お菓子職人見習いのチトはクッキーで世界を変える。
お菓子の国の真ん中にはお菓子でできたお城が建ってます。
そのお城でお菓子の国の王様と家来達が暮らしています。
お城のまわりには城下町があり、国のみんなが仲良く暮らしています。
さて、そこから山を登り、山を降りて、崖を渡ったところにお菓子の国のお菓子工場がありました。
お菓子の国のお菓子のお城もこのお菓子工場で作られたお菓子でできています。
クッキーにチョコレート。
マシュマロにキャンディ。
などなど。
お菓子工場には何でも作れるお菓子職人がいて、お菓子の作り方を勉強するお菓子職人見習いのチトがいました。
お菓子職人見習いのチトはまだ勉強中の身なので、不恰好なクッキーを作ることしかできません。
でも、一生懸命に作ることは誰にも負けません。
そんなお菓子職人見習いのチトとお菓子の国の王様が出会いました。
お菓子の国の王様は昔、とてもわがままで、おいしいお菓子を独り占めしていました。
でも、お菓子職人見習いのチトと出会い、みんなでお菓子を分けっこする喜びとみんなの為にお菓子を作る楽しさを知りました。
まあ、それは別の機会に話すとして、今ではお菓子職人見習いのチトとお菓子の国の王様はとても仲良しで、いつも一緒にお菓子を食べたり、一緒にお菓子を作ったりしています。
今日もお菓子職人見習いのチトは不恰好なんだけど、とてもおいしいクッキーを持って、お菓子のお城にやってきます。
お菓子職人見習いのチトはクッキーの入った紙袋を城下町のみんなに、お菓子のお城の家来達にも配って、歩きいて、お菓子のお城に着いたので、お菓子の国の王様の前に来た時には紙袋が1つしかありませんでした。
でも、へっちゃらです。
お菓子職人見習いのチトとお菓子の国の王様は目を合わせて、ハモッて言いました。
『はんぶんこ。』
不恰好なクッキーを分けっこして、お口に入れると、【ホワワ~ン】と2人とも自然と笑顔になります。
おいしくて、優しいクッキーにお菓子のお城の家来達も、城下町のみんなも【ホワワ~ン】と笑顔を見せます。
お菓子の国はおいしいお菓子と【ホワワ~ン】と笑顔の溢れる国でした。
【本日のニュースです。南の国で戦争はまだ終わりません。】
お菓子のお城の王室のテレビがニュースを流します。
『王様、僕に何かできないかな?』
お菓子職人見習いのチトは南の国のニュースを見て、悲しい気持ちになりました。
僕にできること?
不恰好だけど、クッキーを作ること。
『王様、僕に南の国に行かせてください。僕の作ったクッキーを食べてほしいから。』
お菓子職人見習いのチトはお菓子の国の王様にお願いしました。
もしチトに何かあったら?
お菓子の国の王様は心配します。
『僕にはクッキーを作ってあげることぐらいしかできないから。』
お菓子職人見習いのチトが何度も何度も言うので、お菓子の国の王様は仕方がなく首を縦に振りました。
『では、家来をお供につけよう。』
お菓子の国の王様が言いますが、お菓子職人見習いのチトは首を横に振ります。
『僕は1人で大丈夫です。。僕はお菓子職人見習いですから。クッキーを食べてもらうだけですから。』
そう言って、お菓子職人見習いのチトは大きなリュックサックにクッキーの入った紙袋をいっぱい詰め込んで、たった1人で南の国へ出発しました。
緑の山が続き。
澄んだ川が流れ。
やがて、景色が変わります。
緑の山が焼け落ち。
澄んだ川が濁って。
戦争が終わらない南の国にお菓子職人見習いのチトはやってきました。
『ねえ。』
お菓子職人見習いのチトはリュックサックを引っ張られたので、振り向きました。
そこには薄汚れた布をかぶった子供がいました。
『ねえ。』
もう一度、子供が引っ張ります。
お菓子職人見習いのチトは子供を何も言わず抱き寄せました。
戦争をやっているのは南の国の王様と南の国の兵隊さん。
お菓子の国の王様は何でも『はんぶんこ』と言って、みんなと仲良く分けっこができるのに。
南の国の王様はどうして分けっこしないんだろう。
お菓子職人見習いのチトはみんなにクッキーを配りながら、考えていました。
『おいしいね。』
『これ、怪獣だよ。』
『僕は飛行機だ。』
『甘~い。サクサクだよ。』
終わらない戦争の中。
家を失い。
家族を失い。
悲しいはずです。
でも、クッキーを食べて、大人も子供も関係なく、みんな笑ってくれたので、お菓子職人見習いのチトは嬉しくなります。
