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4 壬生智花②


(何でこんなところに会いたくない人ナンバーワンがいるんだよ!)

「あ、芥川先生に言われて、荷物を届けに来ただけでーす」

 俺はなんとか笑みを浮かべると足下の段ボールを指さす。すると壬生先輩は少しだけ眉根を潜め、ため息をついた。


 確かに先輩は美人だと思う。それはこの学校での共通認識だろう。『塩』が『しょっぱい』のと同じくらいに、『壬生先輩』は『美人』と皆の常識と化してるレベルだ。それに生徒会長、学園一の天才、日本3大企業の一つ『壬生グループ』のお嬢様と付加属性がついてしまえば、一種の女神としてあがめられるのも無理ないのかも知れない。


「全く、芥川先生にやらせようと思ったのだが、結局こうなってしまうか。いや、すまなかった。結構重かっただろう?」


「あー。先生が誰かに押しつけるのも、納得できそうな面倒さではありましたね」

 先輩は立ち上がり俺の側に近づく。俺は慌ててその場から下がると、先輩は変な者でも見たかのように首をかしげ、かがんで荷物を持ち上げた。


(うっわ。肌、すげぇ白いな。それにすげえ綺麗な髪)

 肩まで伸ばした光沢のある黒いそのストレートヘアからだろうか、薔薇のような花の香りがして俺はさらに後退した。


「やはり重いな……ああ君。名前は?」

「あ。えっと、楠陸くすのきりくです」

 先輩は段ボールをテーブルの上に置くと、すぐに解放し中からいくつかの紙束を机に出す。そして軽く目を通すと、俺に向き直った。


「ありがとう、楠君。それでまだいくつか箱があったかと記憶しているんだが?」

「まだ一階の倉庫に二箱あるんで今持ってきますよ」

 そう俺が言うと先輩は腕を組み、「ふむ」と呟くと机の上に紙束を置いた。


「ありがとう。だが大丈夫だ、あとは私がしよう」

「……え、良いんですか? 重いですよ」

「なに、そもそも芥川先生にやらせるつもりで押しつけたのだからな。それなのに君にやって貰うとなると心苦しいのだ」


 そう言って先輩は小さく笑うと俺の横から廊下へ出る。そして俺に出るように促すと、「運んでくれてありがとう」といって一人廊下を歩いて行く。


(あれ……なんだか予想していたのと違う?)


 壬生智花生徒会長と言えば、今まで何千何万のステータスを見てきた中でとびっきり異常なステータスの保持者であることは間違いない。属性にドMがつくことはたびたびあるから問題は無いが、まず戦闘力がおかしい。クラスメイトの運動部員が90で、柔道部員が130であるのに対し、彼女は圧巻の260。


それだけではない。擬態力720や独占力1200とかもはや正気の沙汰じゃない。200超えるステータスなんて滅多に見ないのに1000超える独占力とかなんだそれは。


 そして何よりヤバイのは変態力62万20だろう。変態力というのは何なのか詳しくは知らないが、言葉の雰囲気を考えるにあまり良い能力ではないはずだ。予想になるが、変態抑制力がうまく働いているのだと思う。でもこれが決壊したら……?


