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箱入り娘は冒険に出る  作者: 陽ノ山猫太郎
一章
3/42

お買い物

 次の日、私は早速冒険者らしいことをしようかと思ったのだが、重要なことに気付いてしまった。


「そういえば私、何も持ってなかったわ…」

 

 一番大事なことに気付いて無かったなんて本当に馬鹿よね。

 それじゃあ今日は王都の周辺を探索するために必要なものを揃えようかな。


「でもその前に本屋に行こうかな。ここの事をよく知るには人に聞くだけじゃ分からないこともあるはずよきっと。それに寝る前とか空いた時間にやる事ないし。」


 そうと決まれば早速出かけよう。本屋はどこにあるのかな?


「パメラちゃん、本屋に行きたいんだけど場所わかるかな?」

「うん!いつも行ってるお肉屋さんの隣にあるから知ってるよ。小さいところだけどね」


 この子は一昨日から泊まらせてもらっている宿の看板娘のパメラちゃん。歳は私より少し下くらいかな?

 仲良くしてもらってるしこれからもこの宿を利用しようと思っている。


「ありがとう、それじゃ行ってきます」

「行ってらっしゃい、今日の晩ご飯はハイイロウサギのシチューだって」


 ハイイロウサギかぁ、ここに来る前はよく狩ったものをお母さんが料理してくれたなぁ。

 


 パメラちゃんの教えてくれたとおりに歩いていくと肉屋が見えたがその隣が本屋なのかな。

 外から見た感じだとそれっぽくないんだけど、とりあえず入ってみよう。まぁ行ったことないだけどね。


「いらっしゃい、あら珍しいわね」

「どうも、私って珍しいんですか?」


 中に入ると茶髪のおばさんが奥にいた。店主さんね。

 そういえばこっちにきてから茶色の髪の人をよく見るけど多いのかな?珍しいってそういうこと?


「いやぁ貴方みたいな若い子がこんな寂れた所に来るなんてね」

 

 なんだそういうことね。でも私くらいの人ってあんまり本読まないのかな?


「えっと王都のことをよく知りたいんですけど、歴史とか住んでる人間のこととか食べ物のこととか…」

「もちろんあるよ。少し待っててね」


 そう言うと店主さんは並んでいる本棚から何冊か持ってきてくれた。


「これがタイタンの歴史、昔のことから最近の出来事まで書いてあるよ。あと他種族の受け入れについても書かれてあるからね。」


 かなり分厚いわね。これなら学べることも多そうね。


「それからこれらが各エリアごとのことが書かれている本だよ。外から来た観光客向けのものだからね、投射絵がたくさん使われているからとても分かりやすいものになってるよ」


 各エリアごとの本それぞれの表紙にその場所の風景をそのまま枠に収めたようなとてもリアルな絵が描かれてあった。これが投射絵っていうのね。

 これって人も絵にできるのかな?できるなら私を描いてもらってその絵を手紙と一緒にお父さんたちに送ったら喜んでくれるんじゃないかな。

 

「北エリアの本は無いんですね」

「ああ、そこは王宮と貴族街だからね。観光客だけじゃなく我々平民は入れないところなのよ」

「そうだったんですね。ところで…貴族って何です?」

「驚いたわね。もしかしてあなた、この国の外から来たの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが王都みたいな大きな街に入るのは初めてだし、こういったお店に入ったこともなくてこの国のこと全然知らないんです」

