93話 うさぎさん達と魔法大都市 その3
ちょいとスーちゃんの実家でお泊まりです。
ママンが天然なので悪しからず。
【二次元に出てくるママンキャラは大体美人じゃね?】
「あ、見えてきましたあそこです」
街灯が照らす夜の魔法大都市グリモア。
スーちゃんの家に案内される途上、街中には食事をしている魔法使いの姿が大勢見えた。
横溢とした渦の中、人々は杯を交わし言談する。
鼻が咽せそうなアルコール臭がぷんぷんするが、私は辛抱し前へと進む。
あまりにもにおいが強烈なため、鼻を腕で塞ぎながら進んでいるのだが行き交う人とぶつかり合うことにまた一苦労。
泥酔する人にぶつかると。
「あ? んだぁおらテメェ? 人とぶつかり合ってよぉ〜つうかおまえ〜変な格好しているが何歳だあぁ?」
話したくもない酔っ払いに話しかけられる。あぁめんどくせぇ。
軽くその黒いローブを着た男の方を振り返りガンつけして答え。
「知らねえよ。こんなに人がいればぶつかるのも仕方ないと思うけど」
現に数は即売会並みの数ぐらいだった。
永遠と続くぐらいの人だかりは私達の行手を塞いでいる。都会に住んでいた私が答えるのだが人との接触は避けられない道。いや逆に考えて当たらずに進むとかそれなんていうクソゲー? ブラウザにそういうストレスを溜めるようなゲームもあったけど無理だからおっさん。
「なんだとぉ? 偉そうな口叩いて〜。どれパンツの1枚でも取ってやろうか‼︎」
「ちょっと愛理さん! 街中でこういうことは」
杖みたいな物を振り何かをしようとする謎の酔っ払い。短い杖の先端が淡く光り。
これまさか着衣しているあれを盗む気では! だめだ自分の身を守るためにも……。
軽く拳を前に突き出し攻撃体制に。一歩踏み込んで軽く深呼吸。
と後ろから力強い圧抑を感じるのだが。これは。
後ろから身構える私の手を掴んできたのはシホさん。彼女の顔を睥睨すると愁眉を寄せ不安な顔をしていた。
あやべガチで困っていらっしゃる。
「いや迷惑かけない程度に攻撃しようかと」
「だめですよ! 確かにあの方酒に酔い潰れていますけど無益な争いは。余談ですけど私お酒は飲めないです多分周辺のものほとんどなくなっちゃうので」
いや飲めないんかい‼︎ まあ私も飲めないんだけど。
この世界にも傷害罪みたいな刑罰があったりする? あの数十万円なんて払いたくねえんだけど。張り紙に“WANDETED”と書かれたりしてね。懸賞金いくらだろ強すぎて高くされそうだが。
「大丈夫大丈夫! 軽く気絶させるだけ」
「だめです! だからあの……って」
私を止めようと必死で言葉を紡ごうとした彼女だったが、突如として白いローブを身に纏った人が目の前に現れ、男を魔法で生成したヒモのような物で縛り付け。
「グリモア協会の護衛である! 街中で卑猥な魔法の使用は固く禁じられている! よってあなたを連行しますさあきてもらいましょうか!」
颯爽と現れたグリモア協会の護衛と名乗る人が数人、彼を囲むようにしどこかへと連れていく。
「なんだあ! ゴラァ! 話し足りねえぞ俺はぁ〜」
「あぁこれ酔い潰れていますね。護衛長にあとはなんとかしてもらうことにして」
あれがこの世界における警察なのだろうか。
とりあえちょうどいいタイミングで割り込んでくれたし、こちらとしては好都合。
幸いこちらを警戒する視線は向けられず、男を連れて姿を消す。
「た、助かったのか?」
あれがスーちゃんの言っていたグリモア協会というこの街を守る組織なのだろうか。
清楚な身だしが特徴的だが、見た感じ敵に回さない方がいい感じがした。
「行ってしまいましたね。……それはそうとだめですよ暴力で解決しようとするなんて」
「う、うん用心する」
「……何やってるんですかお二人とも。こっちですよ。人混みが多いので道に迷わないように……っと」
後ろを振り返るスーちゃんがこちらを向き、迷子にならないよう声をかけてくれる。
隣でミヤリーが小幅で歩いているけど、すぐ死んでしまわないか後先心配。アイテムの補助があるのでその点に関しては大丈夫だけどね。
