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13 保健室での実験②

表示されてる先輩のステータスは深く考えなくて良いです。

だって私が深く考えてないですしおすし(^q^)

 先輩曰く、保健室に充満している独特な臭いは、消毒用の薬品の臭いであることが多いらしい。ただ最近では『モイストヒーリング』という消毒を行わず、自身の免疫に頼る治療法がはやっているらしく、消毒液が減少傾向にあるとか。いずれこの臭いもなくなるのではないか、とのことだ。

 

「とはいえ、だ。我が校の保健室の場合では、独特な臭いというと……愛の巣効果もあって意味深に聞こえるな。あの二人がいる限り一生なくならなそうだ」

「先輩は博識だなというイメージを、一瞬にしてぶち壊すその言葉に感嘆してしまいました」

 どうして先輩はいつだってそう変態的思考に陥ってしまうのだろうか。


「ともあれ私たちは目的の保健室に到達したのだ、して『ヤる』ことは一つだ」

「どうして『ヤる』を強調したのか、子供の僕には分かりません」

「さあ、私はこちらに行こう、君は一応ベッドに座ってくれたまへ」


 スルーされるのに慣れてしまって、もうなんとも思わない。でも先輩ってメールやメッセージでは既読スルーは絶対しないんだよな。実家から離れて一人暮しと言っていたし、家では寂しいのだろうか?


「さて、ステータスを見るためにどのポーズをとるのがいいだろうか? フロントダブルバイセプス? だっちゅーの? キラッ☆? アメリカのサバイバル番組で、崖を登ってようやく見つけた食料の卵を、殻ごと食べる時のイケメン俳優? アヘ顔ダブルピース? もう何も怖くない?」


 これ以上ないくらい満面の笑みを作ろう。そして言ってやれ、

「だまって椅子に座ってろ」


 二次元と三次元と時代を超えた混沌たる選択肢の中に、細かすぎて伝わらないであろうモノマネと、死亡フラグまで混ぜてくるとはさすがに予想外だった。アヘ顔ダブルピースがそこらへんのザコに見えるくらい濃いぞ。一蹴してしまったが。


「まったくしかたのない楠君だなぁ」

 俺はため息をつくと目を閉じる。

「先輩、覚悟は良いですか?」

「ああこい、君のハイパーパワー、この私にぶつけてみろ。ウーハーッ!」

 何でゲームの四強ボスにいそうな台詞を吐くんだ。まあいいや。


「行きますよっ」

 俺は目を開くと雑誌の表紙に有りそうなポーズをしている先輩を見つめた。


名前 壬生智花みぶともか

性別 女

属性 ドM、生徒会長

戦闘力 260

学力 180

魔力 140

擬態力 720

独占力 1200

変態力 62万


 

 文字は勢いよく流れていく。俺は目をそらすことなく先輩を見詰める。

「そう、もっとだ、もっともっとだ! 私の隅々までしっかり調べてくれ!!」

 ……例え相手がグラビアポーズを取ろうとも、目をそらすことなく見つめるんだ。


視力 120

聴力 300

吸引力 180

膨張力 320

嫉妬力 1200

粘着力 720

…………


「くっ、なかなかヤルな! だがまだ終わらんぞっ! もっとだ、もっとこい!」

 ……明らかにツッコミ待ちだ。ならばもはや目をそらしてはいけない、ツッコミを入れてはいけない。ここで逃げるわけには行かない。例えくねくね動いて何かを誘っているようでも、目をそらしてはいけないんだ。それは先輩に屈することを意味する。


発想力 450

采配力 220

力 180

鞭撻力 120

偶然を装う力 60

ぞっこん力 320

…………


「やるなっ、だがっコレでどうぅぅっ、まさか、そんなっ」

 荒い吐息がここまで聞こえてくる。


「卑怯だぞ、くっ……私はどんなにされても、決して屈しない!」

 ……逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。


「ほぁっ、んんっぁぁああっ、クッ、んんんんんんあぁあぁ! らめぇぇぇぇぇえ」

「うあわあああああああああああああああああああああああ、やぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっっっってられるか、ばっきゃろぉぉぉぉおおおお!」


 未だに体をくねくね動かす先輩に吠えざるを得ない。

「なぁにやってんだこの豚ぁぁ! てめぇ遊んでんじゃねーぞ!」

 先輩は少し頬を赤くして、体をくねらせる。


「いや、な。やっぱり少し恥ずかしくなって……乙女の照れ隠しだ」

「乙女の照れ隠しなら、もっと乙女らしくしろやぼけぇ! むしろ汚れて外れた女と書いた汚外女だよ!」


「おーい、楠君の座布団全部もってって!」

「なんでだよ、俺的に上手いこと言ったつもりだったのにっ!」

「まあソレはどうでも良いんだ。君はさっき私のことをなんて言った……その、良ければもう一度言ってくれないかな……♪」


 上目遣いでそういう先輩に、思わず突っ込む。

「何で嬉しそうなんだよ!? このクソブタぁぁぁぁ!」


「もっと大きな声でもう一度!」

「こんのくそブタがあああああああぁぁぁあ」


「ビブラートを意識してもう一度!」

「こぉぉぉんのく~そぉブタぁぁぁあ♪」


「失礼します舘林せんせ…………」


 俺が叫んだ瞬間、ガララとドアが開く。そして数人の女性がこちらを見た。そして俺の言葉を聞いてか、彼女達は沈黙した。茫然自失、その言葉が一番合うだろう。


 あれは確か、隣のクラスの浅間あさまさんと……その他数名の女子だ。何をしに来たのだろうか。舘林先生の名前を出していたから保健室に用があったことは確定である。いや、今はそんなことを言っている場合ではない。俺はさっき先輩をクソブタ呼ばわりしたんだ。


「君、今取り込み中だ。それとノックはしないといけないことを習わなかったのかな?」

 先輩がそういうと彼女たちは慌てて失礼しましたと礼をする。


 確かにノックなしは非礼であるが、それ以前に俺のクソブタ発言のフォローをしてくれ。いや、そんなこと考えてないで、自分でフォローを入れよう。

「あ、あの……」

「し、失礼しましたっ!」


 そう言って彼女たちは保健室から逃げるように出て行く。そしてばたばたと廊下を走る音が聞こえた。


 俺と先輩は顔を見合わせる。先輩は沈黙に耐えきれなかったのか、怒られるのを分かってわざとしたのか分からないが、小さく舌を出して首を少し傾けた。可愛いのがまたむかつく。悪ノリして叫んだ俺も悪いのだが。


 翌日。俺は生徒会長をクソブタ呼ばわりした一年生として、名を馳せることになったのは言うまでも無い。


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