王都へ
「忘れ物はないか?何なら俺も王都まで行こうか?」
「困ったことがあったり辛くなったらいつでも帰ってきて良いのだぞ」
「ありがとう、お父さんお母さん。持ち物といっても財布と本とこの魔道具だけだし大丈夫だよ」
私ソニアは今日が16歳の誕生日で、今まで夢に見た冒険に出る日でもある。生まれてからずっとカロンの港町の外れにある草原でひっそり暮らしていたから、外の世界のことをたくさん知りたいって思っていたの。
「向こうに行ったら時々手紙をくれよな…ううっ、やっぱり行くのは来年でも…」
「こら、余計なこと言うんじゃないよ。そんなこと言ったらソニアも行きづらくなるだろう」
私の前で泣きそうになっている男の人は私のお父さんで名前はロイ。私の青い瞳はお父さんとお揃いね。
昔は勇者って呼ばれてたみたい。よく分からないけど、今まで戦ってきた魔物のこととか教えてくれたしとっても強かったからすごい人なんだなって思うわ。
あと金髪だけど地毛じゃないらしい。
そしてその隣にいる美しい女性は私のお母さんのフォルニス。私の真っ黒な髪はお母さん譲りね。お母さんみたいに角は生えてないけど…。まあ、今はフードを被っているから見えないけどね。
お母さんも私が生まれる前までは魔王だったんだって。魔王というのは魔族の一番偉い人のことだからお母さんもとにかくすごい人なのね。
「私も寂しいけどもう行かないと、船が出ちゃうわ」
「…しょうがない、俺も腹を決めよう」
「怪我や病気に気をつけるんだよ。それに怪しい人について行っちゃダメだからな」
「うん!それじゃあ、行ってきます!」
出航する直前になってようやく船に乗った私は空いている席に座ると王都への行き方を確認する。
カロンから船で半日かけて港町ユミルまで行き、そこから馬車に数時間乗って王都タイタンまで行く。
日の出に船が出るから今日の夕暮れぐらいに着けるのかな?
しばらくの間座りながら外の景色を眺めていた。今までほとんど外に出たことが無かったから全てが新鮮なの。だから私にとってはもう冒険は始まってるのよ。
お父さんとお母さんが私のために書いてくれた本で魔物のこととか植物のことは知っているけど、それ以外のことをこれからたくさん知れると思うと今からとっても楽しみだわ!
そうして船が出て半日が経ち、ユミルの町に着いた私は
「うっぷ…おえええええぇぇぇぇぇ」
盛大に船酔いしていた…。
「うぅぅ、お父さんは船なんて余裕だって言ってたのにぃ……おえぇ」
そこへ近くを通った親子が来て
「ママぁ、みてみてあめふってないのに虹がでてるよ!」
「こらっ、あんな汚い虹なんて見ちゃだめでしょ!もう行くわよ」
「なんて、失礼な…うぅ」
何も私に聞こえるように言わなくても…
胃の中にあるものを全て吐き出すとようやくおさまったみたい。せっかく船で昼ごはんを食べたのにもったいないわ。まさかあんなに船が揺れるなんてね。
馬車の乗り場へ向かっているとお弁当が売っているのを見つけた。
「またお腹空いちゃったし馬車に乗ってる間お弁当食べよっと」
船を降りてから馬車が出るまであまり時間が無かったのでまた今度ユミルの町をじっくり見て回ろうと思い、馬車で王都タイタンへ向かった。
そして無事にタイタンに到着したが…
「おええええぇぇぇぇ……はぁはぁ、おえええぇぇぇうっぷ…」
今度は馬車酔いした…
「ま、まさか船より激しく揺れるなんて…」
それに決めた、もう乗り物に乗る時は何も食べないことにするわ。他の乗客がこちらを不安そうに見てたのはそういう意味だったと気付いたのよ。私は学ぶ女よ!
☆
タイタンの門に着いたけど思ったより人が並んでいて何やら通る時に門番の人に何かを見せていた。
そういえば、お父さんに門を通るときに見せなさいって言われてたものを財布に入れていたわ。
「通行証ね、でもなんで見せないと入れないんだろ?」
そう思いながら列の一番後ろに並ぶ。列が進んでも誰も私の後ろに人が並ばないってことは私が一番最後のようね。
「お腹痛い…きゅぅぅってなってる…」
「おや?お嬢ちゃんが最後のようだな」
吐いたせいで腹痛に苦しんでいるといつの間にか私の番になっていた。通行証を取り出して見せる。
「これでいいですか?」
「ああ、大丈夫だ。ところでお嬢ちゃん、顔色悪いけど大丈夫かい?」
「ええ、初めて馬車に乗ったけど酔ってしまって…」
「あぁ、それは可哀想に。おいニック!見てみろよ、このお嬢ちゃんまるで二日酔いの時のお前みたい青い顔してるぞ」
「ん?ほんとだな。だけどミッコ、それはお嬢さんに失礼だぞ」
「ははっ、それはすまんかったな。ほら水をあげよう」
「ありがとうございます」
なんだか分からないけどミッコさん?にお水もらっちゃったわ。
おいしい。
「ところで、どうして入るのに通行証が要るんですか?」
「む?そうだな、昔はそんなの必要なかったみたいなんだが王都が大きくなるにつれて段々王宮の目がすぐに行き届かなくなってな、外から来た人の犯罪をなるべく防ぐために面倒くさい手続きをして手に入れる通行証が必要になって俺たちが置かれたってわけよ」
「まぁ実際は結構緩いんだけどな。通行証を持ってなくても身分が分かるものさえあれば持ち物を確認した上で問題ないって判断すれば通れるからな」
悪い事をしようとする人をなるべく入れないようにしてるのね。
「なるほど責任重大ですね」
「はははっ、最近は通行証を忘れる奴はあんまり見ないけどな。ところでお嬢ちゃんはわざわざ王都に来て何の用事があるんだい?」
ニックさんが聞いてきたのでついでに教えてもらおうかな。
「私はいろんな所に行っていろんなことを知りたいから冒険者っていうのになりに来ました」
「ほう冒険者か、それならまずギルド本部に行くといい」
そうして門番の二人といろいろ話をしていると日が沈んでしまったので、冒険を始めるのは明日にしてとりあえず宿を探して歩き出した。
まだお腹が痛いから今日の晩ご飯はあっさりしたものがいいなぁ…
これからよろしくお願いします。