小鬼
「確かここだったわね。うん、間違いない」
昨日小鬼に遭遇した場所まで来たが、焼けた小鬼の死体がまだ残っていた。当然だけど。
「うーん、この辺に足跡は残ってないみたいね。ん?何だろうあれ」
少し離れたところに赤いモヤが漂っていたので、そこへ向かう。
「これは血だよね?」
赤いモヤのあったところの地面には、まだ乾いていない血が付いており何か動物を引きずったように血痕が続いている。
血の跡を追って少し歩くと、遠くから複数の小鬼の声が聞こえてきたので慌てて近くの木の陰に隠れる。
「あれは鹿?小鬼たちが鹿を狩ったのかな。そんなことが出来るならどこかに親がいて、近くに巣があるのかも」
5体の小鬼が鹿の死体を取り囲んでいて、そこにも赤いモヤが見える。さっきからこのモヤは何だろうか。
「とにかく用意しなきゃ」
『アイテムボックス』からさっきもらった毒の瓶を取り出して、矢筒に流し込む。ついでに剣にも毒を塗っておく。
このまま矢を放ちたいが、その前にせめて小鬼の巣の場所だけでも探しておきたい。
私は小鬼に見つからないように姿勢を低くしながら探し歩くと、すぐにまた赤いモヤが漂っているところを見つけたのでそこへ行ってみる。
すると、子供がやっと入れそうなくらいの大きさの穴があった。
「よし、これね。誰もいないわ。それにしてもさっきからこのモヤモヤは何だろ」
今のところ調査をするためのヒントになってくれているので、ひとまず置いておこう。
とりあえず、今は小鬼を倒すことに集中しよう。
最初に見つけた時の木の陰に戻り、様子を窺うと小鬼たちが鹿の肉を食べている。
私は一番外側にいる小鬼から狙うことにした。
弓を構え頭に照準を合わせる。
「大丈夫、動物のときと同じよ。落ち着いて見つからないように頭に当てるのよ」
ッヒュン
外側にいた小鬼の頭に命中し、音もなく倒れたことを確認する。
他の小鬼たちにはまだ気づかれていない。
「よし、このまま…」
二体目と三体目の頭に矢を当てたところで、ようやく残りの二匹が気づいたようで周りをキョロキョロ見ている。
ヒュン
「ギャン」
「あ…」
四体目に矢が当たったが、手元が狂い胴体に矢が刺さっている。
「「グギャァァ!」」
これ以上騒がれたくないので、そのまま最後の一体にも矢を放つ。
こちらにも気づいて向かってきているが、二体とも動きが鈍い。毒がちゃんと効いているようだ。
私は落ち着いて、二体にもう一発ずつ矢を放ち絶命させる。
「ふぅ、これで終わりかな」
無事に五体を倒し終えたので、安心していると
「グギャラァ!」
「っ!ぐっ…」
もう一体が気づかないうちにすぐ近くまで来ていて、腕を引っ掻かれてしまった。
よく見ると、他の小鬼とはひと回り大きく肌も紫がかった色をしている。
「コイツが親で変異体か?」
急いで距離を取り、『アナライズ』を使う。
小鬼の親から見覚えのある赤いモヤが見えた。
「さっきのはコイツから出てたのか…」
「ギャァァァ!」
どうやらかなり怒っているようだ。
またポケットが暖かくなったが気にしている場合じゃない。
私は剣を抜き、距離を詰めて『ファイア』を使う。
「グアアァ!」
小鬼の親の体が燃えて苦しんでいるところにすかさず連撃を叩き込む。
「グギャアァ」
「…!」
苦しそうにしながらも反撃されそうになったので『シールド』を使って攻撃を防ぐ。
何回かの攻撃の後、飛びかかってくる攻撃を防いだ直後に身を守っていたシールドが壊れた。
少し様子を窺っていると、少しずつ動きが鈍くなっているようだった。
「剣にも毒を塗っていて良かった。さっさと倒してしまおう」
小鬼の親の引っ掻きを避けると同時に後ろに回り込み、何発か斬りつけた後『ファイア』をつかう。
これを何回か繰り返すと
「アアァァ…」
小鬼の親はその場で倒れ、そのまま動かなくなった。
「…やっと倒せたのね」
少しの間達成感に浸ったあと、小鬼の親と他の小鬼たちの死体から爪と牙を剥ぎ取る。小鬼の親からは頭も剥ぎ取っておく。
「ううっ、やっぱりグロすぎ…おえぇ」
まだ慣れないな…
「それにしてもさっきから何だか体が重いわね。頭も痛くなってきたし、とりあえず巣を塞いで今日は帰ろう」
剥ぎ取った素材を『アイテムボックス』に入れ、王都へ戻る。
そのままギルドへ向かおうと思ったが、その前に近くにいるサフィアさんにお礼を言おうと思い、薬屋に入る。
「あっ、ソニアちゃん。おかえり、って顔色悪いし怪我してるじゃない!」
「サフィアさん、ありがとうございました。調合してもらった毒が役に立ちましたよ」
「そんなことはいいから早くこっちに来て!」
奥に案内される間、自分の腕を見ると血が出ていた。そういえば引っ掻かれたんだった。
あぁ、今ごろ痛くなってきた。
「今手当てしてあげるからね、これ誰にやられたの?」
「小鬼の親が変異体だったみたいで、それに引っ掻かれました」
「え?変異体に出逢ったの?よく無事だったわね」
「はい、あれから何だか体が重いし頭も痛いし猛烈に吐きそうだけど大丈夫ですよ」
「それは大丈夫って言わないの!完全に毒をもらってるじゃない!ちょっと待ってて、白のポーション持ってくるから」
あ、この気分が悪い感じは毒にかかってたのね。
そう思った途端、吐き気が止まり頭の痛みが引き、体が軽くなるのを感じた。
「はい、これ飲んで解毒して」
「あの、何だか治った感じがするんです」
「え?そんなわけないでしょ、早く飲んで」
「はぁい、んっ…うぇぇマズイィ」
分かってはいたけどポーションってめちゃくちゃマズイわ。
「はぁ、とにかく無事で良かったわ。これからは気をつけてよね、でもまた怪我をしたら私のところに来ていいからね」
「本当にありがとうございました、またお邪魔させてもらいますね」
頭を下げてお礼を言い、店を出る。
ギルドへ向かう途中ふとステータスボードを確認すると、見慣れない文字がスキル欄に追加されていた…。
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ソニア
健康
スキル 魔法
アナライズ ーーー
ファイア
シールド
ウインド
デトックス
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お読み頂きありがとうございます。
途中ソニア氏の口調が少し変わっているの気がするは仕様です。