要らない旦那に読ませる魔法の絵本。
毒リンゴです。お一ついかが?
ディズニーチックな風体の老婆に呼び止められた。
ここは電気仕掛けの街。
電気で光り。
電気で動く。
魔法とか、そんなディズニーチックなものなどないはず。
だが、目の前には毒リンゴを差し出す老婆がいる。
これ、TVショーか?
毒リンゴです。お一ついかが?
老婆は繰り返すので。
俺は真っ赤な毒リンゴを受け取り、握り締める。
目の前のディズニーチックな風体の老婆が何の目的を持ち、誰に頼まれたのか、そんなことはどうでもいい。
ともかく俺は真っ赤な毒リンゴを一つ手に入れた。
なあ、リンゴ食べない?
道行く人に、自分好みの女の子に声をかける。
髪の長くて。
足首がキュッと締まってる女の子。
真っ赤なリンゴはポッケに入れてある。
嘘か?まことか?毒リンゴ?
せっかく手に入れた毒リンゴなのだから。
ぜひ試してみたい。
そう思うのは当然だ。
かといって、彼女で試すわけにも。
かといって、女房で試すわけにも。
かといって、子供で試すわけにも。
そういうわけで、こうして電気仕掛けの街で声をかけているわけで。
どうせなら自分好みが望ましい。
なあ、リンゴ食べない?
ポッケにある毒リンゴを季節外れのコートで磨く。
やっぱリンゴじゃ釣れないね。
諦めようとした時。
おいしそうなリンゴですね。
そこにはプリンセスチックにコスプレした女の子がいた。
お一ついただけるかしら。
上品な口調で、女の子は言う。
よく見れば。
髪が長くて。
足首がキュッと締まっている。
自分好みな女の子だ。
周りを見回して。
電気仕掛けの街を確認する。
本当においしそうなリンゴだわ。
プリンセスチックな女の子は一口毒リンゴをかじる。
毒リンゴが喉元を過ぎていく。
俺は唾を飲み込んだ。
嘘か?まことか?毒リンゴ?
女の子は地面に座り込み、倒れていく。
マジか?毒リンゴ。
そして、俺は取り押さえられた。
そう、珍しく子供に絵本を読んでいたはずだ。
あんまり女房がしつこく絵本を読んでやれとうるさかったから。
だが、気がつけば、牢屋に入れられている。
毒リンゴをプリンセスにかじらせた罪でだ。
電気仕掛けの街は目の前にはない。
薄汚い牢屋の中で一人きりだ。
女房の姿も、子供の姿もない。
よく見れば、俺の格好も変わっている。
寝間着を着ていたはずなのに。
茶色くて、貧乏くさい、1枚布の服を着てやがる。
どういうことだ?
これは夢か?
どこから?
毒リンゴの下りからか?
この牢屋から俺を出してくれ。
あら、寝ちゃったの?
パパは?
あたしは子供に毛布をかけた。
そして、絵本の中の牢屋の絵を見て、微笑んだ。
そこには旦那に似た男がみじめに鉄格子を掴んでいる。
別れたいといっても。
別れてくれなかった旦那。
浮気ばかりする旦那。
いい気味だ。
あたしは絵本を閉じて。
他の本と一緒に縛り付ける。
なんのことはない。
明日の廃品回収に出すだけだ。
これであたしもあの男から解放される。