12 保健室での実験①
次回から更新は夜になると思います。
明日は私用と仕事のため家に帰れたら更新します(^q^)
「理想のヒロインというのはすべてにおいて完璧ではいけないと私は思う。弱点は必要だ。すべてにおいて完璧であったら俺必要ないよね、そうなるだろう?」
壬生先輩が真剣な表情でヒロインを語ることに、何ら違和感を感じなくなった今日この頃。
「確かに、一理どころじゃなくありますね」
日が傾きあかね色の光が差すこの相談室では、まだまだヒロイン談義が継続している。
「うむ、それに完璧超人と見せてのちょっとした苦手ってのもまた乙でな。実はコレが苦手! というのが心にぐっとくるのだ。たとえば容姿端麗文武両道の剣道娘が、実は雷が苦手でゴロゴロ鳴ると体を縮こませる、なんていうギャップがあれば、よりその女の子を好きになるに違いない」
「ああ、確かにギャップ萌えって有りますよね。見た目ヤンキーが実は動物大好きで、捨て犬に餌をあげてる所を見られて慌てているところとか」
「そうだ、だからこそちょっとした弱点という物が必要なんだ」
満足げにそう言い切る先輩に頷きながら、ふいに我に返る。
はて、俺はここで何をしているのだろうか。
ここは迷える生徒達を導く相談室である。隣には文武両道、才色兼備、生徒会長、容姿端麗の壬生智花が着席し、笑いながら紅茶に口をつけている。俺たちの楽しい談笑会は今佳境を迎え…………。
「……………………っておっかしいだろ!」
俺はなぜ相談室に足しげく通っているのだ? 理想のヒロインを語るためだろうか。
「どうした、藪から棒に」
俺はどん、とテーブルを叩く。
「俺はここに先輩とヒロインを語るために来たんじゃねぇよ」
俺に負けじとか、先輩もテーブルを叩く。
「では君は何のために来たのだっ!」
「分かって言ってるだろ、ステータス病を治すために決まってるわ!」
俺がそう言うと、先輩は背もたれに寄りかかり、困ったように肩をすくめた。
「とはいえ、私がぱっと思いつく物は、だいたいためしたのだがな……」
トーンが下がる先輩の声を聞いて、少しだけ俺も声を下げる。
「まあ、そう、なんですよねぇ。でも、もはやここって座談会どころか、普通に喋って茶を飲んで遊んでるだけですし」
「君には多少悪いが、私にとっては今の時間は一刻千金、つまり非常に有益な時間であり、非常に楽しい時間なのだ」
「いや、楽しいのは俺もなんですけれど……一応ここは俺の相談受けてるって体ですよね」
そういうと先輩はにっこりと笑う。
「うむ、そうだ。まあ実を言うとステータスのことについて、案を持ってきたんだが……ヒロインを語ることが楽しいのでな、無理に話さなくていいと思い口にしなかった」
「っておい、ちょっとまて。そっち優先だろ。なんで本題が有るのに俺たちはヒロインについて語り合っていたんだよ」
先輩はため息をつくと分かってないな、とばかりに首を振る。
「では君はステータス病が直るのと、一生尽くしてくれる優しい美少女だったらどっちを選ぶ?」
「もちろん美少女です!」
確かにその通りでしたっ!
「まあ、冗談はほどほどにして本題に入ろうか」
「最初からそうしてくれ……」
先輩は紅茶を一口飲むと、さて、と言って話を始めた。
「以前君が提出してくれた、ステータス病を治すために試したことに目を通したよ。私がかけらも思いつかないであろうことも試したのだな」
「二年もあれば、色々できますよ。それにこう言うのって、ふとしたときにアイディアが浮かぶんですよね。いずれ先輩も思いついていたと思いますよ」
なぜか関係ないことをしているときに面白い発想って浮かぶんだよな。
「それを見ているうちに、ふと、試してみたいことが浮かんだのだ。ただそれは君に負担がかかるから、先に承諾を得たい。もちろん承諾しなくても良い、ならば無理にやることはないことも約束しよう」
「承諾ですか? 一体なんです?」
先輩は不適に笑うと立ち上がり、両手を広げた。
「それはな、私のすべてを覗くことだっっ!」
「……タンスに頭でもぶつけましたか? 戯れ言もほどほどにしないと呆れられますよ」
もうすでに半ば呆れてるけど。
「話は最後まで聞きたまえ。詳しく言えば、君の能力を酷使してみようと言うことだ。君は一人の人間をこれ以上無いほど見たことが有るだろうか。全部のステータスが表示されるまでずっと見て居たことはあるか? ずっと使ってみることで新たな事が分かるかもしれない」
一理、あるか。確かにやってみる価値はあるかも知れない。プライバシーもあって、一人の人のすべてのステータスを覗いたことがない。見ようと思えば、いくらでも見えるはずだ。そして限界まで見たら、一体どうなるのだろうか?