 そう、だからこそ俺は彼女から避けることをしていたはずだ。


「でも少し話してみた感じ、本当にごく普通の人だよな」


 生徒会長で変態力が高いと言うから、かっちりした変人を想像していた。しかし軽く話した感じはごくごく普通の女性だ。

 微笑んだ先輩が頭に浮かぶ。

 あの荷物、結構腕に来るんだよなぁ。


 俺はドアを閉めると、小走りで先輩の後を追った。


--


「ゴホッゴホッ、楠君のおかげで楽ができるよ、ありがとう」

 先輩は段ボールの前で何度か咳き込む。そのたび段ボールからほこりが舞い、先輩は顔をしかめた。

「いえ、一応俺がやれって言われていたことなんで。それに罰でも有るし」

 俺は段ボールから軽くほこりを落とすと、二つ有るダンボールを交互に持ち上げ、軽い方を先輩の所に置いた。


「罰?」

 首をかしげる先輩を横目に、俺はポケットまさぐる。そしてそこからグシャグシャになったレシートを広げると先輩に見せた。


「これです、買い食いですね」

「では君は買い物中に芥川先生に会ったのかい?」

「そうです」

「……言いにくいことだが、それは悪いことでもなんでもないよ。単に芥川先生が君に仕事を押しつけただけだ」


 まあ、それは竜も俺も思っていたことだ。

「ですよね……」

 予想してはいたけど、はっきりそう言われると、呆れと疲れがどっと来る。


 俺は先輩に促され、一緒に倉庫を出る。そして職員室が近いせいか、あまり生徒の居ない廊下を並んで歩いていく。

「この学園は学食がないのに購買が小さいだろう? どうにかしようと先生方も模索しているようだが未だ対応できていない。それで暗黙的に買い食いも許可しているのだよ」


「え、本当ですか? どおりで芥川先生以外に注意されないわけですね……」

「運が悪かったとしか言い様がないな……こんにちは」

 先輩はどこかで見たことあるような先生と、三十代くらいのスーツを着た男性に礼をする。俺はつられて礼をした。


 そして顔を上げると同時に、彼らの頭の上にステータスが表示される。道理で見たことあると思ったら、先生の方は教頭のようだ。もう一人は……。

「ああ、用務員さんか」


 なぜか教頭達をじっと見ていた先輩だったが、「すまない、行こうか」と言って歩みを再開した。

 それから階段という大きな障害を経て、たどり着いた相談室に入るや否や、俺はすぐに荷物を下ろした。


「大丈夫か?」

「え、ええ」

 生まれたての子鹿のように震える腕をもみ、砂でも入ってるんじゃないかと思うぐらい重い段ボールを見つめる。

「ありがとう、本当に助かったよ」

 先輩は俺が下ろした段ボールを開いたので、俺は開いた段ボールをのぞき込む。そこには大量に詰めこまれた紙束があった。


「……えーと2000年7月相談内容?」

 その紙に書いてあったのは、どうやらOB、OGの相談内容のようだった。そういえばここは生徒相談室か。

「購買を充実させて欲しい、もしくは学食が欲しいって、この年代からなのかよ……」

 先輩は紙を手に取ると、いや、と呟く。


「それは違うはずだ。2001年から新たに近くのパン屋と提携したと聞いている。ただ残念なことに君が入学する4年前に会社が倒産してしまったらしい」

「って、それから代替だいたいを用意しなかったのかよ……」

「昼休みの買い食い見逃しが、代替なのだろうさ」


 内情を聞けば聞くほど、芥川先生に対する評価がだだ下がりする。いやそれでこそ芥川先生とも言えるのかも知れないが。

 俺は積まれていた紙を一枚手に取り、内容を見てみる。丸っこくて読みにくい字で『携帯電話の持ち込みを許可してほしい』と書かれてあった。その次の紙も同じように携帯電話に関する相談事のようだ。


「楠君」

「はい?」

 呼ばれて振り返ると、壬生先輩がノートパソコンの横に紙束を積んでいた。

「今日はありがとう。とても助かったよ、本当は芥川先生にやらせたかったんだが」

「そういえばさっきも言ってましたね……芥川先生と何かあったんですか?」


 俺がそういうと、先輩は苦笑して目に掛かった髪を払う。

「まあ、簡潔に言えば仕事を押しつけられてね。意趣返しに別の仕事を投げたのだけれど、どうやら楠君が被害を被ってしまったみたいだ」


「なんだかすいません?」

「いや、君が謝ることじゃないよ。芥川先生にあきれて驚いただけだ。それじゃあ私は仕事に戻る。もし相談事ができたらここに来てくれ、力になろう」

「分かりました、ありがとうございます。では失礼しました」


 多分来ることは二度と無いけれど、一応そう言っておこう。



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