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うつぼ作品集  作者: utu-bo
29/65

キミならダイジョウブだよ。

2歳の妹が大声をあげる。

飴玉を飲み込んで、喉に詰まらせたのだ。

パパとママは大騒ぎで、掃除機を妹の口に当てて。

なんとか飴玉を吸い出すことに成功したけれど。


どうして飴玉なんか!


パパとママの喧嘩始まる。


パパのせい?


ママのせい?


責任を押しつけあうパパとママ。



僕は妹とずっと泣いていた。


ずっと。


ずっと。



【キミならダイジョウブだよ。】



声が聞こえた。

優しい声。

僕が後ろを向くと。

黒い煤がかった影がいる。

目も口もない。

手も足もない。

でも、影は笑っていた。

だから、僕は泣きやむことができた。



僕が泣いていたのは。


妹に飴玉をあげたのは僕だから。


なんでって?


理由は分からない。


でも、怖かった。


パパが僕に気づいて。


ママが僕に気づいて。



どうして飴玉を!と。



パパとママに怒られるのが怖かった。


けど、もう怖くない。


だって、声を聞いたから。


だから、僕はきっと怒られない。



【キミならダイジョウブだよ。】



黒い煤がかった影がそう言うから。






駄菓子屋で万引きをした時も。


本屋で万引きをした時も。



【キミならダイジョウブだよ。】



黒い煤がかった影が言うから、怖くなかった。





ママの財布からお金を盗んだ時も。


友達の財布からお金を盗んだ時も。



【キミならダイジョウブだよ。】



黒い煤がかった影が言うから、怖くなかった。





友達の宿題を丸写しにした時も。


携帯でカンニングした時も。



【キミならダイジョウブだよ。】



黒い煤がかった影が言うから、怖くなかった。








A君の机に花瓶をたてた時も。


A君の教科書に汚い言葉を落書きした時も。


A君のお金で風俗やカラオケに行った時も。


A君の給食にダンゴ虫や錆びた鉄クズを入れた時も。


A君が泣きじゃくっても、蹴り続けていた時も。


A君の恥ずかしい画像をネットで流した時も。



【キミならダイジョウブだよ。】



黒い煤がかった影が言うから、怖くなかった。






そして、A君が学校の屋上から飛び降りたんだ。





遺書も何もない。



携帯電話の記録も残っていない。



A君をいじめていたという証拠は何もない。



学校の先生も。


いじめに加担していた奴も。


いじめを傍観していた奴も。


何事もなかったように口を閉ざす。


だって、いじめがあったなんて世に知れたら。



あの学校の先生とか。


あの学校の生徒とか。


あの学校の卒業生とか。



そんな風評被害でみんなの人生が狂ってしまうから。



誰も真実など知られたくないんだ。



真実の追求よりも毎日の生活が大事なんだ。







学校の先生も。


いじめに加担していた奴も。


いじめを傍観していた奴も。



【キミならダイジョウブだよ。】



黒い煤がかった影が言う言葉をきっと聞いたのだろう。


黒い煤がかった影はどこにでもいるのだから。


そして、いじめという面倒くさい真実を闇に葬ったんだ。




もちろんいじめていた僕もだけど。











大人になった僕は政治家をしている。


国会の合間に。


若い秘書の身体を触って。


イチャイチャして。


不倫している。



国会の答弁では。


経済問題とか。


税金問題とか。


エネルギー問題とか。


難しい言葉で飾って。


分かった風な顔で答弁している。



【キミならダイジョウブだよ】



黒い煤がかった影が言うよ。


だから、僕は悪くないんだ。


何が起きても、僕のせいじゃないんだ。





国会で僕が答弁している時も。



議員さんの達の後ろにも見えるんだよ。



黒い煤がかった影が。



目も口もない。



手も足もない。



でも、笑っている。



【キミならダイジョウブだよ。】



って、議員さん達に話しかけているんだ。





この国が消滅しても、決して僕達のせいじゃないんだ。




【おしまい】


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