残っていませんでした。

 そう帰りがけに食料がそこをついてしまったのです。


 不覚です実に不覚すぎます。

 辺りを見て、実がなる木もなければ食料となるモンスターもいませんでした。

 もう少し踏ん張ってみようと歩いてみますが。


 途中。

 森のひらけた野原で、とうとう空腹に限界がきてそのままうつ伏せになってしまいました。

 このまま餓死は確定ですね。ともう諦めかけていました身も体も。


「これも戦士さながらの運命というのなら…………受け入れてあげますよガクッ」


 もう煮るなり焼くなり好きにしろと。

 知らない間に狼の遠吠えが聞こえてきましたが、気のせいでしょうか。

 とその時でした。


「な、な、なに事? 破裂したような物みたいな音がしましたけどなんですか?」


 突如耳から何か大きな物が爆発する音が聞こえました。

 爆弾? 地震かうつ伏せになり身動き1つすら動けない状態。

 ですのでこの状況では、視野の情報収集が行えないのでこうして想像することしかできませんが。

 果たしてあの爆発音の正体は一体……。まあこれから魔物の食事にされる私にとっては関係のない話ですが。



☾ ☾ ☾



 そして少しその爆発音が過ぎ去った後。何やら草木を踏みしめる音がしました。

 最初は魔物か何かだと思いました。

 しかし野生の獣がする遠吠えは全く聞こえず、殺意すら感じませんでした。

 もしや人なのでは?

 密かな希望を抱いて近づく人に向かって、喋りにくいながらも私は必死にその人に向かって声を飛ばすのでした。


「……を」

「へ?」


 その声は幼いながらも人の声でした。

 声の高さからしてそれはそれは愛おしい幼い声。

 けれども突然の反応に困ったその少女は、唐突な私の反応に驚いて言葉を失いました。


「えっとその……」

「たべ……食べ物を!」


 念の為もう一度声をかけてみます。

 今度は私が欲しいものをお腹一杯大きな声で。


「食べ物をくれませんか? あぁなにか…… なにか食べ物をぉぉぉぉぉぉぉ!」


 無性に空腹に飢えた私は、その人に対して食べ物を求めました。

 このままではまともに動けないので、ついでにと思い自分の活力源となるものも相手には悪いですが要求しました。


 いや今本当にお腹減りすぎて力が入らないんです。

 それぐらい空腹の度合い強いというか。

 というか本当に助けて下さいお願いします。なんでもしますので。


 神様もう、人を無差別に巻き込んだりしません。

 なので今一度このシホにチャンスを。

 声を大きく出した途端に。

 何故か無意識に体をゴロゴロと動かせましたが、その力は一体どこから湧き上がったのか。

 私にはよくわかりません。

 でもその揺れ動きは、多少揺動するくらいで大きく動いたりはできませんでした。


 すると何やら美味しそうな臭いが漂ってきました。

 そうとても美味しそうな臭いです。

 我を忘れた私はその方向へと飛びつきかぶりつきました。

 その視線の先のその声の主がいました。

 苦痛を伴う声を上げて。


「「いってええええええええええッッ!」」


 それは可愛らしい、少し私より若干背が低い白いうさ耳パーカーを被った黒髪長髪の女の子でした。

 そうこれが愛理さんとの出会いでした。

読んで下さりありがとうございました。

一応今回でこの番外編は閉めるとして明日からまた本編に戻ります。

シホさんは色んな人に迷惑かけ気味ですがそれでも自分で努力しようとするそんな精神の持ち主です。

まあ腹ぺこキャラという立ち位置は変わりませんが。

本編でも度々また空腹で倒れたりしますが、それでも「またかよ」程度な気持ちで読んで下さると嬉しく思います。

次書くとしたら今書いている章が終わったくらいでしょうかね。そのタイミングでまたこの章を書くかもです。ではではまた明日お会いしましょう。

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