『何をしている!』
みんなの笑顔が固まり、クッキーを食べる手も止まります。
南の国の兵隊さんがやってきて、銃を構えて、怖そうな声を出します。
『ここで何をしている!』
お菓子職人見習いのチトに銃を突き付けます。
『お菓子の国からやってきたお菓子職人見習いのチトといいます。クッキーを配りに南の国にやってきました。』
お菓子職人見習いのチトの声は震えていました。
南の国の兵隊さんは顔を見合わせて。
『クッキーか?ずっと食べてないな。じゃあ、俺達も食っていいか?』
そう言いだしたので、お菓子職人見習いのチトは首を縦に振ります。
南の国の兵隊さんは銃を下ろして、クッキーを口に入れます。
『なかなかおいしいじゃないか。』
『これスーパーカーだろ。』
『こっちはペンギンだ。』
みんなと同じように南の国の兵隊さんもクッキーを食べて、笑うので、お菓子職人見習いのチトは嬉しくなります。
さっきまで固まっていたみんなもまたクッキーを食べてはじめ、笑顔がこぼれます。
クッキーを持ってきてよかった。
お菓子職人見習いのチトは思いました。
南の国のお城は鉄の壁で囲まれた頑丈なお城です。
お城の窓から双眼鏡が顔を出します。
南の国の王様です。
南の国の兵隊さんが帰ってくるのが遅いので、窓から双眼鏡で探しているのです。
そして、見つけました。
そこには見たこともない奴を囲んで、南の国のみんなと兵隊さん達がクッキーを笑って、食べてるではありませんか。
南の国の王様はくやしくて、双眼鏡を床に投げつけます。
わしは南の国のために必死で頑張っているのに。
国が戦争に勝てば、領地も増える。
領地に資源があれば、国が潤う。
国が潤えば、国のみんなの生活が裕福になる。
国のみんなの生活が裕福になれば、国に笑顔が咲き誇るはず。
だから、戦争をして、頑張っているのに。
南の国の王様はくやしくて、鐘を叩いて、兵隊さんを呼びます。
鐘を叩いた後、南の国の王様は手旗信号を振ってました。
『ハ・ヤ・ク・モ・ド・ッ・テ・コ・イ・!・ソ・イ・ツ・ヲ・ツ・レ・テ・コ・イ!』と。
南の国のお城の王室の椅子にお菓子職人見習いのチトは座らされました。
南の国の王様は不機嫌な顔で、じっとお菓子職人見習いのチトを睨みつけます。
『お菓子の国からみえたお菓子職人の方です。』
南の国の兵隊さんも心配そうに紹介し。
『はじめまして、お菓子職人見習いのチトです。僕はクッキーを配りにきました。』
お菓子職人見習いのチトは深く頭を下げてから、南の国の王様にクッキーの入った紙袋を差し出します。
『ちっ!見習いかよ。で、なんのために?』
南の国の王様は不機嫌な顔のまま、クッキーに手もつけません。
『みんなが笑顔になるために。』
お菓子職人見習いのチトは誇らしげに答えます。
『ちっ!笑顔?ちゃんとこの戦争に勝てば、国もみんな豊かになるから、笑顔になれる。』
南の国の王様は机をバンと叩きました。
『お菓子の国では戦争をしなくても、何でもはんぶんこで分けっこしてます。お菓子の国の王様も、家来も、国のみんなも笑顔で・・・。』
お菓子職人見習いのチトはお菓子の国の王様とはんぶんこしたクッキーの話をしました。
『じゃあ、お菓子職人もはんぶんこできるんだな。』
南の国の王様は意地悪そうに言って、お菓子の国の王様に手紙を書きました。
【お菓子の国の王様へ。仲良くはんぶんこするのが得意なようだが。だから、お菓子職人を分けっこしてもらう。お菓子職人見習いのチトを我が南の国とお菓子職人見習いとするのでよろしく。南の国の王様より。】
なんて、手紙を受け取ったお菓子の国の王様が嘆きました。
お菓子職人見習いのチトが南の国から帰ってこないなんて。
やっぱり南の国に行かすんじゃなかった。
お菓子の国の王様はお菓子職人見習いのチトを取り戻しに南の国に行こうとしましたが、お菓子の国の家来達が、お菓子職人が、国のみんなが止めます。
『王様。危険ですから。きっとチトさんは帰ってきますから。待ちましょう。』
そう説得されて、お菓子の国の王様はお菓子のお城に留まりました。
その頃、南の国のお城の厨房ではお菓子職人見習いのチトが一生懸命クッキーを作ります。
不恰好でも、心を込めたクッキー。
南の国の王様にも食べてもらえるように。
そんな願いを込めて、お菓子職人見習いのチトはクッキーを作っていました。
