お菓子の国の王様とお菓子職人見習いチトのチョコレートパーティー
今日はできたてホカホカクッキー日和。
お菓子工場はクッキーの匂いでいっぱいでした。
チトも試行錯誤して、色々なクッキーを作っています。
匂いも味も最高によいのですが、できあがりはいつもでこぼこクッキーになってしまいます。
まだまだチトはお菓子職人見習いとして修行中の身なのです。
「お~い、チト!」
大きな声が響いたので、お菓子職人見習いのチトはお菓子工場の外へ出ます。
お菓子工場の外に王様がいました。
お菓子がとっても大好きな王様。
お菓子の城に住んでいて、ちょっぴりわがままな王様。
そんなお菓子の国の王様がお菓子工場にやってきたのです。
「どうしたんですか、王様?」
ゼイゼイと肩で息する王様は白と黒のかわいらしい箱を取り出して。
「白と黒、どっちがおいしい?」
そして、大きな身振り手振りで話し始めました。
お菓子の国の隣りの隣りの国。
チョコレート王国があります。
ある日、チョコレート王国の国王から手紙と白と黒の箱が届きます。
『白いホワイトチョコレートと黒いビターチョコレート、どっちがおいしい?』
白い箱にはホワイトチョコレートが入ってます。
黒い箱にはビターチョコレートが入ってます。
まずはホワイトチョコレート。
次はビターチョコレート。
またホワイトチョコレート。
またまたビターチョコレート。
またまたまたホワイトチョコレート。
順番に白いホワイトチョコレートと黒いビターチョコレートを食べていきます。
白いホワイトチョコレートもおいしくて 。
黒いビターチョコレートもおいしくて 。
どちらもおいしすぎて、決められなくて、王様は困ってしまいました。
そして、チトに相談しにきたのです。
「これはチョコレート王国の国王からの挑戦状なんだ。おいしいほうのチョコレートを選ばなければ、お菓子の国の王様の面子が立たないんだ。」
王様は白い箱と黒い箱をチトに渡します。
まずはホワイトチョコレート。
次はビターチョコレート。
またホワイトチョコレート。
またまたビターチョコレート。
またまたまたホワイトチョコレート。
順番にチトは食べてみます。
濃厚な甘味のあるホワイトチョコレート。
深い苦味のあるビターチョコレート。
やっぱりどちらもおいしくて 。
「チト、どっちがおいしい?」
「どっちもおいしいです。」
王様に聞かれても、答えは一つでした。
だって、チョコレート王国のチョコレートなのだから、おいしくないわけないのです。
チトは頭をかいて笑って。
王様は頭を抱えて悩んで。
いつの間にか白い箱も、黒い箱も空っぽになってしまいます。
「チョコレートがないんじゃ、どっちがおいしいか、もうわからないよ。」
王様は空っぽの箱を放り投げて、泣き出してしまいます。
「じゃあ、食べにいきましょう。」
チトの言葉に王様の涙が止まって。
「チョコレート王国にチョコレートを食べにいきましょう。」
チトはもう一度繰り返しました。
チョコレート王国とお菓子の国と違って、チョコレート専門のお菓子職人、つまり、チョコレート職人ばかりいます。
チョコレート職人の作るのはおいしいチョコレートだけではありません。
芸術品のような彫像チョコレートも作ります。
街を飾るチョコレート製の看板や街灯も作ります。
街のみんながチョコレートを大好きで。
誕生日には必ずチョコレートケーキがテーブルに並びます。
チョコレートで出来た街。
それがチョコレート王国なのです。
王様とチトは2人でチョコレート王国に向かいます。
おやつにはチトの作ったでこぼこクッキー。
いっぱい歩いて。
いっぱい疲れたら。
でこぼこクッキーをかじって。
一休みして。
また歩いて。
王様とチトは繰り返して。
ようやくチョコレート王国にたどり着きました。
チョコレートで出来たまっ黒い壁。
チョコレートが溶けたまっ黒い川。
チョコレートの甘い匂いが王様とチトを出迎えます。
王様とチトがチョコレート王国の門の前に立つと。
『プップカップップップ~。』
と軽快なラッパが聞こえて、門が開きました。
王様とチトはチョコレートで出来たパレードカーに揺られます。
『食べちゃ駄目。』
パレードカーにはそんな注意書きが書いてあります。
もし注意書きがなければ。
こんなおいしそうなパレードカーだから。
食いしん坊の王様がかじっていたことでしょう。
ラッパ隊の行進に迎えられて。
ピエロ達の玉乗りに迎えられて。
パレードカーがチョコレート城へと進んでいきます。
突然、パレードカーが止まります。
ラッパ隊も静かになります。
ピエロ達も動かなくなります。
チョコレート城に着いたのです。
「ようこそ、チョコレート王国へ。お菓子の国の王様御一行様。」
王様とチトを歓迎する垂れ幕がとてもおいしそうにぶら下がっていました。
ひんやりチョコレートが溶けないように。
チョコレート城はひんやり涼しくて。
チョコレート国王も。
衛兵もみんなコートを羽織ってます。
「ところで、・・・」
チョコレート王国の国王は。
ピカピカで。
ヒヤヒヤの椅子に腰掛けて。
