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うつぼ作品集  作者: utu-bo
14/67

家庭教師とsexと殺し屋

俺はTVショーを見て、軽く舌打ちをした。


レポーターが少女の心の闇を語って、難しい肩書きのコメンテーターが理想論を振りかざしている。


正直、こういうTVショーは好きじゃない。


職業が殺し屋だから。


倫理観も通用しない世界の住人だから。


かもしれない。


俺はTVを消した。


そして、その少女の心の闇を思い出していた。









パパはあたしが大事と云う。


ママはあたしが大事と云う。






それが嘘だとあたしは知っている。





パパが本当に大事なのは仕事。


ママが本当に大事なのは若いツバメ。





あたしはパパとママが作り上げた鳥籠みたいな牢獄でさえずる小鳥。


翼にマイクロチップを埋められて、逃げることもできない小鳥。




絶望色した空の下、鳥籠の鉄格子の隙間からさえずるしかできないあたしに家庭教師がつけられた。


名前はタカシ君と云った。


ママの書類審査を合格しただけあって、タカシ君はイケメンだ。

学歴だってよだれものの高学歴で、きっとママの自慢の家庭教師だ。





タカシ君はあたしに勉強を教えてくれた。


タカシ君はあたしにsexを教えてくれた。





そう、タカシ君はあたしとsexして、ママからお金を貰う。




「いい商売だ。汗水流して、働くことが馬鹿らしくなる。」




あたしの上で汗水流して、タカシ君が云う。




「あたしを鳥籠から外に連れて行って欲しい。」




あたしが云うと。




「駄目だよ。パパもママも君が大事なんだから。」




そう云って、タカシ君はあたしの上で果てる。




パパが大事なのは仕事。


ママが大事なのは若いツバメ。


タカシ君が大事なのはお金。




誰もあたしを大事にしてくれない。




そんな話をした3日後、タカシ君は家庭教師を辞めてしまった。


あたしとのsexがバレたから?


原因は知らない。



でも、直ぐに新しい家庭教師がやってきた。


ケンジ君だ。


もちろんイケメンで、高学歴だ。




ケンジ君もあたしに勉強を教えてくれた。


ケンジ君もあたしにsexを教えてくれた。




「あたしを鳥籠から外に連れて行って欲しい。」



ケンジ君にもあたしは同じことを云う。



「駄目だよ。パパもママも君が大事なんだから。」



ケンジ君もタカシ君と同じことを云って、あたしの上で果てる。



パパが大事なのは仕事。


ママが大事なのは若いツバメ。


ケンジ君が大事なのはお金。


誰もあたしを大事にしてくれない。




そして、ケンジ君も3日後、突然、家庭教師を辞めてしまった。




あたしにsexを教えてくれた後で。


鳥籠から外に連れて行って欲しいと云った後で。


家庭教師は辞めてしまう。



どうして?



足りない頭で妄想してみた。


本当にマイクロチップがあたしに埋められていて、パパとママがあたしを常に監視している。


家庭教師とsexするのはsafe?それとも、out?



鳥籠から外に連れて行って欲しいと云うのはsafe?それとも、out?


