表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/14

6 壬生智花④


「性癖、性癖だってっっ!」


「あの、先輩。ドアの先に人が居るかも知れないので」

「いや、すまない。信じがたい素晴らしい能力を聞いてしまったものだから」


 ステータスが見えるだけなら、使い方次第で素晴らしい能力だとは思う。けれど性癖を強調して言った後に興奮されると、変態的な意味でしか聞こえない。あ、いや変態だと思ってるけど。


「私はどう映っているのだ? 特に性癖の部分だ! いや性癖の部分以外要らない」

「えっ、信じるんですか?」

「少なくとも現時点では否定に値するほどではない。ただ内容が信じがたいし半信半疑と言ったところか。それが本当なのかはこれから聞けば良い」


 先輩は話を続ける。

「だからこそ話して欲しい。私がどんな性癖を持っているのか!」

 すごく突っ込みたいところがあるけれど、もう突っ込まない。なんか変態抑制力弱まってない?


「先輩の場合はその…………言っても怒らないですか?」

「怒らないさ。それで君の見えているステータスが虚像だったり、虚言であるかを判断できるんだ。だからはっきり言ってくれ」


 今までの経験上、間違っていた試しはない。だからこそ言いがたいのだが。先輩はどうやら暴露されたがっているようなので、言ってしまおう。


「ええと、その。ま、まず属性がドM生徒会長になっています」


 静止する先輩。そして訪れる沈黙。備え付けられたアナログの時計がカチカチと刻む音しか聞こえない。


「せ、先輩?」

 俺が呼びかけると、先輩はゆっくり立ち上がり、ドアへ向かって歩き始める。

 バァン、と勢いよくドアが閉められ、俺は思わずびくりと体を震わせる。それから少しして、何かを差し込む音と、何かがはまる音がした。


「な、なんで鍵閉めてるんですか!?」

 俺は急いで先輩の側に寄る。ああダメだ、ここの鍵は両側差し込むタイプの鍵だ。すぐに振り返り、棚に向かって歩く先輩の後ろ姿を見つめた。


 彼女は表情が凍っていた。浮かべているのは笑顔だが、浮かび上がる気配はまるで腹を空かせた肉食獣のようだ。


「さあ、かけてくれ。今紅茶を入れよう」

 そう言ってペットボトルのキャップを外し、ケトルに水を入れた。

「けけけ、結構です。そ、そうだ、トイレに行きたいんで、俺は退室しますね!」

「大丈夫だ。用具箱にバケツがあるだろう?」

 後は分かるな? みたいな顔をしないでくれ。

「いやいや全然大丈夫じゃ無いですから! 俺の精神と社会的に終了しますから!」

 学生時代が自宅で布団を被ったまま終わる未来が見える。あだ名はバケラーだろう。


「支えがないと不安か? ではバケツは私が支えてやろう、君は……その、自分のモノをしっかり支えるのだぞ」

 そう言って先輩は俺の前に来る。照れているのか、顔がほんのり桜色になっている。おい、両手を頬に添えるな。


「そういう問題じゃねぇよ! 目の前で見られるとかダメージデカくなってるから!」

「大丈夫だ、気にすることはない。昔の日本には公人朝夕人くにんちょうじゃくにんという職業があってだな、偉い人が尿意を感じたときに尿筒しとづつをさしだす係があったのだ」


「そんなん有ったのかよ! 日本はいろんな意味でスゴイな!」

 確かに脱ぎづらい服って有るね。

「おフランスにも王様のトイレ係があったらしい」

「日本だけじゃなかった!」

「うるさいぞ君、今はそんなのはどうでも良いんだ!」


 んじゃぁなんで先輩はそれ話したし! どうでも良い雑学のはずなんだけれど、インパクトが強すぎるせいで脳に刻まれたぞ!

「先ほど私をドM超変態エロ大魔人会長と言ったかな?」

「そこまで言ってねえよ!」


 先輩は頬に手を添えて、上目遣いで俺を見る。

「まさか、それをネタに私を強請ゆする、または脅すなんて……かんがえてないよな♪」

「何でちょっと嬉しそうなんだよ、しません、絶対しませんから」


「そうか……」

「何で肩を落としてるんだ!」

「君はずいぶんと面白いな」


「先輩に言われたく有りませんね! さっきからですけど先輩のイメージ崩壊甚だしいですよ!」

「私のイメージ、か。……はは、ははっはははははっ!」


 先輩は俺の言葉を聞いてひとしきり笑うと、ふう、と息をつく。表情が変わったことを見るに、どうやら少し落ち着いたようだ。


「さて、すまない。話がそれたな……君のステータスが見えるって言うのは、信じようと思っている」

「そうですね、もちろん冗談です、面白いでしょ…………はっ?」

 今、先輩は信じると言っただろうか?