「白いホワイトチョコレートと黒いビターチョコレート、どっちがおいしかった?」
チョコレート王国の国王は身を乗り出して。
王様に聞きます。
『どっちかなんて、どっちかなんて、・・・決められないよ。』
だから、こう答えました。
「どっちもおいしかったです。」と。
すると 。
チョコレート王国の国王は肩を落として。
深く息を吐きます。
「そうなんだ。どっちもおいしいんだよ。」
チョコレート王国の国王は王様の答えを馬鹿にすることはありませんでした。
でも、元気なく続けます。
「やっぱり、どっちもおいしいんだ。」
そして 。
テーブルの上に色々なチョコレートを並べていきます。
「どのチョコレートも、みんなおいしいんだ。みんな我が国屈指のチョコレート職人が作ったのだから。・・・実はホワイトチョコレート職人とビターチョコレート職人の2人がどっちのチョコレートがおいしいかでけんかをはじめて・・・、なんとか仲直りさせたいんだが。」
チョコレート王国の国王の話に王様は恥ずかしくなります。
『チョコレート王国の国王は国の、チョコレート職人のことを考えて、悩んで、チョコレートを送ってきたのに。僕はお菓子の国の王様の面子ばかりを・・・。』
だから。
王様はチョコレート王国のチョコレート職人のけんかがうまく治まるように考えます。
もちろんチトも王様と一緒に考えます。
ホワイトチョコレート職人とビターチョコレート職人とがなかよくなれる方法を。
そうです。
困った時は。
「パーティーです!」
王様とチトは。
チョコレート王国の国王に言います。
「チョコレートパーティーをしましょう。」と。
早速、王様とチトとチョコレート王国の国王でチョコレートパーティーの準備を始めます。
白いエプロンとシャツと帽子。
お菓子職人見習いに変身です。
白いエプロンとシャツと帽子。
王様もお菓子職人見習いに変身です。
チョコレート王国の国王はびっくりして。
「なっ、なっ、王様はお菓子が作れるのか?」
「まかせなさい。」
王様は胸を叩きます。
粘土みたいにコネコネ。
粘土みたいにグニグニ。
クッキーの生地で作ったのは。
熊さん、鷹さん。
大好きな動物さんのクッキーを作ります。
もちろんチトもでこぼこクッキーをいっぱい作ります。
チョコレート王国の国王も。
白いエプロンとシャツと帽子。
なんだかピカピカのお菓子職人見習いに変身です。
王様の真似をして。
粘土みたいにコネコネ。
粘土みたいにグニグニ。
クッキーの生地を。
ペッタンパッタン。
ゴロゴロゴロゴロ。
銀色のトレーにたいらに伸ばして。
縦横縦横とナイフで。
四角くカットしていきます。
チョコレート王国ならではの板チョコのような四角い板クッキーを作っていきます。
チョコレート王国の国王のほうがなんだか上手だったので。
王様はちょっぴり焦ります。
でも、今回はチョコレート王国の国王が主役で。
チョコレート職人を仲直りするためなので。
まあ、よしとして、チトを探しました。
チョコレート王国の国王の四角い板クッキーを見たチトがチョコレート王国の国王に内緒話。
ゴニョゴニョ。コソコソ。
王様も内緒話にまじって。
ゴニョゴニョ。コソコソ。
なんだか秘密のチョコレートパーティーになりそうです。
チョコレート王国の国王は丁寧に心を込めて、招待状を作ります。
チョコレート城の家来達がテーブルと椅子を並べて、ラッパ隊はラッパの手入れを念入りにします。
そして、チョコレート王国のチョコレートパーティーの始まりです。
チョコレート王国の国民とチョコレート職人がワイワイガヤガヤとチョコレート城にやってきました。
もちろんホワイトチョコレート職人も、ビターチョコレート職人もいます。
『プップカップップップ~』
ラッパ隊のラッパに合わせて。
ピエロ達がおどけて踊って。
みんな楽しそうに笑っているけれど。
ホワイトチョコレート職人とビターチョコレート職人は不機嫌な顔でにらみ合ってます。
「甘ったるいホワイトチョコレートなんて食べられるか!」とビターチョコレート職人。
「苦々しいビターチョコレートなんて食べられるか!」とビターチョコレート職人。
口をへの字にして、そっぽを向きました。
チョコレート王国の国王は銀色のトレーを持って、ホワイトチョコレート職人とビターチョコレート職人の前に来ます。
「ちょうどよかった。国王、わたくしのホワイトチョコレートのほうがおいしいですよね。」とホワイトチョコレート職人。
「何を言う!我が輩のビターチョコレートのほうがおいしいに決まっているだろう!」とビターチョコレート職人。
「そんな苦々しいビターチョコレートなんて。」とホワイトチョコレート。
「そんな甘ったるいホワイトチョコレートなんて。」とビターチョコレート職人。
「食べられるわけがない。」と2人。
王様もチトもドキドキしていました。
でも、ここはチョコレート王国。
チョコレート王国の国王がいます。
チョコレート王国の国王がなんとかしないと。
チョコレート王国の国王はもっとドキドキしていました。
ホワイトチョコレート職人とビターチョコレート職人が言い争っているから?