「そうなのね。貴族っていうのは簡単に言えば私たちより偉い人のことね」

「偉い人?」

「そうよ、各エリアをまとめているのも貴族ね」


 んー、もしかしておじいちゃんみたいな人のことかな?何かこう雰囲気が偉い!って感じの人のこたかな。きっとそうよ、しっくりきたもの。


「なるほど、それじゃあこの本全部買いますね。あとこれとこれも」

「はい、ありがとうね」


 とにかく勉強のための本と息抜きのために目についた物語をいくつか買うことができた。

 今日から寝る前や出かける前に毎日少しずつ読んでいこう。たまには本を読むだけの日にするのも良いかもね。



 探索に必要なものを売っている店を探すために街を歩き回っていると、他よりも大きな建物を見つけた。看板には『冒険者ギルド支部』と書かれてある。


「そうだ、ここが冒険者ギルドならこの近くにお店があるかも」


 そう思い、ギルドの近くを探して歩いていると『冒険者用道具屋』という看板の店を見つけた。ほら、やっぱりね。

 上機嫌で店に入ると、大きいものから小さいものまで全て見たこともないものが置いてあった。

 これが全部普通の道具屋には売ってないものなのね。あ、普通の道具屋に行ったことないから分かんないや。


「らっしゃい。嬢ちゃんも…冒険者だな。じっくり見ていってくれ」

「はい、まだなったばかりですけどね」


 とりあえず店の中を一通り見て回った後、特に目を引いたものがあった。

 紫色で透明な箱の中に巾着袋が入っているものだ。


「『アイテムボックス』?これは外側の箱のこと?中にある袋なの?それともただの面白くないジョークかな?」

「ああ、それは中にある巾着袋のことさ。袋の見た目の大きさよりも多くその中に物を入れることができる便利なやつさ」

「多く?はっきりとは分からないんですか?」

「これは箱から取り出す前に使用者の魔力を流して使えるようにするんだが、使用者の魔力量に依存するみたいなんだ」

「えっと、つまり人によって袋に入れられる量が変わるってことですね」

「そうだ、それに一度箱から取り出したらその袋は使用者専用のものになるんだ。使用者以外の人は使えないから、誰かに袋の中身を盗まれる心配はないのさ」

「それは便利ですね。安心してアイテムを保存できるなんて…でもこれ値段が銀貨50枚ってなってますよね?」

「…」

「一律で?」

「…一律で」

「結構な博打になりそうですね。というかこれ売れてるんですか?」

「それが…便利なんだがあまり売れてないんだよ。ただでさえ南エリアは他と比べて冒険者の数が少ないってのに…ちらっ」

「…」


 財布の中身を確認してみる。銀貨が60枚と銅貨が20枚入っていた。

 えっと、ユミルの町で買ったお弁当が銅貨1枚で泊まっている宿が一泊銅貨2枚…銅貨10枚で銀貨1枚分だから…これかなり高くない?というかお父さんったらかなりの大金持たせてくれてたのね。

 でもとても便利なものだってことは分かったし、私の魔力量が関係してるならきっと損はしないはずよ。


「分かりました、買いますよ」

「ホントか!よっしゃ、ありがとうな。マジで」


 おかげで他のものを買う余裕が無くなったけどね。


「今更なんだが、嬢ちゃん魔力は扱えるよな?」

「ええ、まあ」

「それは良かった。そうだ、買ってくれたお礼に良いこと教えてやるよ。ここから南門に向かって少し歩くとトリアージセンターがあるんだがその向かいの家が冒険者向けの薬を売っている店があるんだ。看板とか無くて分かりづらいが品揃えは確かだぜ」

「薬ですか、確かに必要なものですね。ありがとうございます。さっそく行ってみますね」


 もし外で怪我をした場合、擦り傷程度なら問題は無いがもっと深刻な傷を負った場合、応急処置をして癒し手に診てもらう必要がある、ってお父さんの書斎にあった本の『癒し手の手 入門』に書いてあったわ。


