(4)
神時計の中から人型の黒々とした闇が出てくる。
「ラィヤ!!」とタツミは隣にいる黒い犬を呼ぶ。
「分かっている!」と黒い犬は叫ぶと闇に向かって飛びあがり、闇の中に消えて言った。
「リィヤ!!」とタツミは次に隣にいる白い犬を呼んだ。
「ワン」とリィヤは犬らしい返事をすると闇の中をクルクルと周り出した。
タツミは左手首を掴みながら目を瞑った。
闇がどんどん大きくなりタツミの周りを囲んでいく。
「我、クロームの意志と均衡師の契約により光を召喚する。今、クロームの元へ神の矢!!」タツミはそう唱えると目を開けた。
銀の光と共にタツミの手に銀の弓矢が降りて来た。
タツミはそれを闇に取られる前に装備し、目を凝らして闇の中にあるラィヤの一部だけ白い尻尾を探した。
タツミの右の方で白い塊が光っている。
彼はその光にめがけて闇の中で矢を飛ばした。
光の矢を打たれた闇は苦しみながらタツミの口の中に入り、肺を支配した。
タツミは呼吸ができなくなる。
闇はその冷たい手で、タツミをの体を締め付けた。タツミの腕から血が溢れる。
やがて、矢の威力が効いたのか闇はゆっくりと薄くなって消えて行った。
タツミは苦しみのあまり地面に倒れ込みながら、肺から闇が抜け出すのを待った。
闇が全て抜け出すと、タツミは息を吹き替えし呼吸を落ち着けると立ち上がって腕の傷に包帯を巻きながら、闇の正体を見た。
そこには薄い黒い闇を身に纏った痩せた青年が一人立っていた。
ラィヤとリィヤが青年を威嚇している。
「おまえが闇を増幅させたのか…」と男の子は聞いた。
青年は黙っている。
「いや…人の恨みが闇の正体だな?」とタツミ。
「どういうこと?」と男の子が聞いた。
「この神時計には昔から村から迫害を受けた一族が住んでいた…なぁ?そうだろ」とタツミは青年に聞く。
青年はうなづいた。
「俺は加味一族の生き残り…」
「加味一族はここでずっと時計を動かしていたんだ。毎年、一度だけ送られる牛一頭で一年間食いつないで!なぜ、俺達だけこんな餓死しそうな生活をしなきゃならねぇんだ?」と青年は言う。
「だから、天秤の光を追い出したのか?」とタツミ。
「天秤のことは黒いマントを被った男が追い出した」と青年は呟いた。
「えっ?」とタツミは男の子を見る。
男の子は震えながらタツミを見る。
「フェデーレの均整師だな?」男の子はうなづいた。
「そうか…」とタツミは青年に近付いた。
「ルールに乗っ取り、おまえから闇を全て取り除き、記憶をすり変えさせてもらう」とタツミは青年の頭に手をおいた。
青年は失神して地面落ちた。
タツミは男の子を見て言った。「神時計の光よ!あなたを天秤まで案内しょう」
「天秤の場所が分かったの?」と男の子はタツミに聞いた。
「こいつの記憶を貰ったからね」とタツミは苦笑いを溢しながら地面で伸びている青年を指さしながら言った。
「時計台の一番上に天秤があるはずだ」とタツミは時計台を見上げた。
「そこに行くには?」と男の子。
「時計台の螺旋階段を行くしかないね。」とタツミは笑いながら、時計台の中を入っていく、男の子はタツミの後を着いて行った。