82話 うさぎさん達と変わったやつら その3
【棒人間強すぎる説これ重要】
子供の発想とはときに計り知れないものである。
未来の自分自身が見たら「あ、これあのときの黒歴史じゃん」と在りし日の物をみると自ずと思うこともしばしば。
私達の前に現れた棒人間。
なぜこの世界に棒人間がいるんだって話だが、大抵狂政案件だろう。
でも一概にも……断定できない。
と信じたい。確信は持てないのだが、間違いなく敵は異常な生命体だと私の勘がそう言っている。
「やべえよやべえよ。この世界ほんとなんでもかんでもありだな!」
「ところで愛理さんあのモンスターはご存じで?」
「……確かに。ああいうモンスター愛理さんよく知っていそうですからね」
「なあに私は物知り前提で話進めてんの……ていうか今はそれどころじゃないでしょ。……ほらあそこにミヤリーが……って」
ミヤリーを1人で戦わせまいと私含む。スーちゃんとシホさんで彼女の元へ疾走するがごとく駆け寄る。
そこは既に戦闘中であり。場が既に混沌と化していた。
比喩的な表現とかそういう意味合いではない。ちゃんとしたガチ成分が豊富。
「うげ、なんかすげえことなってるんだけど!」
「……やってますね」
彼女と棒人間は、周囲を荒れ地にしながら拳と銃それと剣をぶつけ合いながら戦っていた。
混じり合う剣と剣。刃が混じり合う度に金属の反響音が木霊とする。
え、あの棒人間さん? その体って鉄でできていたんですか!? あの先ほどはあっさりもげていたような。わかんね。
「ふん! この」
ミヤリーが空中で剣を振り払い攻撃を仕掛ける。棒人間をスっとかわしてミヤリーの背後へと回った。
腕部分を長く伸ばして彼女を尾行し距離を追い詰めようとするが、悠々とかわす。
「あぶないあぶない。まあ今の私にはどこから攻撃されようが死なないけどね!」
彼女の背中に手を当て、手の部分を槍へと変形させ彼女をなぎ払う。
落下するミヤリーにバズーカで飛んで追加攻撃。中くらいの弾丸が直弾したのちに破裂。
だがそんな高火力な弾丸によって爆風が発生したにも関わらず、彼女は煙を剣で振り払い棒人間を鋭い目で睨み付け。
「なんのこれしき」
痩せ我慢ではない。動じないくらいにミヤリーは平然だった。
怯みもせず、バズーカの砲弾を下の方へと払い落とす。
1箇所またクレーターができあがる。
「っと。あぶな!」
辺りにはあちらこちらとクレーターができている。
私達がミヤリーを見守っている位置から数メートル先の地面に落ちたので、あともう少し近かったらここまで被害が及ぶところだった。
2人は私を殺す気だろうか。
まあそれは全部2人の攻撃がぶつかり合った衝撃の結果。
多少の被害は……って今度は近い。
「おっとあぶな!」
偶然にもこちらに直進してくる球が向かってきた。
反射的に力の込めた拳を叩きつけて。
「ラビット・パンチ!」
ドゴーン!
爆発に巻き込まれるが、私を含む他2人は無事だった。……ラビット・マントの効力で威力が半減されているためなのでこちらは無傷なのだ。
普通のチキン野郎なら避けて難を逃れようと試みるだろうけど、それだと被害が及ぶ。ほらよく山火事とかきくじゃあないかああなると私達が後々悪いように言われそうだしそれもある。
「危ないところでした。頑丈ですね愛理さん」
「小石を投げつけられたくらいの弱い傷みだよこれは」
「……あのモンスターふざけた見た目の割には、とんでもないモンスターですね。現状強さはミヤリーさんとほぼ互角でしょうか。……差が分からないほどにお互い1歩も引いていません」
するとこちらに気づく棒人間。
やっべ襲ってくる気だぞあいつ。
ずらっと走る私達の方を見る棒人間は、視点を変えこちらをまじまじと見つめ始める。(目があるかは分からないけど一応あることにしておく)
こっち見んな。
棒人間は私へ緊急接近し、両腕を手の形状へと変え猛然とした攻撃を仕掛けてくる。
「ちょっと! 私との勝負を放棄するとはなにごとよ! 正々堂々向かってきなさいよ! ……あ、いっちゃった」
聞く耳を持たず棒人間はこちらの方へと小刻みにダッシュしながら間合いをつめて来る。
俊敏な速さに目が追いつかないくらいに素早く私達との距離が狭まり。
シュッシュッシュ。
素早い棒のパンチが私を襲う。造作もなくその攻撃を避けるが敵の攻撃スピードは相当。
なんというか油断も隙もない、1つ1つが無駄のない攻撃で正確に私の体目がけて攻撃が飛んでくる。
横からシホさんが棒人間に、剣を一振りをし連続攻撃を止めるが。
「なッ。腕が剣に」
また腕を別の武器へと変形させる。
今度は剣。
攻撃を受け止めて、シホさんと力の押し合いを始める。
だが押し合いになったとはいえ、彼女が一方的に押され気味で徐々に彼女を後ろへと引きずっていく。
あのシホさんが力負けしているなんて、相当なものだぞ?