もちろん、それもあります。
でも、それだけじゃありません。
カタカタカタカタ。
チョコレート王国の国王の手の銀色のトレーが音を立てて、震えます。
チョコレート王国の国王がドキドキしているのは銀色のトレーの上で震える初めて、初めて自分で作ったお菓子を2人に食べてもらうからです。
ホワイトチョコレート職人は喜んでくれるかな?
ビターチョコレート職人は笑ってくれるかな?
2人はおいしいって言ってくれるかな?
「僕が初めて作ったお菓子を食べてもらえませんか?」 とチョコレート王国の国王。
「えっ、国王が?」とホワイトチョコレート職人。
「自分で作られたのですか?」とビターチョコレート職人。
チョコレート王国の国王に「食べてもらえませんか?」と言われれば、2人とも食べないわけにはいきません。
銀色のトレーには四角いチョコレートがありました。
見た目は普通のチョコレートです。
「国王がそうおっしゃるならば。」とホワイトチョコレート職人が銀色のトレーからチョコレートを取って、口に入れます。
ビターチョコレート職人も銀色のトレーからチョコレートを取って、口に入れます。
口の中でサクッと音がします。
チョコレートでコーティングしたクッキーです。
チョコレートは濃厚な甘味と深い苦味が複雑に絡み合って。
サクッとした香ばしいクッキーが口の中で甘味と苦味を取りまとめて。
口の中でチョコレートとクッキーがリズミカルにダンスしています。
濃厚な甘味を引き立たした深い苦味はビターチョコレート。
深い苦味を引き立たした濃厚な甘味はホワイトチョコレート。
ホワイトチョコレート職人とビターチョコレート職人がチョコレート王国の国王の前に詰め寄ります。
「これは?」と2人。
「お菓子の国の特製クッキーをホワイトチョコレートとビターチョコレートで順番にコーティングしたんだ。」とチョコレート王国の国王。
ホワイトチョコレート職人がビターチョコレート職人を見て。
「なかなかやるじゃないか、ビターチョコレート職人。」とホワイトチョコレート職人。
「そっちこそ、なかなかやるじゃないか、ホワイトチョコレート職人。」とビターチョコレート職人。
そう言って、2人はもう一度銀色のトレーからチョコレートを取って。
「うん、おいしいな、これ。」と2人は頭をかいて、もう一つもう一つと口に入れて、笑いました。
チョコレート王国の国王は嬉しくて、王様とチトを探しました。
パーティー会場の真ん中で大きなチョコレートフォンデュのツリーが立ってます。
王様とチトがみんなにチョコレートフォンデュを配ってます。
でこぼこクッキーに。
動物さんクッキーに。
みかんに。
バナナに。
パイナップルに。
キウイに。
チョコレートパーティーがもう始まっています。
王様とチトは順番にチョコレートでコーティングしたクッキーやフルーツを配ります。
チョコレートフォンデュの列にはチョコレート王国の国王もホワイトチョコレート職人もビターチョコレート職人も仲良く並んでいて、みんな笑っています。
みんなの笑顔を見て、王様もチトも大喜び。
「クッキーがいいかな?」と王様。
「それとも、バナナかな?」とチト。
「チョコバナナ!」と小さなお客さんが嬉しそうに笑って。
「喜んで~!」とバナナをチョコレートツリーにぶっ込んで。
「ありがとう。」と小さなお客さんが笑って、走っていきます。
「僕は熊さんクッキー。」
「あたしはパイナップル。」
次から次へと賑やかに声が聞こえます。
王様とチトは大忙し。
まだまだチョコレートパーティーは始まったばかりです。
【おしまい】