7 ステータス病について
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私に任せろ、ドン! とばかりに言い切った先輩ではあったが、当然ながら完全下校時間には勝てなかった。はよ帰れとチャイムが鳴り響く相談室で、明日またここに集合する約束をして俺達は帰宅した。
そして次の日。いつも通りの授業を終えて相談室に行くと、すでに先輩は着席していた。
「一日、私なりに考えてみたのだ」
先輩は昨日と同じ位置に座り、腕を組んでいる。でも俺の席はなぜか相談者側の方ではなく、先輩と同じ相談員側に座らせられたのはなぜだろう?
「ステータスが見えると言うことは、今まで他の誰かの身に起きたことがあるだろうか。いや無い。インターネットを使って検索を行ってみたが、それらしき表示は一切出てこなかった。代わりに創作でステータスが見える青年がたくさん出てきたな」
「ああ、それ俺もやりました」
自分と同じ障害に苦しんでいる人が居ないかと検索しても、ネタで言う人か、創作のキャラクターしか出てこない。みんな異世界行き過ぎぃ!
「あれ、なんら参考にもならないんですよね」
「確かにな。まあ、これで前例がないということが確定したと言って良いだろう。それで、だ」
「それで?」
先輩は自分の前に置かれたティーカップに口をつける。容姿端麗だし、見た目はお嬢様だし、姿勢が良いからかアンティークと一緒に映ると絵になる。ただ周りは学校の一室なので雰囲気は微妙だが。
「まず君のステータスを見る能力を、もっと詳しく知るところから始めるのはどうかと思ってな」
「そうですね……まずは理解からですね。お話します、とは言っても俺自身ですら完全には知らないんですけどね。使えば頭痛がするので」
使えば、というか勝手に、だな。
「うむ、承知した。ではまずステータス自体について詳しく知りたい。早速だが君には絵を書いて貰う」
そう言って先輩はスケッチブックのような物を鞄から取り出し、俺に差し出す。
「絵ですか?」
「ああ、絵だ。私が昨日簡単に聞いたやつだよ。人の絵を描いてバーがこの辺り、文字がこの辺り、それを絵に起こして欲しいのだ」
俺はスケッチブック受け取ると、先輩はペンも差し出してくる。シンプルで飾り気のないシャープペンシルは、表面だけ見た先輩のイメージ通りだ。だけど今は触手のようなペンをだされても一切驚かないだろう。
それから五分程で絵を描くと先輩に渡すも、先輩は紙を見た瞬間に顔をしかめた。
「これは……! その…………独創的な絵柄だな」
「すみません、絵心はないんです」
「いや、なんと言えば良いのだろうか。ゆるキャラを亜空間に放り込んだらこうなるかも知れない」
「ああ、俺に絵心なんてかけらも存在しなかったんです、許してください!」
その亜空間ゆるキャラのモデルが先輩であることは口が裂けても言えないな。
「どうしてこの形容しがたい生物はウチの制服らしき物を着ているのだ……?」
「お、俺の絵は置いておいて話を進めましょう!」
「そ、そうか。では、絵は置いておくとして……おかげで大体の雰囲気はつかめた。それで君はこの書いたようなステータスに酷似したゲームを、君は見たことがあるだろうか」
俺は先輩を見つめて、ステータス欄を見つめる。
「俺がプレイしたゲームの中には無いんですよね……」
あれば俺はそのゲームを作った会社に突撃しているだろう。だが見たことがない。病気が発症する寸前までプレイしていたゲームは、こんなステータス表示ではなかった。そもそもあのゲームは自分以外のHPは表示されないし、情報だって表示されない。代わりに自分のHPが画面上部に表示されているが今の俺は自分のHPが見えない。
じゃあほかのゲームでは? 自分のHPが表示されないのに相手のHPが表示される物は一度たりとてプレイしていない。そもそもこんな字体でデザインのメニューは見たことない。
「なるほど。君の見ているステータスに、モデルは存在しないと言うことになるか。モデルがあればそのゲームについて詳しく調べる所だが……うむ、ちなみに人間以外にステータスが表示されるのか?」
「表示されないんですよね……犬とか猫にも、一度着ぐるみを着た人を見たんですけど、ステータスは見えませんでした。ちなみにサンタのコスプレをした人は表示されましたね」
「動画とか写真とかのたぐいは?」
「見えませんね。それは俺も色々試したんですけど、生身の人間で、顔があまり隠れていない人が見える気がします」
ふむ、と先輩は腕を組み何かを思案する。
先輩の入れてくれたレモンティに口をつけつつ、先輩が考えをまとめるのを待った。
結論が出たのか、先輩は大きく息を吐き、ゆっくり口を開いた。
「迷宮入りだな……」
「早いな!」
「まあまあ、冗談だ。落ち着いてくれたまへ」
先輩はそう言って紅茶に手を伸ばし、一口含む。そしてソーサーの上にカップを置くと横にかけていた鞄に手を伸ばした。
「わからない、となればだ。視点を変えてみようと思う」
「視点を変える?」
「実を言うと昨日私なりに考えてみたのではあるが、今日と同じく君の病気の治す案を見つけられなかったのだ」
まあ、そうだろう。俺が数年かけて治せなかったこの病気を、たった数日で治されたらそれはそれでショックだ。
「まあ、そうですよね」
「それで少し思考を変えてみたのだ。君の問題は人を見ると欲情してしまう、ここに間違いは無いな?」
「間違いです、それ二回目ですよね。それとそんなヤツが居るんだとしたら、相談なんか受けないで警察に突き出してくださいね」
あなたは真剣な表情で何をおっしゃるんですか?