「やってみる価値はありますね……でも俺がぶっ倒れて終わるかも知れませんよ?」
「その危険性については理解している。だから君に許可を得てから、そう思ったんだ」
「俺はやって見たい……ですね……!」
「ならば場所を改めよう、最悪倒れてもなんとかなるように一番良い場所を用意しておいた」
そう言って先輩は鍵を取り出す。
「倒れても良い場所? それってもしかして……」
「お察しの通り、保健室のだ」
思わずため息が漏れる。とても準備のいい人だ。
「よく鍵を借りられましたね。生徒会権限ですか?」
「いや、違う。君だって簡単に借りられるだろう」
「え? どうやってですか?」
借りる手段なんて想像も付かない。俺は保険委員でもないし、保健室の担当である舘林養護教諭と話したことは1、2回くらいしかない。アラサーらしいけど、そう思えない程若々しくて美人だから、お近づきになりたいのではあるが。
「なに、舘林養護教諭に、『教頭先生』、『ホテル』の二単語を話すだけだ。快く鍵を貸してくれるだろう」
「教頭先生は若草先生から舘林養護教諭に乗り換えてた!?」
あのクソ眼鏡野郎、若草先生だけじゃなく舘林養護教諭にも手ぇ出してたのか!
「もし君が舘林養護教諭に強くお願いしたいことがあったら、『八月の第二土曜日』、『若草先生』、『罠』といえば快く協力してくれるだろう」
「実はドロドロ三角関係!?」
先輩は教師達のプライベートをどこまで知っているんだ!?
「まあ、それは置いておくとしよう。場所の確保はできているんだが……どうする?」
やってみたいか、と言われればもちろんやってみたい。ただ
「試しても良いですか? とはいえ、ステータスを覗く相手はどうするんですか……ってそうか、だから私のすべてを覗いてくれにつながるんですね」
では最初からそう言え。反応を楽しむために話の順番入れ替えただろう。
「そう、君の目の前に居る」
先輩を凝視する。先輩のHPはほぼ満タンであり、大きく減った様子はない。彼女の横ではパラメータが表示され、今も様々な情報が流れている。
「ちなみに……本気ですか?」
「本気だ」
「え、と。スイマセン。先輩のことが読み取られるんですよ? それいいんですか?」
身体測定の結果が見られるどころではない、性癖が覗かれるのだぞ。俺は嫌だ。嫌だからこそ人の性癖とか、プライバシーに関することははなるべく見ないようにしてるんだ。
「何を言ってるんだ。君の境遇を思えば、この身を差し出すことに何らためらいはない。今もつらいだろう、さあ、私を使って能力の検証をしよう」
そう言って両手を広げる先輩は慈愛に満ちているようにみえる。ただどうしてかその慈愛が嘘くさくてならない。
今までの先輩ならば、ボケを挟み込みながら『仕方ないな』、と最終的に許可を出すケースが多かった。でも今の先輩はボケを交えず、綺麗な言葉で俺を誘導しているような気がしてならない。
少し探ってみても良いかもしれない。
「……実は先輩は、見られることが好きなんですか?」
先輩はそういう性癖もお持ちなんですか?
じっと見ていたおかげで、先輩の顔がほんの少し引きつるのが分かった。
「いや違うんだ、確かに見られることは嫌いではないっ。決して自分の欲求を優先させているわけではないんだ。君のためなんだ!」
「言い訳から入るってそれもう確定ですよ。というか暴露してますよね」
「良いじゃないか! 君は私が見たい、私は見られてみたい。win-winだろう!」
「まさかの半ギレ暴露っ!?」
「まったく。こんな心理誘導をしてくるなんて、君は侮れない……。今ので私への尊敬値が大幅に下がってしまったのだろうか」
「いえ、もうすでに失墜していました……」
何ら変化はございません。
「ということで保健室へ行くぞ、別名、教頭との愛の巣だ」
「すげえ行きたくねぇっ!」
そういえば教頭って妻子持ちだよな……いや、もう教頭のことは頭から離そう。