(8)
「ほれ、着いたぞ」と村長は時計台の前でそう言った。
タツミは魔時計を下から見上げた。銀色に輝く魔時計はとても大きくこの街を見下ろしているようだった。時計塔、全体に色とりどりの悪魔の絵が彫られていた。
ふと足元を見た。そこには青い敷き石が並んでいる。
ちょうどタツミの下にある石に何か書かれている。タツミはしゃがんで石に書かれている文字を読む。
「この天秤は大天秤である。by.クーラの天秤師、均整師、先導師、戦術師、結界師。パンドラ歴15年」そしてその文字の下には丸い窪みがあった。
タツミはその文字を読んで笑った。
「そっか…クーラの…ハハハ」
「どうかしましたかな?」と村長が言う。
「いえ、何でもないです。これから、均整を取るので出来るだけ離れて見ないようにしてください。この街は光が強いので直視すると目が見えなくなります」とタツミ。
「わかりました。」と村長は言って時計台から離れた。
タツミはフードを被ったまま短い横笛を取り出して敷き石の文字の下の窪みを押す。
すると、金色の天秤がタツミの前に現れる。天秤の左側には薄い灰色の丸い塊がのり、右側には光輝く丸い玉が乗っている。
ラィヤとリィヤが待っていました!というように天秤の上に飛び乗った。
「ラィヤ、リィヤ、準備はいい?」
「オーケー」と二匹が言ったのを確認してタツミは横笛を吹き始めた。
魔の時計台を見つめながら…タツミはこの時計台を作った人物を知っていた。
今は亡きクーラの英雄である。彼らはパンドラの揺り篭でタツミを守って死んだ。
タツミの目から涙が溢れ落ちる。
「タツミ…もう均整取れたよ?」とリィヤがタツミの隣に来て言ったが、タツミの笛の音は止まることはなかった。
タツミの笛の音はやがて地上まで響き渡り、この街全てを包みこんだ。
タツミがやっと笛を吹くのを止めたとき、金色の天秤の前には青いマントを身に纏った青年が金色の天秤を眺めていた。
「ちょっ…まだ、安全レバーしてない…」とタツミが呟くと青年はタツミを見て何もなかったように、天秤についている安全レバーを下げる。
「えっ?なんで?安全レバーは普通の人じゃ下げられないはず…」とタツミが呟くとその青年は頭に被ったフードを取って「私は天秤師ですから、おまえより天秤のことを知っていますよ」」とタツミを緑色の瞳で睨み言った。
天秤師とは天秤を修理したり新しい天秤を作ったりする技術者のことである。
「ああ〜かなり、この天秤痛んでいますねぇ〜」と天秤師は天秤を見ながら呟いた。
「この天秤の均整は終わったんですよね?あとは任せてください」と天秤師は首にかかっている天秤のペンダントをタツミに見せつけながら言った。
そのペンダントは天秤師だけが持つことを許されるペンダントである。
「…分かった、あとは任せる」とタツミはそう言うと、地上に上がる階段に向かって歩き出す。
「ねぇ?君、均整師なんだね?」と突然、タツミの前に白いマントを纏った先導師の少女が現れて言った。
タツミ顔を上げて少女を見る。
「凄いねぇ?闇も光も操ることが出来る均整師なんてそうはいないもんねぇ?」と彼女は笑った。
「あの少年はちゃんと闇まで連れて行ったのか?」とタツミ。
「ええ。もちろん!ねぇ?もう外は夜よ、今日は泊まっていくべきね」と少女は言うと村長の家にタツミを連れて行く。
村長の家にタツミを連れこんだ。
「おぉ!均整師様も泊まって行きますか?」
タツミは少し考えて
「はい。お世話になります」と頭を下げた。
夜に地上へ出るのは均整師にとってかなり危険なのである。
その日、タツミとラィヤとリィヤは村長の家にお世話になった。