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ようこそ、もののけカンパニーへ!  作者: 小麦
幅広い業務が売りです
7/7

新人の不安はすぐに取り除きます

「あ、もしもし音無ちゃん? ちょっと今から家に来てもらっていいかな? あ、大丈夫? それじゃ、待ってまーす」


 康樹と別れて家に帰った香耶は、神隠しである音無紗愛おとなしさらを黒電話で呼び寄せ、話をすることにした。


(にしても、この子あんまり話したことないんだけど、どのくらいで来るんだろ)


 実は音無紗愛はたまたま康樹が発見したもののけの類であり、社長である香耶が話したのは入社の際の挨拶1度きりなのだ。まだ大きな仕事も任せていないし、現在はさっちゃんの業務を手伝う以外はひとまず待機中という形になっている。


「社長お待たせしましたっ!」

「えっ嘘早っ!?」


 だが、一息ついた矢先に音無紗愛は香耶の目の前に現れた。まだ電話をかけてからものの数秒しか経っていないはずなのだが、準備が早いというか何というか。


「ああ、早く来すぎてすみません! ちょっとお詫びの品を探してきま……」

「あ、いいから! そういうのいいから!」

「持ってきました!」

「早っ!」


 手に握られていたのはどこから持ってきたのかマツタケだった。秋でもないのにどこから見つけてきたのだろう。


(先走りすぎて失敗してもリカバリーが効きにくい子だなこの子……。一人で業務を任せるのは簡単な業務をいくつかこなせるようになってからにしておこう。とりあえず、まずはこちらの要件を簡単に済ませますか)


 冷静に分析すると、香耶は音無紗愛に尋ねる。


「マツタケありがとう。それで、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「は、はい! 人間から物質まで何でも隠せる神隠しにお任せください!」


(微妙に会話がかみ合ってない。緊張してるのかな)


「そんなに緊張しなくても大丈夫。別に悪いことをしているわけじゃないんだし、もっと堂々としてていいよ」

「あ、はい……。すみません、私いつもこうで……」


 本人にも自覚はあるらしい。なら、こういうところに口出しするよりはいいところを伸ばした方がいいだろう。


「気にしないで。ところで音無ちゃん、あなたってあずきの栽培場所とか知ってたりしない?」

「あずき……ですか? えっと、栽培できそうな場所はありますけど……」


 どうやらあずきちゃんの読みは当たったらしい。


「実は、うちの社員があずきの栽培場所を探していてね。良ければ案内してほしいの。今度でいいんだけど、頼めるかな?」

「分かりました! お任せください!」


 音無紗愛の顔に笑顔が戻る。


「それと、せっかくだからもう1つ聞きたいんだけど、音無ちゃんは大きなものを運んだりすることもできる?」

「そうですね……。一応神隠しはものも隠すこともできるので、よほどのものでなければ基本的には移動できますよ」

「具体的にはどのくらいまで行ける?」

「そうですね……。家族暮らしの家くらいならたぶん大丈夫だと思います」


 これは期待できそうだ。


「そのうちになると思うんだけど、さっちゃんじゃ運べないような大きな荷物を運んだり、引っ越しのお手伝いとかもしてもらうことになると思うんだ。お願いできそうかな?」

「そのくらいならお安い御用です!」

「ありがと。それじゃ、せっかくだしちょっとお茶でも飲んでく?」


 とりあえずこちらの用件は済んだ。ここからは親睦を深めるために彼女と純粋にお話しすることにしよう。


「い、いえいえそんな悪いですよ!」

「いいのいいの。さ、座って」


 香耶は香耶で簡単な粗茶程度ならすぐに出せるスキルは備えている。音無紗愛が踵を返そうとしたところにすぐにもてなし用の準備をしてしまった。


「は、はあ……」


 彼女もすぐに座る。


「どう、仕事は慣れた?」

「まだまだです。幸子先輩にご迷惑をかけてばかりで……」


 この様子だと、やはり仕事中にも緊張してしまっているようだ。さっちゃんは迷惑などとは微塵も思っていないだろうが、音無紗愛の性格からして失敗をとても気にするであろうことは間違いない。ここは社長として伝えるべきことは伝えておかないといけなさそうだ。


「音無ちゃん。ここの社長以外働いたことない私が言うのもなんなんだけど、仕事って最初のうちは失敗ばかりだと思う。私だって最初からこのもののけカンパニーが成功してたわけじゃないし、あんまり気に病む必要はないよ」

「え? そうなんですか?」


 意外そうな顔をする音無紗愛。


「そりゃね。何でもかんでもうまくいくわけじゃないよ。いろんなことを失敗して、その中から少しの成功を次に生かして、そこからまた次の成功をつかむために失敗を繰り返すんだから。仕事ってそういうものじゃない?」

「そっか……。私、ちょっと考えすぎてたんですかね」

「そうそう。そんなに考えすぎても仕方ないし、もっと肩の力を抜いたほうがいいと思うよ」

「そうですね……。あんまり考えすぎないようにします」


 少しだけ彼女の顔に柔らかさが戻ったのを見る香耶。もうこの子は大丈夫だろう。


「さ、それじゃティータイムを楽しみましょうか」

「はい!」



「ただいまー」


 それから数十分後、康樹が帰宅した。


「ああ、おかえり。さっきまで音無ちゃんがいたんだけど、入れ違いになっちゃったね」

「あ、来てたのか。姉ちゃん大丈夫だったのか? あの子緊張してたろ?」

「ああ、最初はね。でも、多分もう大丈夫だと思うよ」

「……何で?」

「まあ、社員のプライベートにかかわるから秘密ってことで」

「はあ?」


 康樹が首を傾げるが、香耶はただ微笑むだけだった。

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