表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつぼ作品集  作者: utu-bo
11/65

王様の転職

 「外の世界が見てみたい。」

 ある日、突然に王様が言いました。

 「では、すぐに馬車を用意しますので。」

 家来は王様の為に慌てて、馬車を呼びに行きます。

 「違~う。そうじゃないのだ。」

 王様は馬車を呼びに行く家来を止め、言いました。


 王様の1日の1番目の仕事は城のベランダに立つことです。城下町に住む国民に手を振って、1日の始まりを教えるのです。

 次に、王様は大臣達と国に関わるシステムの問題から迷子猫の問題まで、色々なことを話し合います。これで午前は終わってしまいます。

 お昼御飯を食べた後、午後の仕事の始まりです。

 王様は城のベランダに立ち、午後の仕事が始まることを教えます。

 王様の午後の仕事は 書類に目を通し、印鑑を打つことです。国のシステムの問題から迷子猫が見つかった報告書、全部を読んで、理解し、印鑑を打ちます。これで午後はほとんど潰れてしまいます。

 印鑑を打つ間に、おやつの時間と仕事を夕方で切り上げるように、ベランダにも立たなくてはなりません。

 自分にはおやつもないし、書類が片付かないと、仕事を終わらないので、延々と書類を読み、印鑑を打ちます。

 ようやく書類が片付くと、次は、国に関わるシステムの問題から迷子猫までの問題まで、明日の午前中の話し合いの予習をします。

 王様が眠たげに目を擦るだけで、言わなくても、家来はコーヒーを持ってきます。

 王様はすべてが終わってから、夕御飯を食べて、ようやくふかふかのベッドで眠ります。

 こけこっこと鶏が鳴く頃、また王様の1日が始まります。


 王様は息をついて、言いました。

 「王様を辞めたいんだ。」

 王様には妃も、子供もいません。

 王様がいなくなったら、この国はどうなるのでしょうか。

 国民のすべての生活がおかしくなってしまうから、王様が必要なんです。家来達は必死で王様を止めます。でも、千年岩よりも堅い意思で、王様は辞めることを変えることありません。


 とうとう、王様は城を出ました。立派な王冠も、赤い刺繍のマントも、水晶の付いた杖も、全てをおいて、国の外へと旅立ちました。


 城しか知らなかった王様です。目に映るもの全部新鮮でした。数枚の銀貨を持っていたので、多少食べるのに困ることはありません。でも、働かないと、生きていけません。だから、仕事を探します。ハローワークで仕事を探し、面接で前職はと聞かれると、王様と答えます。大抵の会社は、王様など雇えないと断ります。

 「いくら前職はが王様だったとしても、これからは1番下から始めてもらうよ。」幾つもの面接で断られて、ただ一つの会社の担当者がそう言ってくれて、王様は嬉しくて、「はい、頑張ります。」と元気に返事し、笑顔を見せました。担当者も笑ってくれました。

 これまでは書類を読んで、印鑑を押し、話し合いをし、城のベランダに立つ。眠たげにすれば、コーヒーが出てくる生活でした。でも、その生活が一変します。誰よりも早く出勤し、事務所の掃除から始まり、書類の整理から荷物の搬送まで、朝から夜遅くまで働きます。会社の人達はみんないい人ばかりじゃありません。「元王様のくせに。」そう言って、嫌がらせもされました。誰にも愚痴が言えず、さみしくなりました。昔、王様でした。国のシステムがうまく回るように、色々考えて、大臣達と話し合い、ふかふかのベッドで眠りについていました。その頃を思い出すと、さみしくなります。みんなどうしているのかな。王様は仕事が休みになった時、勇気を出して、城に顔を出しました。

 城は王様がいた頃と変わりません。立派な装飾品で溢れ、国のために国民が働いて、国を守るためにみんなが国の未来を考えています。王様はかつての王様の姿ではありません。たぷたぷだったお肉もハードワークで削られて、屈強な兵士に見えます。

 「王様。」見た目も変わってしまったのに、国民も、大臣達も、家来達も王様に気がついて、声をかけてくれます。

 「随分、痩せましたね。」「日に焼けましたね。」「お身体は大丈夫ですか?」「元気そうで何よりです。」とても普通に笑ってくれて、嬉しくて、嬉しくて、泣きたくなりました。でも、その生活を捨てたのは王様です。他の誰でもありません。

「全然、大丈夫さ。みんないい人ばかりだから。」王様は笑って、今の仕事の話をします。みんなが話を聞いてくれて、みんなと話ができて、心のさみしさが和らぎなました。でも、王様は気づきました。もう王様の居場所がここにはないこと。もう王様ではないこと。そして、それを選んだのは王様自身であること。王様はみんなに会って、元気をもらいました。勇気をもらいました。明日、また、あの会社に行って、仕事を頑張ろうと思いました。



 王様は今日も働きます。誰よりも早く出勤し、何でもやります。王様の選んだ道だから。だから、歩き続けるのです。辛いこともあります。さみしくなることもあります。でも、大丈夫です。城のみんなが応援してくれるから。ここにはいい人ばかりじゃないけれど、ここが王様の居場所だから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