(3)
「無理だ」とタツミは冷たく言った。
「なんでだよ?」と男の子はタツミの服を掴み涙目で言う。
「早くしないと皆が…皆が…」
「…光と闇の均衡を取るには全世界に何百とある天秤の上の光と闇を均整にする必要がある」とタツミ。
「だったら…その天秤で早く均整を取ってくれ!」
「その天秤の場所が分からない…天秤は全て土地に建っている物だが悪用されないために一目につかぬ所に隠されている。俺の目では判断するのは無理だ…」
「そんな…」と男の子は絶望に満ちた顔をしてタツミを見つめた。
「あんた…均整師じゃないのか?今までだって街を救ってきたんだろう?なら、他に天秤を探す方法ぐらいあるんだろ!」と彼は地面に膝をつけたまま、タツミのズボンを引っ張って叫んだ。
「確かに…俺の目で天秤を判断するのは不可能だが、天秤を探す方法は他にもある」とタツミは男の子を見下ろしながら続けた。
「天秤には人の魂を集める習性がある。例えば…その建物や生き物を見るとこれはこの街だと判断がつくようなシンボルに天秤はある…この街にはシンボルがあるか?」
「…シンボル??」と男の子は少し考えて、思いついたように叫んだ。
「神時計!!」
「神時計?」
「うん…西の…この街の外れに大きな神時計があるんだ…」
「なんで神なんだ?」
「時計の中に生き神様がいるんだ!」
「生き神?」
「うん…あのね」と男の子は毎年一頭の牛を西の外れにある時計台に閉じ込め神に捧げ、この街を守るという、神時計の話をした。
それを聞いたタツミは「その…神時計に連れて行ってくれ!そこに天秤があるかもしれない」と男の子に伝えた。
男の子はうなづいて街の外れにそびえ建つ神時計にタツミと二匹の犬を案内した。
神時計とは白い大きな時計塔であった。
不思議な天使の模様が全体に施され闇のせいで色までは分からないが綺麗な時計台の塔。羅針盤は大きく、パラリヤの街全体から見ることの出来るようにはっきりと数字が書かれていた。
タツミは二匹の犬を連れて神時計の周りを慎重に見て回る。
すると、時計台の入口のドアの隙間から黒い闇が外へとまるで墨汁が半紙を伝わるようにドロドロ染みでている。
灰色に塗られたこの世界でも分かるくらいの真っ黒漆黒の闇である。
長年の感からタツミはそれを闇と判断すると、鎖で頑丈に閉ざされた時計台のドアをこじ開けようとした。
「何をするの?やめて!!」と男の子は叫んだ。
「この中は神聖な場所…よそ者が開けていい場所じゃない神時計が止まってしまうよ…」
「だったら、なぜ俺をここに連れて来た?小さくなった。神時計の光よ…」とタツミは男の子を見てそう聞いた。
彼が闇の中で言葉を話す理由がそれしかなかった。闇の中で声を発することが出来るモノは闇をコントロールすることが出来る者。しかしそれは難しい方法であり、かなりの修行が必要。まだ幼いこの少年が闇をコントロールしているようには到底見えない。
なら考えられるのはそれ以外のもっと限られた方法である特別な能力。闇を浄化する光を作りだせること。それは闇と対の関係にある光が唯一、持つ能力である。
従って彼が光だとすれば気を失っていたにも関わらず闇の被害を受けていないことにも説明がつく。
男の子は驚いたように目を開き、タツミの顔を見ると下を向いた。
「どうしてそんなふうになったかは知らないが任せておけ、俺もプロだ。」とタツミは男の子に安心させるように笑いかける。
「分かった。任せるよ…」と男の子は下を向きながら言った。
「ありがとう。」とタツミは言って、ドアをこじ開けた。