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3 壬生智花

 

 信じがたいことだが、竜にとってはすべての授業が催眠術なのかもしれない。そうでなければ1、2時限目で寝ていたにもかかわらず、また寝るなんて無理に決まっている。現に保健室で寝ていた俺は、眠気なんて彼方へ吹き飛んでたというのに。


「おーい。昼だぞ? そろそろ起きろ」


 俺は後ろで机とキスをかましている竜を揺さぶると、彼は小声で「みやこ、もっと……」とつぶやいた。あまりにもいやな予感がしたので俺は机をつかむと、大きく振動させる。

「ンガォ」


 竜はなぞの鳴き声を上げ、ゆっくり体を起こす。

「メシ、行こうぜ」

「ん、おお。ちょっと待ってろ、財布とるわ」


 メシと言う二文字に反応し、彼は大きくのびをして鞄から財布を取り出す。俺は竜が立ち上がるのを見計らって椅子から腰を上げた。


「なんかやたら人多くね?」

 普段から購買は混み合う場所ではある。ただし今日は普段よりも多い気がしてならない。

 先ほどから怒濤のように開くポップアップステータスをおさめるため、俺は視線をそらした。

「だなぁ……あ、分かった。今日はなんだか壬生先輩がいるらしい。どうする行くか?」


 壬生先輩……と言えばやっぱり生徒会長の壬生先輩のことだろう。

「壬生先輩かぁ……俺はパスして良いか?」

 是非とも勘弁して欲しいところだ。関わりたくない人ナンバーワンを独走中の彼女に、わざわざ行くことはしなくていい。そもそもだが、ここは人が多い。


「おいおい、壬生先輩だぞ。なんでだよ」

「だってかなり人いるじゃん。俺人混みだと疲れちゃうからな」

 もちろん壬生先輩に近づきたくない理由を言うことができない。もし竜が壬生先輩のステータスを見ることができるのならば、状況は変わるのだろうが。


 竜は「そういやそうだったな」と言うときびすを返す。

「俺は勘弁だけど、竜は行ってきて良いんだぞ?」

「何が何でも見に行きたいって訳じゃねえし」

 まあ、竜はシスコン持ちだから……壬生先輩に強い関心を持つような様子が想像できない。多少は興味を持っているようだが。


「じゃぁスーパーにでも行こう、ここよりは空いてるんじゃないか」

「だな。じゃぁ先生に見つからないように、さっさと行こうぜ。ま、ばれてもそこまで怒られないけどな」

 ははっと二人で笑う。先生だってちょっとの買い物くらい容認してくれるだろう、今までそうだったしこれからもそうだろう。

 

 そう思っていた時が俺にもありました。



「なんで、俺たちがこんなことをしなければいけねえんだよ」

 その竜のつぶやきには全面的に同意する。

「芥川先生のことだし、十中八九面倒だったんだろうよ」


 俺らは目の前に置かれたいくつかの段ボールを見て、同時にため息をつく。段ボールが積まれている倉庫の空気は乾燥していて、とてもほこりっぽい。一応窓を開けるが風はなく、焼け石に水のような気がしないでもない。


 あの芥川あくたがわ摩耶まや先生のことだ。運ぶのが面倒だから、たまたまスーパーで見つけた俺らに仕事を押しつけたのだろう。いつもは見て見ぬふりするくせに。そんな面倒くさがりだから行き遅れるんだ。


「摩耶ちんだし、それっぽいな……。にしてもどうするよこれ。生徒相談室と応接室だってさ。四階と一階隅って見事に逆だよな」

「芥川先生ではないけれど、こうまで逆だと確かに持って行くのが面倒だな」

 俺がそういうとすっと彼は握り拳を作って、顔の前にかざす。ジャンケンで持って行く場所を決めようというのだろう。この荷物を持って四階まで行きたくない。それは俺も同じだ。


「おっけ。最初はグー」

「ジャンケン、ポン」

 俺は作った握り拳を手で包み込むと、小さく息をつく。そして真剣な表情を作り竜を見つめた。

「俺のグーは竜のパーを突き破る!」

「お、すげえな。じゃ俺は一階二箱か」


 竜はそう言って荷物を持ち上げると、さっさと部屋を出て行く。俺は自分以外居なくなった倉庫で息を吐くと、自分の手を見つめた。そして作ったグーでパーを押し飛ばす。

 さて、馬鹿なことしてないで俺も荷物を運んでしまおう。昼休みは有限だ。


「運ぶにしても……生徒相談室か」

 入学してからすでに何ヶ月も経過しているが、行くのは初めてだ。いや、そもそも先生から聞くまでは存在すら知らなかったから、当たり前ではあるか。

「四階にある生徒会室の隣か、マジで面倒だな」

 それも三箱。竜は距離が短い上に二箱だっていうのに。多分、俺が一箱運ぶうちに竜は終えて教室に行ってしまうであろう。なんて友達がいのない奴だ。まあじゃんけんにノって負けたから当然なのだが。


 俺は置いてあった段ボールの一つを持ち上げると部屋を出る。ずしりとしたその箱にはなにかがぎっしり詰まっているようで、少し揺らしたくらいでは音もしない。

 先生のフォローを入れるのは癪だが、確かにこの重さの荷物を持って四階とかやってられない。押しつけられる相手が居るなら押しつけたくなる。


 何人かの先輩達を避けながら、階段を上り目的の部屋へ行く。それほど運動不足ではないと思っていたが、足と手はもう限界だと震えていた。段ボールの数を鑑みて、これをあと二回繰り返さなければならないのは気が滅入る。


 一般教室がないからだろうか。人気の無い四階を歩き、生徒相談室についた俺は荷物を下ろしふと思う。

「あれ、鍵開いてるよな?」


 根本的にだが、この教室は普段使われているのだろうか。竜はともかく俺が聞いたことのない場所だ。もはや何らかの物置として使われている可能性の方が高いんじゃなかろうか。だとすれば基本は鍵をかけっぱなっしにしていることも考慮しなければいけなかったかも知れない。もし閉まっているならばまた階段を降りて鍵を借りに行くことになるだろう。


「それは面倒だな……いや待てよ」

 いや、よく考えればまだいくつか運ばなければならない荷物が残っているから、それを持ってくれば無駄ではなくなる。まあ、とりあえず確認してからだ。


 俺はとりあえずノックをする。まあ、そりゃそうだよな、と思いながらもドアノブに手をかけたとき、

「はい」


 少し低めの、それでいて凜とした女性の声が部屋から聞こえた。

 俺は少し驚きながらも、手を駆けていたドアを開く。そして中に居た人物を見て思わず「げっ」と呟いてしまった。


「ようこそ相談室へ、何か相談事かな」

 そう言って彼女は微笑む。

 普段は口を一文字に閉め真剣な表情をしているから、どこか冷たい印象をあたえる彼女ではある。非常に均一で美しい顔をしているから余計にそうだ。しかし今のように百合の花が咲いたような上品な笑みを浮かべられると、そのギャップに戸惑い、ドキリと心臓がはねてしまう。


 ただ、美人とはいえ関わりたくはない。

 彼女の顔を見ると同時に、いくつものウィンドウが開き出す。そして大量の情報が俺の前に映し出された。


名前 壬生智花みぶともか

性別 女

属性 ドM、生徒会長

戦闘力 260

学力 180

擬態力 720

独占力 1200

変態力 62万20

変態抑制力 62万


……etc



まだ彼女は暴走してません。一気に爆発するので注意してください。

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