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うつぼ作品集  作者: utu-bo
3/64

王様と乞食

ここは奪うことしか知らない王様の国。

国にはたくさんの国民がいます。

そして、国民はみな王様に奪われる側の人です。


国民が育てる農作物。

国民が育てる家畜。

国民が加工する衣服。


全て王様が奪っていきます。


この国は王様が国民から奪い続けることで成立していました。




王様の暮らすお城は国民のおかげでどんどん立派になっていきます。


国民から奪った食料品は冷蔵庫へ。

国民から奪った衣服はクローゼットへ。


国民から奪った物を全部お城の倉庫にしまいます。


お城がどんなにいびつで立派になろうと、王様は国民から奪い続けました。


この国の王様は奪うことしか知らないのです。








今日も馬をひいて、奪うためにお城の外に出かけます。




でも、お城の外はとても静かでした。




風がピューっと吹いて、瓦礫の山から土埃が舞います。




国民の姿が見当たりません。




どうして?




それは王様が全て奪ってしまったから。



豊かだった国が瓦礫の山になって、国民がいなくなってしまったのです。




でも、王様は国民がいなくなってしまったことを悔やむこともありません。



悔やむことよりも大事なことがあります。



王様としての使命。


国民から奪わなければならない。


国民から奪い続けなければならない。


じゃあ、奪う相手をまた作ればいいじゃあないか。




王様は瓦礫の山を探します。




「誰か?誰かおらぬか?」




「王様、ここにおります。」




瓦礫の山の下から顔を出したのは1人の乞食です。




乞食は何も持たない者。


だから、国から出ていくこともできなかったのです。

瓦礫の山に潜み、そして、瓦礫と一緒に朽ちてしまう運命でした。



乞食は真っ黒に汚れた顔で王様に跪きます。

何層にも積み重なった垢と汗がとても臭くて、王様は鼻をつまみます。




「さっさと風呂に入ってこい。」




まず王様は乞食をお城にある立派なお風呂に入れました。


何回も石鹸で体を洗わせて、ようやく石鹸の香りがするようになります。


それから王様は乞食に衣服を与えます。


お城の立派なお風呂にも。


肌を滑るように纏う綺麗な衣服にも。


乞食は目を丸くして、驚きます。


でも、一番の驚きはあの王様です。


国民の物を全て奪って、国を瓦礫の山にしてしまった王様が。


こんな乞食をお風呂に入れてくれて。


こんな乞食に綺麗な衣服を着せてくれて。


とても信じられない出来事ばかりです。


そして、目の前には見たこともない豪華な料理が並びます。


ゴミ箱に捨てられた、腐った物をあさってばかりいた乞食。


目の前にある夢のような料理にお腹の音が鳴り止まなくて。


ひたすらがっついて、料理を口に入れます。


とてもおいしくて、涙と涎が止まりませんでした。








どうして?


乞食は思いましたが、恐れ多くて、口に出せません。


夢のような時間が終わってしまう気がしたからです。


食事が終わった後、乞食は頭を下げたまま、王様の言葉を待ってました。



「これを待っていけ!」



ズサっと大きな袋が投げられます。


袋の中身は着替えの衣服と食料品でした。


奪うことしか知らない王様が国民から奪った物です。



「???」



乞食は余計に混乱しますが、深々と頭を下げたまま。



「王様、ありがとうございます。」



と震えた声でお礼の言葉を言います。



ありがとうございます?なんじゃ、それは?


それは王様の知らない言葉です。


王様は奪うことしか知らないのです。


だから。


「うむ。」


とだけ頷きます。



乞食はたくさんの衣服と食料品を持って、瓦礫の山へと帰っていきました。






数日後、王様は再び瓦礫の山に馬でやってきます。



王様の馬の足音を聞いて、あの乞食が姿を現し、跪きます。



その臭さは前のままです。



せっかく風呂に入れてやったのに。


高価な石鹸で洗わしてやったのに。



よく見ると、衣服も瓦礫と同じ色の布を纏っているだけです。



「おい、乞食。衣服に、食料品はどうしたんだ!」



王様が怒って叫びます。


すると、乞食の後ろに何人もの乞食が現れました。


顔は乞食らしく真っ黒ですが、王様の衣服をみな纏ってます。



「すいません。王様。僕には家族がいます。だから、みんなで分けさせていただきました。」



みんなで分けた?なんじゃ、それは?



またまた王様の知らない言葉です。


王様は奪うことしか知らないのです。


だから。


「うむ。」


とだけ頷いて、また着替えの衣服と食料品を置いていきました。















来る日も。



来る日も。



王様は国民から奪った物を乞食に持ってました。


乞食は身なりも綺麗になって。


瓦礫の山に小さな家が建って。


乞食達の暮らしも変わっていきます。



学校が出来て。


知識を学んで。


仕事をして。


たくさんの物を手に入れました。


もう何も持たない乞食ではありません。


乞食は国民になったのです。


そして、再び国が出来上がったのです。



元々、乞食だった国民は王様に感謝します。



寛大で、心優しい王様。



何も持たない乞食に。



衣服や食料品をくれて。



お風呂にも入れてくれて。



いい匂いの石鹸で洗わせてくれて。



この国は心優しい王様のおかげ。




元々、乞食だった国民は王様を讃えます。













ある日、王様が馬をひいて、やってきます。



寛大で、心優しい王様がやってきた。


と国民は王様に跪き、大喜びします。




王様は跪く国民の首に大きな剣を当てます。


どうして?


と国民が思う前にその首は簡単に転がっていきます。



「我が輩は王様なり。お前達の物は全て我が輩の物。さっさと差し出すがいい!」




王様は剣を空に向けて、叫びました。





ここは奪うことしか知らない王様の国。


ありがとうの意味も知らぬ王様の国。。


みんなで分ける意味も知らぬ王様の国。



王様が国民から奪い続けることで国が成立していました。




【おしまい】









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