3 噂
店で働く女達は華女と呼ばれ、大きく三つに分けられる。
自分の部屋を持つ女は姉と呼ばれ、その下で手伝いをしながら指導を受けるのが姉付きだ。
中でも姉に見込みありとされれば、妹として姉の横に座ることを許され、時には個人で客を取ることだってある。そこである程度の客が付けば、部屋持ちとして認められるのだ。
同じ姉付きでも妹ともなれば待遇は大きく変わってくる。
綺麗な服を着て客に愛想を振り撒いて稼ぐか、掃除や洗濯等の雑用をこなしながら地道に稼ぐか。
ここにいるほとんどの女達は、売られた時の借金を返すために働いている。
時々タンバのようにこの仕事に誇りを持ち、店に居続けることもあるが、多くの女達は違う。売られた金を返すため、自由になるために働いている。
妹になれば幾らか給金も上がり、部屋持ちになれなくても少しは早く自由になれる。
ただ妹になれるかは姉次第。姉付き達を平等に接する姉もいれば、贔屓する姉もいる。
そうなれば皆が姉を慕うとは限らない。扱いが酷ければ尚のこと。
数いる姉の中でもマオシャは評判がいい。優しく面倒見の良い彼女は姉付きや妹だけでなく、他の姉達から慕われている。
そのマオシャが推薦したのがリャオだった。自尊心の高い彼女が部屋持ちになれたのは、ひとえにマオシャのおかげと言ってもいい。
不器用な彼女に客との接し方、あしらい方を一から教え育てた。その甲斐あってリャオは異例の速さで部屋持ちになったのだ。
二人は本当の姉妹のように仲が良く、リャオは誰よりもマオシャの事を慕っていた。はずだった。
いつからかリャオの様子は変わっていき、それが今ではあの有様だ。
明らかな敵意を見せ始め、誰もがマオシャとの力の差に嫉妬しているのだと考えた。
このままでは半月もせずに格下げになるだろう。
そうなれば、また一からやり直さないといけない。
リャオが何を考えているにせよ、与えられた仕事に見合った働きをしようとしないのなら、それで客が減ったとしても自業自得だろう。
表の人通りが増え始め、店が賑わいを見せてきた頃。暇を持て余したリャオ付き達が服の直しをしていた。
先ほど着ていた服なのか、所々酷くほつれている。
そんな彼女達の口から出てくるのは、聞くに絶えない陰口ばかり。それは誰でもないリャオに向けられたものだった。
姉付き達は、どちらが酷い扱いを受けているかと競い始める。馬鹿馬鹿しいと場を離れようとした時、ふと耳に入る話に少し興味が湧いた。
「まあ、お姉様があそこまで必死になるのもわかる気がするなー」
「あの噂が本当なら、格上げするかも知れなかったからね」
離れようとしていた足が元の道も戻ったのは、ダンのちょっとした好奇心が疼いたせいだった。
「噂って何ですか?」
十日程前から街の華女達の間で、ある男の話が広まっていた。
都から一人の男が夜な夜な店を訪れては、一晩で大金を使っていくと言う。
それだけならさほど珍しくもないのだが、その男は目の肥えた華女達が夢中になる程の美形だという話だ。
しかも顔を隠す装いで、買った女の前でしか顔を見せない。
名前のないその男が次の店を決めた時、店の前にしばらく店を眺めては、次の日現れて大金を使っていくのだと、姉付き達は話してくれた。
「なんでも運命の人を探してるんだって」
なんとも愉快な話だ。
男の噂自体は以前に聞いたことがあったが、その時聞いた話と違うのはこんな街だからだろう。
「それでね」
ダンは話の続きを聞いて少し驚いた。
その男が昨夜店の前に居たのをリャオが見たらしい。そしてリャオに気づいた男は手を振って帰って行った。
噂通りだと今日その客が来るはずだからと、あの酒を頼んだそうだ。
もし噂が本当だとしても、店の前にいたのがその男か定かではない。
そんな噂でさえ信じてしまうほどに追い詰められていたのかと、記憶にあるリャオ表情を思い出す。
今のリャオに余裕がない事は確かだ。
顔も名前も明かさず、正体不明の金持ち男。
そんな怪しい男にどうして夢中になれるのか、ここにいる女達の考える事は何年一緒にいてもわからない。