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箱入り娘は冒険に出る  作者: 陽ノ山猫太郎
一章
4/42

不測の初仕事

 私は今、ギルド支部の前にいる。

 まさか3日で所持金のほとんどを使ってしまうなんて。このままじゃあ宿代も払えなくなってしまうので、お金稼ぎも兼ねて依頼を受けようと思う。


 好奇心と危機感を半分ずつ抱き、中に入り依頼が貼ってある場所を探す。

 建物の構造は本部とあまり変わっていないみたい。規模をそのまま小さくしたような感じだ。でも人が全然いないところは本部と違うようだ。


「おや?見ない顔だね、新人さんかな」


 貼り紙がある壁にいた白い服を着たおじさんが話しかけて来た。


「はい、今日は簡単な依頼を受けようかなと」

「それはありがたいね、少し前からここの冒険者の数が減ってしまったからね。俺はカイル、ここのギルドの支部長だ」

「ソニアです。支部長ってことはここの一番偉い方なんですか?」

「ああ、これでも昔は俺も冒険者だったんだ。剣士としてそこそこ活躍してたんだぜ。でも怪我をして辞めることになってな、今ではここで突っ立ってるのが仕事さ」


 ギルドの支部長で冒険者だった人なんて、色んなことを知ってそうね。今度いろいろ聞いてみようかな。


「それで、冒険者になったばかりの人でも受けられそうな依頼はありますか?」

「もちろん、それならギルドが出している採取依頼が受けられるぞ」


 貼り紙が貼ってある壁をよく見ると、大きく左右二つに分けられているみたいで、左側の貼り紙の中には古くなって剥がれてしまいそうなものもあった。


「こっちの、随分古そうなものが結構ありますけどずっと貼られているんですか?」

「これか…右側の掲示はギルドが出しているものでな、依頼内容がはっきりしていて報酬が十分に出るものばかりだ。それに比べて左側は王都の外の村から来た依頼なんだよ。内容の難しさの割に報酬が良くなかったり、依頼の内容が曖昧ではっきりしないものもあったりでな。そのせいでこっちの依頼を受けたがる人なんてほとんどいないのさ」

「なるほど…」


 依頼が来てから長い間経っているのにだれも引き受けないってことは、依頼した人はずっと問題が解決しなくて困ってるってことよね。

 余裕ができたら受けてみてもいいかもね。依頼を出した人の村まで行くから、そこでも学べることは多そうだし。


「あぁ、ソニアちゃん向けの依頼だったな。そうだなぁ、これなんてどうだい。王都のすぐ近くで採れるし安全だからな」


 カイルさんから渡された依頼を見てみると


 “ユラギの花×5 アメノウケザラ×5 アカゴケ×5 報酬 銀貨1枚”


 銀貨1枚かぁ、でもこの素材ならしょうがないかな。だってここに書いてあるの草原にいっぱい生えてるし。


「じゃあこれを受けますね」

「よし、今回は俺が受付に話を通しておこう。ところでソニアちゃん、武器はもっているのかい?見たところ丸腰だが、念のため持っておいた方がいいだろ?」

「…これから買うつもりでした。お金が足りるか分かりませんけど」

「それならこれを君にあげよう。銅の剣だ。ちょうど処分しようか困っていたところなんだ、私からの餞別だと思ってくれればいい」

「いいんですか?ありがとうございます」


 やった!タダで武器をもらえるなんてラッキーね。これで所持金が底をつくことは回避できたわ。

 もらった銅の剣を腰に差し、南門へと向かう。



 南門から王都の外へ出て、カイルさんの言われた通りに南東へ少し歩くと草原が広がっているのが見えた。


「せっかくだから余分に多く持って帰っちゃおうかな。それにもうちょっとこの辺りを探索しよう」


 依頼内容の植物は全てポーションの作成に必要な素材で、どんな見た目をしているなどはお父さんの本で頭に入っているのですぐに採取し終えることができた。


 草原をしばらく歩いていると、胸の高さくらいまである草が生い茂っているのが見えた。


「この先には何があるんだろ」


 とても気になったので草をかき分けて進んでみることにした。


「グギギギギ」

「ガゲゲゲゲ、ガギャ」

「ゲギギギギ」


 進んでいくと、近くから変な声が聞こえてくる。少し嫌な予感がして引き返した方が良いかも、と思ったがやっぱり気になってしまい声の正体を確認することにした。


 ガサガサ


「ギ?」

「あ」


 背の高い草原を抜け、視界が広くなったと思ったら自分の目の前にオレンジ色の肌をした背の低い人型の魔物がいた。正直、声の正体は珍しい動物だと思っていたので完全に予想外だった。


「小鬼ね…」

「グギャアア!」

「!!」


 小鬼が叫ぶと、私目掛けて飛びかかって来たため、とっさに『シールド』で身を守る。


「グギ…」

「ふっっ!!」


 『シールド』によって小鬼が隙を見せたため、すかさず剣を抜き一撃を入れる。


「グギャッ!?」

「…」


 斬りつけたあとすぐに距離を取り、『アナライズ』を使う。

 小鬼の身体に薄く青いモヤが見えた。

 あまり強くなく、魔力量も少ないことを表している。ポケットが暖かくなった気がしたが、今は気にしていられない。


「よし、いける!」

「グギャアアッ」

「はっ、やぁっ!」


 怒った小鬼の攻撃を避け、何回か斬りつける。

 小鬼の動きに体が動くし、剣も教わった通り振れている。


「それっ」

「ギャアアアア!」

「…」

「ギャァ……」


 倒れた小鬼に『ファイア』でとどめを刺す。

 動かなくなった小鬼を見て、初めて魔物を倒したことを実感する。


 それも束の間、飛び散った小鬼の血と焼けた臭いと光景を前に、胃からこみ上げるものを感じた。

 それと同時に


「グギギギギ」

「ゲギャア」

「っ!!」


 向こうから小鬼が複数近づいてくるのを見て、急いで回れ右し全速力で王都へと走った。


「はぁはぁはぁ、オロロロロ」


 南門の近くまでたどり着き小鬼が追ってきていないことに安心すると、無意識に今日食べた昼ごはんを逆流させていた。


「はぁ…グロすぎ…おえぇ」


 吐いている間にさっき倒した小鬼の光景を思い出してしまうと余計に腹から込み上げてくるものがあった。


「ソニアちゃんじゃないか、おかえり。また顔色が悪いけど大丈夫かい?」

「ありがとうニックさん、大丈夫ですよ」


 こればかりは慣れていくしかないわね…。


 とにかく、『アイテムボックス』に依頼内容が入ってあることを確認して後はギルドに届けるだけだ。


 初仕事に思わぬ災難に遭ったことに、何故だか少し喜んでいる自分に驚きながらギルド支部へと向かう…。

明けましておめでとうございます。

思った以上に読んで下さった方がいて驚いております。

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