ならばと私はストロングへとパーカーを変え、棒人間の剣を背後に回り力強く掴んだ。
「おい」
私の力一杯のエネルギーを流し込み。
「おりゃああああ!」
剣を破壊する。
粉みじんになるくらいの力を流し込んだが、完全消滅には至らず片手が欠損した状態になりながらも回避してみせた。
こいつなかなかやるな。
棒人間は一旦引き下がり、次の攻撃に備えようとするが。
「……かかりましたね!」
棒人間のいた場所に、巨大な魔法陣が現れ出る。
どうやら先ほどシホさんと張り合っている合間に、スーちゃんが魔法陣を貼ってくれたようだ。
魔法陣からは渦巻く業火が発生し、棒人間を飲み込む。
火渦が収まると、ボロボロに成り果てた棒人間が。
だが直ぐさま欠陥した腕の部分を再生させ元通りに。
もろともしねえじゃねえか。
再生能力とかこれこそチートだろ。……しかも数秒も置かず一瞬で完了させてみせた。いや卑怯ゲームのNPCでもそんなクソ技やってこねえぞ。
「……あの攻撃を食らってもあの程度とは。もっと強い魔法を使った方がいいかもしれないですね」
「スーちゃん、魔法の使いすぎもよくないと思うよ」
無駄遣いするなと忠告するように言う。
「……それもそうですね、ここで全部魔力がなくなってしまっては元も子もないですし」
私の言ったことに理解した彼女は身構えた杖に魔力を溜めるのを止め攻撃を中断。
温存って大事だからね。いざ魔力がなくなったとしたら過酷な薬草生活が余儀なくされる気がしてね。これは私の経験談。
「スーちゃんは、補助に回って。回復とかその辺お願い」
スーちゃんは頷く。
と地上に降り立ったミヤリーが、棒人間の後ろにいく。
「こっちよ」
黒いオーラを纏ったミヤリーの漆黒の剣が、棒人間の体を宙に上げた。彼女はその絶妙のタイミングを見計らって渾身の大技を放つ。
両腕に持つ2本の剣に黒いオーラを増幅させ、強大な黒い剣にそれをまとわせる。
地響きする大地。
それは彼女の技に呼応するかのように反応だった。重ねた2本の剣を宙に向けて大声で解き放つ。
「漆黒の黒炎斬!」
解き放った漆黒の斬撃は、棒人間を的確に捉え仕留める。
にも関わらず。
「しぶてぇな」
ミヤリーの強大な技を食らっても再び立ち上がる。
みんなが私の元へと集まって、目前の棒人間に対峙する。
ったく棒人間1匹になにてこずっているんだろ私達。
棒人間ってこんなに強かったっけ。
いや絶対こんなに強くなかったから。
多分。
「……どうしましょう卑怯なことに手を色んな武器に変えてきますし厄介です」
「おまけに再生能力も備わっていますね、あれでは仕留めようがありませんよ」
「私も、力一杯の技を使っているはずなのに、なんでビクともしないのよ」
みんな「詰みです」的な言い回しで打つ手なしという状態だった。
「シホさん、あの技使える?」
こうなったら奥の手だ。
シホさんのあの技を使ってあの棒人間を蹴散らしてもらおう。
「いいですよ」
よっしゃきた。
「と言いたいところですが」
がっ!
