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ようこそ、もののけカンパニーへ!  作者: 小麦
幅広い業務が売りです
5/7

会議は短く終わります

「さて、準備はいい康樹?」


 香耶がいつになく真剣な顔で康樹に話しかける。


「ああ。俺、最近この時が一番緊張してる気がする」

「あたしも。学校の期末テストなんかよりよっぽど緊張する」


 2人がここまで緊張している理由は1つ、これからわらしちゃんと会うためだ。わらしちゃんはもののけカンパニーの事務社員にして、明石家の座敷わらしも務めている明石家がおんぶにだっこしている存在なのである。


「さて、いくよ」


 コンコン、とドアをノックする。


「どうぞ」


 わらしちゃんの透き通った声が部屋に響き渡る。


『失礼します』


 2人は声をそろえて正座し、頭を下げる。


「いらっしゃい。それじゃ、今回のお題は……泥棒で」

「えっ、うちに泥棒が入ったんですか!?」


 重要な報告というのはこれのことだったのか、と2人は顔を見合わせる。


「それはないけど、怪しい影はちらついてるから防犯カメラくらいは買っておくといいかも。これ以上知りたいならいつものやつ、ちょうだい」


 わらしちゃんは有益な情報をくれる代わりにあるものを要求してくる。それは……。


「整いました!」

「はい、香耶社長どうぞ」

「捕まらない泥棒とかけまして、深いプールと説きます」

「その心は?」

「どちらも足がつかないでしょう」


 そう、わらしちゃんは大のなぞかけ好きなのである。


「うん、お上手。でも、泥棒の手前に言葉を付けちゃったのが惜しい。70点かな」


 それもなかなかの辛口である。


「あー、残念。満点狙ってたんだけどな」


 香耶は悔しがった。


「整いました!」

「はい、康樹副社長」

「泥棒とかけまして、敗北寸前の将棋と説きます」

「その心は?」

「罪(詰み)」

「うん、キレイ。90点あげる。今回は副社長の勝ちかな」

「よっしゃあ!」


 喜ぶ康樹。というのも、この後勝者には一週間分の幸運が与えられるためである。座敷わらしに本来そんな能力はないのだが、明石家に来ている妖怪たちから様々な能力を得て多少能力の幅が広がったのだという。


「で、わらしちゃん。外にいる不審者っていうのは?」


 香耶が本題に戻す。


「今のところ変に警戒する必要はないんだけど、どうもこの会社を偵察に来ている可能性がある。悪意は感じないから、同業他社さんの可能性も視野に入れるべき」

「なるほど……。いつもありがとうございますわらしちゃん」


 香耶は頭を下げる。いつも適当な香耶がここまでしっかりするのはわらしちゃんの前だけだ。


「別に、もっと笑顔でかしこまらなくていい。変に表情が硬いと立場上お互いやりにくくなる。いつも言ってるけど、多少変な発言があってもこの家から出て言ったりはしないから安心していい」

「そう……だね。ありがとうわらしちゃん」


 一瞬敬語になりそうになって白い目で見られたため、慌てて敬語を外す香耶。


「うん、それでいい。それじゃ、康樹君には幸せの力を」

「ありがたやー、ありがたやー」

「何かあんた変な宗教を信仰してる人みたいになってるよ」


 その様子を見ながら香耶がツッコミに回る。普段はこういうやり取りも少ないが、わらしちゃんの前ではなぜか康樹のツッコミ能力が途端に落ちてしまうのである。


「さて、と。それじゃ、定例報告に移ります。利益と決算について、わらしちゃん、お願いしていいかな?」

「うん。大体こんな感じ。赤字にはなってないけど、もう少し黒字を出したいところ」


 すでにできている資料が目の前に現れる。


「うーん、やっぱりさっちゃんのご褒美が効いてるか。ちょっと多いんだよね出費」

「でも、社員に対するご褒美は減らすとモチベーションの低下にもつながるし、やめた方がいい。それよりももっと利益の出そうな事業に手を出すべき」

「っていうと?」


 香耶がせかす。


「例えばなんだけど、今配送業をやってるでしょ。その配送業で扱える荷物の重さを増やしてみるとか。ちょうどこの間神隠しを康樹副社長が社員として迎え入れてるし」

「あー、神隠しって確かにどんな大きなものでも一瞬で連れ去ったりできるからありかも。引っ越しとか」


 わらしちゃんのアドバイスは的確なため、よく香耶も参考にするのだ。


「あと、あずきちゃんのお仕事の幅を増やしてみるのもありかも。今あの子あずき料理のお店で人気になってるから、それを利用して困ってる人を助けたりとか」

「なるほど……。いつも思うんだけど、わらしちゃんって色々考えてくれてるよね」

「幸せを呼ぶ座敷わらしが動きたいと思える2人だってこと」


 言葉は短かったが、わらしちゃんの信頼の高さがうかがえる発言だ。


「そっか、それじゃその期待に沿えるようにもっと頑張って働かないとね。とりあえず利益と決算は終わりだから……次は康樹、社員になってくれそうなもののけは見つけた?」

「うーん、ちょこちょこ学校帰りに話は聞いてるんだけど、働いてくれる子まではまだ見つかってないかな」

「そっかー。残念」

「ああ、でもこの間興味があるって子はいたから、その子に会えれば話は聞いてみるつもり。これで俺からの報告も終わりかな」

「分かった。そっちの報告も後でちょうだい。それじゃ、これで会議を終わ……」

「待って」


 終わりかけた会議を鋭い声が制した。わらしちゃんだった。


「最後に1つお手本の謎かけを。泥棒とかけまして、こっそりと敵前逃亡した兵士と説きます」

『その心は?』


 声をそろえる香耶と康樹。


「忍び、夜を渡ります(死伸び、世を渡ります)」

「ダブルミーニング……」

「うまい……」


 あまりの出来栄えに思わず感嘆のため息しか出ない2人であった。

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