簡単な検証が必要となった。


何がsafeで、何がoutなのかを明確にするために。





次にきた家庭教師はシロウ君。


もちろんイケメンで、高学歴。



シロウ君はあたしに勉強を教えてくれた。


シロウ君はあたしにsexを教えてくれた。



あたしがいつものセリフを云わずにいると、シロウ君と勉強とsexをし続けた。


あたしがケンジ君とのsexに飽きた頃にはタカシ君の家庭教師の総時間数も、ケンジ君との総時間数もすでに越えていた。


満を持して、あたしはシロウ君に云う。


「あたしを鳥籠から外に連れて行って欲しい。」


シロウ君は待ちかまえていたように答えた。


「駄目だよ。パパもママも君が大事なんだから。」


やはり、その3日後、シロウ君は家庭教師を辞めてしまった。


それからもイケメン、高学歴のママ好みの家庭教師がやってくる。



「鳥籠から外に連れて行って欲しい。」


このセリフが鍵で。


「パパもママも君が大事なんだから。」


その言葉を残して、何人も家庭教師を辞めていった。



簡単な検証の結果が出た。



あたしにsexを教えてくれるのはsafe。


鳥籠から外に連れて行って欲しいと云うのはout。



safeとoutにsexは関係なくて、鳥籠から逃げられないリアルを知った。






何人目の家庭教師か分からないけれど、家庭教師のヒロシ君がやってきた。



イケメンで、高学歴なのは同じ。


勉強を教えてくれるのは同じ。


sexを教えてくれるのは同じ。


「あたしを鳥籠から外に連れて行って欲しい。」


と云った後、あたしの頭を撫でて。


「どこに行きたい?」


そう云ってくれた。


「ディズニーランド?」


そう云ってくれた。


「任せとけ。」


そう云って、あたしにキスをしてくれた。



「駄目だよ。パパもママも君を大事なんだから。」


とヒロシ君は云わなかった。





でも、次の日、ヒロシ君は家庭教師を辞めてしまった。






どうして?




絶望色の空の下、翼にマイクロチップを埋められて、パパとママが常に監視している世界であたしは涙を流して、泣いた。








あたしはヒロシ君の携帯の番号を鳴らして、庭を歩き回る。


まるでダウンジングみたいに。




家庭教師を辞めてしまってから、誰も連絡がつかなくなった理由。




それはパパとママに殺されてしまったから。



あたしとsexしたから。



違うよ。



あたしが鳥籠の外に出ようとしたから。


タカシ君も、ケンジ君も、シロウ君も、ヒロシ君も、誰も悪くない。




そして、直感が確信に変わる。





地面の中から。



ヒロシ君の着信音が聞こえた。



タカシ君の着信音も。


ケンジ君の着信音も。


シロウ君の着信音も。


地面の中から止むことなく鳴り続けていた。












「だから、パパとママを殺して欲しいの。」





延々と語った少女はそういう言葉で締めくくる。




殺し屋に善悪の判断は必要ない。




こんな荒唐無稽な話を信じるわけもない。



だが、少女が嘘をついてても、仕事は仕事だ。



そして、客は客だ。




「現金で1000万。前払い。それで受けよう。」


「身体で払います。」


少女は胸元のボタンを外し始める。


「あんたに1000万の価値はないよ。それに俺はゲイなんだ。」


俺は少女の首をつかんで、事務所から放り出した。



物事の善悪を語る気もない。


本当はゲイじゃない。


ましてや、偽善者じゃない。


ただの殺し屋だ。



「金がなければ、自分で殺せばいい。」



そして、俺はピシャリと扉を閉めた。






半年後、少女の心の闇はTVショーで万人の目に晒されることになる。



パパとママの惨殺された死体。


庭に埋まっていた若者の死体。


心の闇を晒される少女。



きっとTVショーでは少女の心の闇ばかり追求するだろう。


未成年であること


精神鑑定の結果。


少女の心の闇を踏まえた上で、少女の罪が確定する頃にはTVショーは別のネタを面白おかしく演出しているのだろう。


少女を取り囲んでいた社会の闇に光を当てることなく。



俺は殺し屋だから。


倫理観も通用しない世界の住人だから。


関係ないから、別にいいが。


俺が住んでる世界と少女が住んでいる世界は正直大差ないと思う。








「あの女を殺して欲しいざます。お金は幾らでも払うざます。タカシちゃんはとってもいい子だったざます。」


数ヶ月後、家庭教師のタカシ君の母親があの少女の殺しの依頼に来た。



こんな世の中だから、俺は食いっぱぐれることはないな。


俺の職業は殺し屋だ。


物事の善悪を語る気もない。


本当にゲイじゃない。


ましてや、偽善者じゃない。


ただの殺し屋だ。


だから、この依頼を断る理由もない。










事件が風化し、忘れ去られた頃、少女がある施設で不審死したというニュースが小さく報道された。






【おしまい】


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