2人を追いかけ先に進み。
この街にもギルドになる施設がいくつも並んでおり、向かう最中にクエストの受注紙もあった。そこのところはリーベルと同様か。
話を戻し。
小歩で夜道を歩いていると街の通りにある隙間を通ると、大きめの路地にでた。雰囲気は先ほどと似てはいるが人数が少ない。住宅街といったところかな。
住民が住まう家屋が仰視すると林立していた。連綿と続くようにして。
そこにぽつんと森にありそうな一軒家が。
ガーデニングぽいツタが、家全体を囲み自然な空間を作り出している。花園に関しては守備範囲外だが、心安らぐ外観の佇まいだ。
2階建て中世風の一軒家。ファンタジーって感じ。
普通の女性ってこういうの好きな人多いよね。私は全く興味ないから独創的な感想は述べられないが一言で表すのならば居心地がよさそうな景観だ。
「ナチュラルな感じしていいですね。スーさんのお母様はさぞお美しい方なのでしょうか?」
シホさんが隣からまた耳打ち。
一家揃ったらどんな家族なのか、それはとても気になり。子供がこんなに可愛いのだから母親はそれにいて可愛い可能性大。
「うーん綺麗な感じの家だし凄い人なんじゃない? 私こういうのよく分からないけど大体これ好きな人に限って綺麗なんだよね見た目が」
「私は他人の家にお邪魔するのは初めてだからワクワクするわ」
「……あぁもうみなさん。待ちきれないのは分かりましたから、立ち止まってないで行きますよ!」
スーちゃんがせっせと、その家へと歩いて行きドアの前に立つ。
少々の間を置き拳で軽くトントンとそのドアを叩く。
「はーい! どなたかしら?」
「どうしたの? お母さん? まさかお姉ちゃんが帰ってきたの?」
「イルシィ気が早くはないか。ステシアが旅に出てからまだ1年も経たないぞ?」
なんかドア叩いただけで中では突如考察会議が始まった。
1人は幼げな声の女の子。そういえば随分前妹がいるとか言っていたね。
つまり4人家族。
げ、私の家族と同じ数か。賑やかっぽい感じがいいというか。
「イルちゃん、め! よ。とりあえず出てくるからお願いね」
「はーい!」
足音が次第に近くなっていき、こちらへと音が迫ってくる。軋む音を弾ませトコトコと。
数秒の静寂の後。
そのドアは古めかしい木の音を立てながら開く。うぅこの音私苦手なんだよなぁ。
「あら、スーちゃん? おかえりそれとそちらの方は」
扉から現れたのは。
ウェーブのかかった白髪が特徴的な大人の女性。少々胸の膨らみがありほんわかとした感じで歳を取っているとは思えない若々しさ。大丈夫かこれ年齢詐欺入っているんじゃ。困惑。
スーちゃんはその人にたいして。
「……ただいま。ちょうど寄る機会があったので寄りました。こちらは私の仲間です」
彼女の名前はリーシエさん。
この国の凄腕魔法使い一角で、スーちゃんの実の母親。
にしても外見に似合わず若々し過ぎる。
そんな老けない魔法でも使っているんじゃないかと、疑惑が持たれるようなリーシエさんに案内され私達は家の中へともてなされた。
☾ ☾ ☾
【実家のような安心感ってこういうことを言うのかな?】
内装は木製の家具の多い家だった。私の思っているような魔法使いの家という感じで。
窓辺や玄関、壁際の方に花鉢やなどが飾られている。
インテリア……プラスチック製ではない本物だ。百均に売れてそうな質素な物じゃあない。ガチやんけ。
風通しの良さそうな出窓の後ろに横長のテーブルが置かれている。各方向には椅子が数台置かれており、私達は窓側の席へと座る。
「ええとあなたが愛理さん? 娘がいつもお世話になっていますリーシエと言います」
「愛理です。この女戦士さんはシホさんで、黒服が特徴的なこの子はミヤリーです」
それぞれ私が手を招くと軽く会釈。
ていうかミヤリー尖った目つきで私をみんな。変な自己紹介して悪かった悪かった!
やっべ自己紹介ってこんなに緊張するものだっけ。
普通に会話するつもりが滅茶苦茶緊張気味な愛理さんです。SAN値が大ピンチ!