言い直した直後にずっこける私。
「勿体振らなくていいよ! 正直な事だけいえばいいからさ!」
「お腹空きそうなので無理です、それにできたとしても被害甚大で山の向こうにある街まで影響が及びそうです」
シホさんのお腹はなんだ? 危険信号かなにかキャッチできる能力なの。
「なので愛理さん」
みんなが私の方を見つめる。
なんだよ、その頼みますみたいな顔は。
目に見えている展開だが。
「あとおねがいできますか?」
ほらなやっぱり。
結局お約束なんかねこれ。
ふう。
これもうさぎの宿命か(わからんけど)
でもこのままイタチごっこするぐらいだったら、私が戦った方がマシだよね明らかに。
「あぁもう任されたよ」
頭をカキカキしながら前に出る。
棒人間は私の方に飛んできて、再びラッシュを仕掛けてくる。
ならここは。
パンチならパンチで返してやるのが礼儀だろう。
ストロングによる剛力のパンチが、棒人間の手にぶつかり合う。
ラッシュの拳1つ1つにパンチがぶつかり合い反発しあった。
力は同格。
殴り合っても同等の力量で、拳で跳ね返す余裕もない。
つうか。
棒人間の癖に生意気すぎ。本当にお前棒人間かと疑いたくなるレベルだ。
ドスンドスンとぶつかり合い。
瞬間移動しながらまたしてもパンチのぶつかり合いが発生。
こいつやりよるな。
幾度にも及ぶ、パンチのぶつかり合いに。
中々ケリがつかず私も少々手詰まり状態。
どうしてこうなった。
棒人間相手になに苦戦しているんだ愛理。
後退りして、拳を身構えながら策を考える。
無効化の能力は……あまり意味ない気がするな。
これといって耐性らしい耐性は見受けられない。あるとすれば再生能力ぐらいだが。
考えを巡らせ慮る。
この棒人間を負かす打開策を。
(なんかねえかな…………)
棒人間はこちらの出方をうかがっているのか、じっと身構えながら攻撃を待っている。
正々堂々と戦いたいのかコイツは。
もしくは舐めプされている可能性も。
わざとこちらに合わせているとか、そう言う考え方もできるが。
というか本当になんか策ないかなあ。
と。
ある技を思い出す。
そういえば、このストロングパーカーには。
反則技があったな。
【チートにはチートを反則には反則を(不正ではない)】
「よし試してみるか」
策がまとまると私は利き手に力を込めた。
殴り手が発光し燃えさかるような拳へと変色する。
本当はあまりこの技は、使いたくなかったけど相手が相手だ仕方あるまい。
光る拳を握りしめながら、私は地を駆けていく。棒人間との距離はほんの数メートルほど。パーカー少々遅いせいで鈍足にはなっているものの十分だ。肉体感覚なのだが追いつけているぐらいの速さは出せている。
こちらの動きに合わせて棒人間も走り出す。
駆け出し互いにぶつかり合うその刹那。
棒人間がグローブ状に手の形を変え殴りかかってくる。飛びかかるようにしてきて。
今だ。
私はその場でかがみ込み、隙となっている腹部に的とし。
「へへ……うさぎを舐めんなよ棒人間が!」
その技を高々に宣言した。
一言で言えば反則技。
チートだとか変な事言われそうだけどこれなら。
「必殺……粉砕パンチ!」
相手は死ぬ。
棒人間はそれを食らった瞬間完全消滅。
跡形もなく崩れ去った。
☾ ☾ ☾
ほどなくして。
ようやく先へと進めた私達は通り道を進み、街へと進んでいた。
スーちゃんが言っていたように、モンスターは1匹も出ず気楽に歩ける。
進みながらみんなは私に。
「それにしてもびっくりしましたよあのパンチ」
「そ、そう?」
「……ですです。あのモンスター一撃で消滅しましたよ」
「私に出来なかったことを愛理、あなたは平然とやってのけた。そこにしびれ憧れもするわ。悔しいけど」
どこで覚えたそのセリフは。
うんうんと頷いているけど、何自分で納得しているんだよ……ったく。
「まあちょっとした手品さ」
「て、手品!?」
一同に声を揃え驚愕する反応をとる。
いや厳密には違うんだよ。
チートよチート。
興味津々に3人は私の方を見つめ、何か物欲しそうな目をしていた。
はあ嫌な予感しかしない。
「ねえ愛理、その技教えて」
「しかし愛理さんは断る!」
開口一番に率先し言ってきたのはミヤリー。
当然私はそれを許す事もなく否定。
「ミヤリー、作品的にアウトだと思うから自重しような。……それとみんなも。あれはちょっとした見せものみたいなものだから頻繁に使うようなものじゃないよ」
当然言い訳ですはい。
シホさんが『そうですか』と理解した様子をみせると、その場はそれで丸く収まった。
そしてようやく通り道を抜け、例の武器のある街へと歩みを進めるのだった。