「信じようじゃないな。言い当てられたのだ、だから本当なのだろう」

 言い当てられたと告白することは、先輩はドMで変態であることを認めることになるんだけど……。いやすでにフ○ーザ様の戦闘力を超える変態だとは思っているけど……。


 と俺がひっそり動揺している間も、先輩は言葉を続ける。

「だけどなんというかな、その。すまない、信じがたい能力であるがゆえに、自分が咀嚼できていないんだ。少し私は混乱しているのだろう。なんていえばいいんだ。その、頭では君の言い分を全面に信用してはいるんだ」


 な、なんだ。そうだったのか。『秘密を握って、私を脅して欲しい』みたいなことを言っていたけど、それは先輩が混乱していたから、出た言葉なんだよな。そうに違いない。そうであってくれ。

「そうだったんですね。スイマセン、敬語も使わず色々言ってしまって。そういえばさっき嬉しそうに言っていた『揺すってほしい』とか『脅してほしい』とかも冗談だったんですよね?」


「いやそれは動揺ではなくて、心に秘めていた願望だ」

 即答。しかも先輩は真顔だ。

「あっ、コイツに敬語一切要らねえわ」

 尊敬できる要素が、ゼロ通り越してマイナスになったぞ。なんなんだこの人は。


「なんでだ……自分の能力を表面的にでも信じてくれる人は初めてだから、舞い上がれるはずなのに。どうしてこうも脱力してしまうんだろうか」

「ふむ、君はビタミンやミネラルが不足しているのではないかな? 食事はしっかり取った方が良いぞ」

「いや、食事の影響じゃねぇよ、イヤミ言ったんだよ!」


 疲れてしまうのは、どう考えてもお前の存在が影響してんだよ。頭良いから気がついてるはずだろ!

 俺が思いっきりため息をつくとと先輩はくくくっ、と笑い始める。

 そしてだんだん笑いが大きくなって、最終的には体をブルブル震わせながら笑っていた。

 あまりに楽しそうに笑うものだから、毒気は抜けていった。


「……そんなに面白いんですか?」

「いやあ、すごく楽しいよ。お湯も沸いたようだし、今紅茶を入れよう。ストレートとレモンティがあるがどちらが良い?」

 どうやらしばらく先輩と話すことは確定らしい。まあ俺に予定なんて無いんだけれど。

「レモンティで」


 俺がそういうと先輩は立ち上がりカップを二つ用意する。そしてティーバッグを使ってお茶を出してくれた。

「実はな、君と初めて会ったときに教頭とすれ違っただろう?」


「そういえばありましたね」

「君は用務員さんか、とつぶやいたんだ。私は教頭の隣にいた彼が誰か分からなかったのに、だ。後で聞いてみると、その日初めて出勤した用務員さんらしいじゃないか」


 無意識のうちに俺はそんな事をしていたんだな。

「最初は知り合いかと思ったが、君の話を聞いて線がつながったよ」

 思わず紅茶をカップに置いて先輩をみつめる。もしかしたら今日呼び出したのは、そっちがあったのかもしれない。いや、考えすぎか?


「君のステータスが見える、というのはいつからなんだ? 生まれてからか?」

「いえ、二年くらい前からですかね……」

 きっかけは三徹でゲームをしたことだろう。夏休み、宿題終わり、親が数日居ないというコンボが来たら、遊ばざるを得なかった。今思えば休憩を入れても良かっただろう。どうして一睡もせずにあんなに遊んでしまったのだろうか。


 そのことを先輩に話すと小さくうなずく。

「と言うことは後天的に付いた能力と言うことだな……後天性視覚異常型強制的情報回覧障害とでも言えば良いか? うむ長いな」

「正式名称にするとそうなるかもしれませんが、今はステータス病とかで良いんじゃないですか?」

「そうだな、仮にステータス病としよう……」


 先輩は紙を横にあった紙束から一枚を手に取ると、それにペンを走らせる。

「まとめよう。君はステータスが見えることで、頭痛と性的欲求が激しくなってしまった。そのため学園の生徒会長たる私に、性的興奮の解消を手助けをして貰いたい。そうだな?」


 俺は笑顔で言う。

「いえ違います。淡々とねつ造しないでください。それに一番の問題である頭痛が解消されてないです」

 つうかそれなんてエロゲのシチュエーションだよ、教えてくださいお願いします。一万円までなら払います。

「そうか、では致し方ないし、断腸の思いでもあるが頭痛の解消を優先しよう」

「先輩の思考を矯正させることが、最優先事項だと思います」


 先輩は話を聞いているのか、居ないのか分からないが、手の動きは止まらない。そして何かを書き終えた紙を俺に手渡してきた。


 相談者(匿名可) 楠陸

 所属クラス(匿名可) 進学科 一の三

 性別 男

 相談内容 ステータス病による頭痛の治療

 備考 二年前から発症、主な症状は頭痛


 それは相談者のための記入用紙だった。内容はすでに書かれており、不備は見つからないし、ねつ造もされていなかった。

「私が責任を持って対応することを誓おう。なに、大船に乗ったつもりで居てくれ」

 そう言って先輩は存在感のある胸をはる。


 自信ありげな先輩ではあるが、本当に大船に乗ったつもりになって良いのだろうか。

 確かに先輩は頭良いし、学校ではある程度の権力も有る。ステータスに表示されていたのだから間違いは無い。ならば大船に乗ったことは間違いないかも知れない。


 だけど、なぜだろう。頬杖をつき満面の笑みを浮かべる彼女に、そこはかとない不安を感じるのは。


 思えば大きな船とはいえ、沈むときは沈むのだ。豪華客船タイタニックですら沈んだんだ、障害物にぶつかったり座礁しないことを祈ろう。


プロローグ部分終わり。

次話からどんどん暴走していきますが……明日ですね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジカル★エクスプローラーの書籍化が決定しました!
11月1日スニーカー文庫より発売!!
画像クリックで特設サイトに飛びます↓

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