とはいえ、スーちゃんのお母さんなんで私のことを? 初対面のはずなのに知人の同様に応対してくれる。
……これが大人というものか?
にっこりとした顔を浮かべているが、なんだこの人から感じるただならぬ強者感オーラは。
よもや“普段は戦わないけどいざ戦ってみると手が出せなくらい強かった”的なキャラなのではと私の感知センサーがそのように警告信号を出していた。
ゲームでいうすげぇ強いNPC。序盤で同行するキャラが仲間より圧倒的に強くプレイヤー側からしたら自ずと欲しくなるそんな人物なんじゃねと。
「娘がいつも手紙で送ってくれている中の内容で愛理さんのことがよく出てくるからあなたのことはしっているわ。……それにしても本当に可愛らしいうさぎの服装で」
リーシエさんは私の服をじろじろと見始める。
変な魔法使われて操られたりしないか? 凄腕の魔法使いならそういうこと造作もないと思うが。
テーブルの上には美味しそうなクッキーとビスケットがバスケットに置いてあるけど睡眠薬とか入ってないよねこれ。
余談だが、クッキーとビスケットは同じ意味で使われるがお菓子業界では糖分と油分の量によって、名前が変わるらしいですよ奥さん。
「……お母さんあまり愛理さんをジロジロみるのやめてくれませんか」
「あらごめんなさい。とても可愛らしい服装だったから」
「ステシアにこんないい仲間がうぅ。」
横で1人泣くスーちゃんのおとん。
結構うたれ弱い系の人だろうか。
隣に座るのは、本を読む少し小さめのスーちゃん。
この子が彼女の妹? 愛嬌がある感じでスーちゃんと比べて少々断髪だがとても可愛らしい。
「うさぎさん、その服可愛いね! それあとでかーして?」
「あ、うん。時間があったら…………ね?」
「……こら、イルシィ。愛理さんが困っているのでそういうことは言ったらだめですよ」
「まあまあスーちゃん。今日はお泊まりに来たのよね? ……いいわ2階が空いているから自由に使うといいわ」
リーシエさんの心遣いもあり無料で寝床を貸してもらった。
こうなったのもスーちゃんのお陰でもある。この恩はいずれか返すことにして彼女の母親には感謝しないとだね。
にしても考えなしに人に部屋を貸すなんてお人好しな人だなあ。未だに微動だ様子を変えていないのだが、この余裕はどこから来るのか。絶対的な自信がないとこんなことはしないだろうがうん、わからん。
「お腹が空いているでしょそら」
「うおっ!」
そのときとんでもないことが起こった!
リーシエさんは杖を一振りすると、私達の目前に豪華な料理が現れる。ローストチキンからグラタン……その他もろもろと。
食欲を唆らせる香ばしい匂いがテーブル上に充満する。
煮立つ音と鉄板に焼かれる肉の音がまた。やべぇもう気がどうにかなりそうだぜ。
幻覚とかそういうものではなく、本物で間違いない。
ワンシーン区切る間に一体何があったのか、それはつっこまないことにしておこう。ネタバレってなんかつまんないじゃん。
すっげえ魔法だな。一瞬でワープさせて。
ってどこから持ってきたんだこれ。
まあそこは言わないお約束か。
「どうぞ遠慮なく食べてもらってかまわないわ。あとスーちゃん旅のお話も聞かせてね」
「私も聞きたーい」
というわけで私達は食事を摂りながらスーちゃんの話を聞くこととなった。
☾ ☾ ☾
食事をしながらスーちゃん一家と言談を交えた。
これまであった出来事や、彼女の経緯までつぶさに。
その中でスーちゃんは私達と出会う前に起きた話を平明にしてくれた。
スーちゃんの経緯はこうだった。
近くにある洞窟で杖を取ったら、存在が薄くなる呪いをかけられ散々な目にあったこと。
そのせいで中々人に気づいてもらえず、入国が非常に困難だったことも。逐一丁寧に話した。
というかこんなにたくさん話しているスーちゃん初めて見たかも。
「なるほどね、なんか悪いことしちゃっわね」
「……え、どういうことですかお母さん」
こっちが聞きたいよ。いったいどういうこと。
リーシエさんはやってしまったなみたい顔を浮かべる。この顔は何かやらかしてしまったときにする顔だ。
申し訳なく少し言いづらそうにする様子をしていると、彼女の方を見て意を決し話す。
「あのねスーちゃん。その……存在が薄くなる呪いを封じ込めたのは私なのよ」
は?