【本日のニュースです。南の国ではまだ戦争が終わりません。】
南の国の兵隊さんは銃を背負って、戦場へ向かいます。
でも、前とはちょっぴり違います。
それはお菓子職人見習いのチトが作ったクッキーの入った紙袋を腰のベルトやリュックサックにぶらさけていることです。
南の国の兵隊さんが歩くたび、クッキーの入った紙袋がぶらぶら揺れて、クッキーの優しい香りが漂います。
南の国の兵隊さんの回りには『クッキーちょうだい×2!』と、いつしか子供達が集まるようになりました。
『これは何の形?』と、子供達に聞かれれば。
『お花のかたちだ。』とか。
『チョウチョだよ。』とか答えたりして、南の国の兵隊さんにも自然に笑顔が溢れて。
『ありがとう。』と、クッキーを頬張る子供達にも自然に笑顔に溢れます。
いつしか南の国の兵隊さんの歩く戦場には笑顔のお花が咲き誇るようになりました。
南の国の王様が王室の窓から双眼鏡で国を覗きます。
国が戦争に勝てば、領地も増える。
領地に資源があれば、国が潤う。
国が潤えば、国のみんなの生活が裕福になる。
国のみんなの生活が裕福になれば、国に笑顔が咲き誇るはず。
でも、領地が増えても。
でも、資源があっても。
でも、国が潤っても。
でも、みんなの生活が裕福にになっても。
それほど笑顔は増えることはありませんでした。
なのに、お菓子職人見習いのチトが来てから。
お菓子職人見習いのチトがクッキーを配りはじめてから。
南の国には笑顔の花がちらほらと咲き始め。
今では南の国の兵隊さんが行く先々でも笑顔の花が咲き誇ります。
南の国の王様は双眼鏡で笑顔を見つけるたびに嬉しくなるのですが、戦争が間違っていたのでは?と疑問を抱くようになりました。
でも、それを誰にも相談できません。
毎日、毎日、お菓子職人見習いのチトがクッキーを作ってくれるのですが。
『ふん、こんな不恰好なクッキーなんか!』
と意地を張って、食べることができません。
それにクッキーを食べてしまうとお菓子職人見習いのチトがお菓子の国に帰ってしまい、また南の国のみんなの笑顔がなくなってしまうかも?と不安があったからです。
南の国の王様はお菓子職人見習いのチトのクッキーの匂いがする時はお腹の音が誰にも聞こえないように寝室に閉じこもり、ご飯が出来上がるのをずっと1人で待って、毎日を過ごしていました。
その頃、お菓子の国の王様はお菓子職人見習いのチトがいないので、おやつのマシュマロすら喉を通りません。
南の国でチトが辛い思いをしていないか?
南の国の王様にいじめられていないか?
お菓子の国の王様はお菓子職人見習いのチトのことばかり考えて、国の事も手がつきません。
お菓子のお城の家来達も、城下町のみんなも王様を心配します。
お菓子を分けっこするとみんなで笑えて、楽しいけれど、友達を分けっこなんかできない。
お菓子の国の王様はお菓子職人見習いのチトを連れ戻しに南の国へ行くことを決めました。
お菓子の国の特製のお菓子の馬車が走ります。
緑の山が続き。
澄んだ川が流れ。
やがて、景色が変わります。
緑の山が焼け落ち。
澄んだ川が濁って。
お菓子の馬車が南の国へやってきました。
南の国にお菓子の馬車が到着し、窓を開けると、お菓子職人見習いのチトのクッキーの匂いがしました。
お菓子の国の王様は馬車を飛び降ります。
犬みたいに鼻をクンクンさせて、回りを見渡すと、南の国の兵隊さんから子供達までみんなかわいい紙袋を持ってます。
そう、お菓子職人見習いのチトのクッキーの紙袋です。
『おじさん、クッキー食べる?』
『おじさん、どうしたの?』
膝をついたお菓子の国の王様に子供達が寄ってきて、お菓子職人見習いのチトが作った、不恰好なクッキーをくれました。
クッキーを口に入れると、おいしくて、嬉しくて、涙が出てきます。
『どうかしましたか?』
そのうち、南の国の兵隊さんまで集まってきて、クッキーを食べて、泣いているお菓子の国の王様を囲みます。
みんな、お菓子職人見習いのチトのクッキーを持っていて、お菓子の国の王様は嬉しくて、涙が止まりませんでした。
お菓子の馬車が南の国のお城の前に止まりました。
城門がゆっくりと開いて、南の国の兵隊さんが出迎えてくれました。
南の国のお城の中もチトのクッキーの匂いでいっぱいで、お菓子の国の王様は嬉しくなります。
チトはどこにいるんだろう?