先輩は大きな声で笑うと、鞄から何かを取り出した。
「失礼、君との会話は本当に楽しいな」
治す気あんのか、と視線で送ると先輩は小さく咳払いする。
「さて、君の頭痛をなくすためにはステータスを見えなくすればいい。ではこれならば思ったのだ」
先輩は机の上に楕円形のケースをいくつか置いていく。
「これは?」
「開けてみてくれ」
俺はその中から一つのケースを手に取り、ふたを開ける。
「ああ……なるほど」
ケースの中から出てきたのはカラーレンズのついた眼鏡だった。
「その反応からするともうすでに試したのかも知れないな……私が用意したのはサングラスだ」
俺はレンズが茶色になった物を手に取ると、自分の目元へ持って行く。
「大変申し訳ないですけど、一度試したことがあります……」
それで解決するのであれば、二年前に解決している。
薄暗くなった視界ではあるが、先輩の頭上にはバーがしっかりと表示されていた。
「先に俺からすでに試したことがあると話しておくべきでした……もしかしてわざわざ買ってくださった、とかじゃないですよね?」
「やはり一度試していたか……。ちなみに、それは家から拝借したものだから気にしなくて良い」
先輩は一つのケースからピンク色のサングラスを取り出すと、突き出してくる。俺はかけていた茶色を外し、ピンクに変えるも相変わらずバーが消えることはない。
「ふむ……」
俺の顔をみて察したのだろう、先輩はにが笑いを浮かべる。
「ピンクも……だめですね。ちなみに黒、紺、青はダメでした。あと英単語帳とかの赤シートもステータスが見えますね」
先輩はため息をつき、手元の置いてあった紙に何かを書き込んだ。
「うむ、では続いて検証に移行しよう」
「検証ですか?」
「ああ、実を言えばこっちが本来の目的であるといって良い」
「本来の目的?」
とりあえずサングラスをかえそうと外そうと手をのばすも、それは先輩に制止させられる。
「楠君。まだだ、つけたまま私を見てくれ」
「はい?」
俺はピンク色の視界で先輩を見つめる。無論ではあるが、体全体がピンク色のフィルターに彩られていたが、美人はカラーのフィルターを通したところで、美人であることに変わりは無い。
「どうだ? 桜色に染まった私はエロく見えるか? ほどばしる熱いパトスを自分の中に感じるか?」
「ええ、感じます。今すぐこの眼鏡を破壊したくなるパトスを感じます。破壊したら神話になりますかね」
それよりもなぜ先輩はグラビアアイドルのようなポーズをしているんですか? 面倒そうなので突っ込まない。
「冗談だ、さて本当の質問に行こう。君はバーや文字がどう見える?」
胸を強調しながら言わないでください、貴方のはデカいので話が頭に入ってきません。
「えっと、バーは普通に見えますけど……」
「違う、そういう意味じゃない。私の言い方がまずかったな、言い方を変えよう。バーや文字の色は何色に見える?」
俺は先輩の頭の上に浮かぶバーを見つめる。
「ええと、何が言いたいのか分からないですけれど、緑色ですよ?」
「なるほどな、ひとつわかったことがある」
これで何が分かったというのだろうか。
「ステータスの表示というのは、少なくとも君の体の中か、その眼鏡のレンズまでで完結していると言うことだ。つまり、君は対外的な何かに影響されている可能性は低く、自分自身で能力が完結していると言うことに他ならない」
なるほど。わかりにくいけど、つまりは。
「先輩が言いたいのは、ステータス閲覧は基本的に俺の体の中で起っていて、外には出ていないのではないか? とことですよね。仮に出ていたとしても目からレンズまでの距離ではないかと」
「そうだ。もしそのピンク色の眼鏡で、ステータス表示の色が変わるようならば、君は空間をねじ曲げて文字を書いている、実は私にも見えるのではないか等を考慮しなければならなかった」
なるほど、言われてみればそうだよな。
「つまり私たちは原因追及の為に、君の体を調べれば良いというわけだ……」
先輩はそう言って鞄から、やたらごついカメラを取り出すと机の上に置く。そして満面の笑みを浮かべた。
「さ、服を脱ごうか?」
感想ありがとうございます。ただ返信は基本しません。
返信文章を考えるのに時間かかっちゃうので_(´ཀ`」 ∠)_
その分執筆に当てます。ご了承ください。