 正面に南門が見える大通りを十数分歩いていくと、トリアージセンターに着いた。どうやら門のかなり近くにあるようだ。

 この向かいの建物を見ると確かに看板も無いし思ったより小さな民家のように見えるものだった。

 もし普通の家だったら謝って出て行けばいいだけよね。

 そう思いながら堂々と扉を開ける。


 薬屋の中はまだ日が沈んでいないのに少し薄暗く、消毒液の臭いがうっすら漂っている。

 薬品のようなものが並んでいるからここが薬屋で間違いないんだろうけど、店主の姿が見当たらない。

 さすがに勝手に見て回るのは良くないかなと思い、


「すみませーん」

「んんー?だれぇー?」

「客です。お店まだ開いてますよね?」


 奥の扉が開いて鮮やかな青髪の女性が眠そうな顔で出てきた。


「あぁ、ごめんね。いつも通り誰も来ないから寝てしまってたの。それにしてもよくここが薬屋って分かったわね」

「道具屋の店主さんに紹介してもらいました」

「ああそういうことね、納得。ゆっくりしていってね」


 正直この臭いの中でゆっくりは出来ないと思うなぁ。でもいい人っぽい?仕事中に寝てたから不真面目なのかな。


 それはさておき色んな種類の薬品が置いてあるなか、布でできたポーチのようなものが目に止まった。


「これはなんですか?」

「お?いいものに目をつけたね。これは『スティムパック』っていうものでね、私が作ったオリジナルよ。中を開けてみて」

「これは、注射器とガーゼ?」

「その注射器の中には強力な鎮痛剤が入っているわ。そしてこのガーゼには威力を抑えた『バーン』の魔法陣を刻んであるの。傷口に当てたときに発動するようになってるんだ」

「焼灼するってことですか?それじゃあこの『スティムパック』は大怪我をした時に使うってことですね」

「その通り!鎮痛剤で痛みを和らげて傷口を焼いて血を止める。応急処置のためでもあるけど、物騒な魔物と出会った時に生きて帰れるようにするために作ったってところが大きいわね」

「そうなんですね、これはみんなが一つは持っておいた方がいいほど冒険者には必要なものなのでは?でもなんで売れないんですか?」


 他のものも少し埃をかぶっていたので、ここの店が繁盛していないことを察した。


「私も最初は売ろうとしたんだよ。他のエリアの薬屋にも協力してもらおうともしたのよ。だけどいろいろあってね、今はまともに店も構えられず、客も大分減ってしまったわ…」


 嫌な記憶を思い出させてしまったみたいで申し訳なく思ったので、


「ところで、これってポーションじゃないですか?」

「ん?そうね、でもこれも今は誰も買わないし使おうともしないわ。今はみんな少し前に王宮が開発したこの丸薬を使ってるわ」

 

 そう言って手のひらにそれぞれ色の違う丸い球を3つ乗せる。


「うーん、ポーションは味がめちゃくちゃマズイこと以外は即効性だし効果も高いから便利なアイテムなのにその丸薬はそんなに良いものなんですか?」

「そうなの、丸薬の効果はポーションよりも明らかに低いのよ。でも冒険者たちはみんなポーションの味がマズすぎて飲めたものじゃないと言って買ってくれないの」

「だから効果は低くても丸薬を選ぶんですね。でも私はポーションの方が信用できるので1セット買いますよ」

「いいの?無理しなくてもいいのよ」

「私のお父さんもポーションは味は悪いが効果は確かだって言ってましたから。あと『スティムパック』も2本買っておきます」

「…ありがとうね」


 えーっと、ポーションの内容は一時的に力が強くなる『赤のポーション』、一時的に魔力消費を抑えられる『青のポーション』、解毒作用のある『白のポーション』、感覚が鋭くなる『緑のポーション』、うんちゃんと揃ってるね。

 ポーションは効果が高いけど一日に数回しか使えないから気をつけないとね。


 値段は合わせて銀貨5枚だった。さっきの『アイテムボックス』に比べてとても良心的に思えた。


「私はサフィアよ、覚えておいてね」

「ソニアです、また買いに来ますね」


 サフィアさんの顔が少し嬉しそうだった気がする。


 店を出た私は財布を手に持ち、出かける前に比べてとても軽くなったことを実感する。明日からお金も稼ぎに行かないとね…。

 

 それはさておき、せっかくだし今日買った『アイテムボックス』に薬屋で買ったものを入れて帰ろうかな。

 『アイテムボックス』の入った箱に魔力を流すと、箱が消え中の巾着袋だけになった。袋の口を開けてその中にポーション一式と『スティムパック』を入れたが、中には確かに入っているが袋は膨らんでいない。


「不思議な感じね、これってどこまで入るんだろう?まあ、とにかくお腹空いたし今日は帰ろうかな」


 『アイテムボックス』を腰に付けて、明日からのことを考えながら私は宿へと帰るのだった…。




 

 

説明が多くなってしまいました。申し訳ないです。

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