今なんと。
「……え、そんな」
驚愕するスーちゃん。
まさか実母にそんな呪いをかけられていたなんて予想外。そんな顔をしている。
今明かされる衝撃の真実ぅ!
「……どうしてそんなことしたんですか?」
「ええとね」
リーシエさんは衝撃の事実を語る。
「だってスーちゃんって小柄だし、ぐへへな男共に何かされるかもしれないじゃない? ……そうなったらだめだなと思ってあんな呪いを作ったのよ。……本当は悪者だけを弾く特効薬になるはずが……まさかこんなことになるなんて」
「……お母さんお節介ですよ!! それ」
Oh。まさかの加減をしくじった系のやつ。行為だぞ? 親が子を守りたい気持ちは痛いほどわかるが子供からすればそこまですることかと不安にさせる件である。
同情するならそりゃお節介のしているように思えるわけ。あぁ家族って大変だなぁ。
「……それ治すことってできます?」
「あぁごめんねスーちゃん。治し方まではよく分からなくて」
「はあお前なぁ。ステシアが困るようなもの作るなよ」
「あなた、これはスーちゃんのことを思ってやったことであって決して虐めているわけでは」
少々夫婦との間で喧嘩が。
隣に座る父親がリーシエさんを諌める。
それに対しリーシエさんは自分は無実だと言い訳をするが。
「なんか気まずい空気になっていません? 2人向かい合って口喧嘩始めましたよ!」
「す、スーちゃんいいのかしらこれで。部外者が間に入っていいのかわからないけど。で、できる?」
口論中の夫婦2人に対して、スーちゃんは唸るような声をあげて眉をひそめ。
苦そうな顔をし仲立ちする。小柄にも関わらず意外と家族に対しては積極的?
「……あぁもうお父さんお母さん! 喧嘩は控えてくださいよ。じ、自分で探しますからこの呪いの解除法を」
「あらそう? まあスーちゃんならすぐできるわよ」
気の転換の早いリーシエさんは彼女の言葉によって口論をやめるとスーちゃんを振り返った。
無頓着なのかなこの人。
先が読めない性格だが、そこまで増長しない冷静に対処できる魔法使いなのだろうか。お父さんも口を黙りこくり彼女の方を見ているが。
「と、止めたわね」
「止めたね」
「止めましたね」
口を揃えて成り行きを3人で傍観する。
あれ、私達の方がスーちゃんよりこれは空気じゃね!?
深くため息を吐いて、やれやれとした様子を見せるスーちゃん。
相当参っているみたいだな。複雑な事情を抱えている家族だと悟った私は改めて彼女がどういう人物か理解する。
呪いを解く方法ねぇ。彼女は愚か他のみんなだって未だに見出していないと言うのに。
なんだかまた1つ余計な仕事が増えたような感覚だぜ。
時計を仰視すると22時前。
「あらもうこんな時間。スーちゃんそして愛理さん達、今日はもう遅いですし話はここまでにしてお風呂沸いているんで入ってゆっくり浸りください」
まさかの風呂も用意してくれているとは。
いつの間に作ったんだリーシエさん。さっきから席から離れてなかったけど。……ってイルちゃんがいなくなっている。眠くなって寝ちゃったのかな。
「私はこれからイルちゃんの子守に行くから。スーちゃん、夜更かしはだめよ」
「……わかっていますから! こ、子供扱いしないでください」
「はいはい」
リーシエさんは立ち上がり階段へと登る。
少し進んで一旦止まり、何か言いそびれた彼女はスーちゃんに一言こう告げた。
「あぁスーちゃん言い忘れてた。友達のアンコちゃんがあなたのこと探していたわよ?」
アンコちゃんって誰!? 餡子? アンコウ? なるほどわからん。
その夜。明き部屋となった大部屋で私達は寝泊まり、その日を終えた。
謎の人物アンコちゃん? 誰か分からないが明日を含めて旅行は残り2日か。
出し抜けに登場したスーちゃんの友達と思わしき知人は果たして何者か。
スーちゃんに明日聞いてみるのもいいかもしれない。
魔法大都市グリモア。気になるところたくさんあったしまた彼女にお願いするとしようか。それではノシ。
「なんか家族っていいなぁ」
とぼそっと呟く私なのだった。