立派な椅子に腰掛けるお菓子の国の王様はドキドキしていました。
南の国の王様は不機嫌そうに入ってきて。
『お菓子の国の王様が何の用ですか?』
お菓子の国の王様が勇気を出して、言いました。
『お菓子の国のお菓子職人見習いのチトはどこにいますか?』
南の国の王様は大きくため息をつきました。
『ごめんなさい。チトは大切な友達なのではんぶんこも、分けっこもできません。お菓子の国に帰してください。』
南の国の王様は窓まで歩いていきます。
『南の国は領地も小さく、資源も少なくて、わしは毎日、毎日、双眼鏡で国のみんなが笑顔になることを夢見ていた。領地が増えれば、資源があれば、国が潤えば、国のみんなの生活が裕福になれば、国に笑顔が咲きほこるはずと思って・・・。』
南の国の王様は窓際に立ちます。
『ここから双眼鏡で国を眺めていると笑顔が咲きほこるのがよく見える。お菓子職人見習いのチトがクッキーを配るだけで、みんなの笑顔が咲きほこるようになった。チトがいなくなったら、また笑顔が消えてしまう。』
南の国の王様は双眼鏡を下ろして、うつむきます。
『わしはどうすればいいんじゃ?』
南の国の王様は窓の下に広がる国を眺めて、もう一度ため息をつきました。
『王様、クッキーができました。』
2人の王様の部屋に飛び込んできたのは南の国の兵隊さんでした。
南の国の兵隊さんは元気のない王様を元気づけるためにお菓子職人見習いのチトにクッキー作りを教えてもらって、ようやく、そのクッキーが出来上がったのです。
銃を持って、戦争に行くことしか知らない南の国の兵隊さんは見慣れない格好をしています。
鎧はエプロン。
ヘルメットは帽子。
ゴツゴツした手は絆創膏だらけ。
そして、銃の代わりにクッキーの入った紙袋を持っています。
紙袋からとても甘い匂いがします。
南の国の王様はビックリして、口をパクパクして、言葉が出ません。
『王様、どうぞ食べてください。』
南の国の兵隊さんは南の国の王様に紙袋を渡して。
南の国の王様は紙袋を受け取って。
できたてのクッキーは温かくて。
紙袋の封を開けると、不恰好なコロコロクッキーが転がってきます。
南の国の王様は大事なクッキーを落とさないように『おっととっと』と踊る姿にエプロン姿の兵隊さんが笑います。
南の国の王様も南の国の兵隊さんが笑うから、自分も笑ってしまいます。
一口かじると、嬉しくて。
二口かじると、優しくて。
三口かじると、おいしくて。
南の国の兵隊さんが作ったクッキーはお菓子職人見習いのチトのクッキーよりも不恰好だけれど、南の国の王様の心にしみていきました。
お菓子の国のお菓子の馬車が走ります。
馬車の中にはお菓子の国の王様が乗っていて。
もちろんお菓子職人見習いのチトも乗っています。
南の国のお城も見えなくなり、2人はお菓子の国に帰る途中です。
お菓子の国の王様も、お菓子職人見習いのチトも疲れて、眠っています。
『・・・チトの作ったクッキー食べたいよ。』
お菓子の国の王様が寝言を言うと。
『・・・いっぱい作るから、待っててね。』
お菓子職人見習いのチトも寝言で答えました。
【本日のニュースです。今日で南の国の戦争は終わりました。南の国の王様は今日を『クッキー記念日』と制定し、南の国の王様と兵隊さんと国のみんなでクッキーパーティーを開きましたとさ。】
【おしまい】