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ようこそ、もののけカンパニーへ!  作者: 小麦
幅広い業務が売りです
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社風は風通し良く、少数精鋭です

「困った。まさか今日中に届けなきゃいけない荷物がこの台風で届けられなくなるなんて」


 男性は頭を抱える。この荷物が相手に届けられないと相手との信用問題にかかわってしまうのだ。しかし、男性はさして焦ることもなく、電話を取り出した。


「仕方ない、ここはあそこに連絡しよう」


 そのまま電話帳のボタンを押し、ある名前のボタンを押した。


「あ、もしもしもののけカンパニーですか? はい、ちょっとお願いしたいことがございまして……」



「いやあ、この台風の中でも依頼ってのは来るもんなんだな……」


 もののけカンパニー副社長である茶髪の高校生、明石康樹あかしやすきは感慨深そうに見える。


「そりゃ、うちの名前がそれ相応に有名な証拠だよ。普通の人間であればまず対応できないような事案にも対応できるのがこのもののけカンパニーの特徴だからね」


 そう自信満々に答えるのは藍色のショートヘア、明石香耶あかしかや。康樹の姉にして、このもののけカンパニーの社長である。ちなみにまだ15歳であり、現役の高校生である。


「対応するのは姉ちゃんじゃなくて社員の物の怪だろ。それに、まだ創設3年目だし有名とまで言えるかどうか……」

「そこは突っ込まないの」


 とはいえ、創設3年である程度の利益を上げている以上、彼女の経営の腕は既に学生としてはかなりのものと言ってもいいレベルだろう。


「で、今日の依頼は荷物運びだっけか? この天気の中こういう依頼って結構多いんだよな」

「結構ぎりぎりになるようなことって多いのよね。今回は重要文書みたいだから、防水加工したのをさっちゃんに持たせようかな。あの子が一番近い場所にいるし」


 さっちゃん。彼女がよく重宝している社員である。同時に、一番の信頼を置いている社員でもある。彼女がいなければおそらくこの会社の創設はなかっただろう。


「あー、てけてけのさっちゃんか。でも、あの子足ないのに荷物を持ったままどうやって移動するんだ?」

「義足をつけてもらって目的地まで歩かせる。そこから荷物を預かって配達できるようにすればいいでしょ。基本的にあの子の移動は腕だけだから足部分は文書もらう時と届けるとき以外は使わないし、足部分に文書を収納できるスペースは前に作ってあるから。あとは濡れないように義足をうまく使って雨風をしのいでくれれば余裕だと思うよ」

「よく考えるな姉ちゃんも……。てけてけをそんな使い方できるのは世界広しと言えども姉ちゃんだけだと思うぜ」

「それは誉め言葉として受け取っとくね。じゃ、さっそく呼ばないと」


 香耶は目の前の黒電話を手に取る。


「にしても、その黒電話じゃないと物の怪呼べないってのは不便だよな」


 康樹が目の前の黒電話を見てため息をつく。香耶の使う黒電話は特殊で、この黒電話から出ないと社員と連絡を取ることができないのだ。


「まあ、学校にいるときは会社の業務ができないからね。それ以外はいたって問題ないんだけど」


 それに、と香耶は続ける。


「この黒電話がこの会社の始まりだから。今さらそれを変えたいとは思わないよ。あんたもそうでしょ、康樹?」

「……ま、そう言われるとそうなんだけどさ」


 2人はこの会社のことを多くは語らない。どのような経緯で創設したのか、それを知るのはこの2人と社員である一部の妖怪だけである。


「あ、もしもしさっちゃん? ちょっとお届け物頼まれてほしいんだけど大丈夫? ああ、報酬はそうだなあ……あ、厚手のアームカバーでどう? この間ダメになったって言ってたじゃん? OK? それじゃ、住所はね……」


 こんな感じで社員とフレンドリーに接することができるのもまた香耶の才能である。もっとも、さっちゃんは付き合いが長いというのもあるのだが。


「そんな感じでよろしく! あ、配達が終わったら連絡もらっていいかな? ありがと。それじゃ、まったねー」

「雑だなー。住所以外の情報がまるで読み取れなかったんだけど」


 電話を切った姉が本当に社長なのかと疑いたくなるほどの情報量だった。


「こんなんでも普通に仕事は回せるの。ま、高校1年のあんたにゃまだ分かんないかもねー」

「姉ちゃん俺と1日しか誕生日変わんねーじゃねーか」


 実はこの2人はほぼ同い年なのだが、生まれた日のタッチの差で学年が少しだけ離れてしまっている。4月1日に生まれた姉と、4月2日に生まれた弟。そんな姉弟がこの会社を経営しているのだ。


「つーか、今社員として働いてるのって5人だっけ?」

「そうそう。ま、あんたのおかげでそれだけ社員のもののけさん増やせてるし、感謝はしてる。あんたが一緒にこの仕事してくれてなかったら、たぶん3年も続いてなかったからね」

「それじゃ、そんな頑張り屋の弟に臨時収入をくれ」


 スッと手を出す弟。隙あらば金をもぎ取ろうとするのが康樹の特徴だ。


「あんたにあげるほど利益は出てない。どうしても欲しかったらまた社員を増やしてくれないと」

「またスカウトして来いってか。この雨の中は勘弁してほしいんだけど」

「じゃあ諦めてもらうしかないね。働かざるもの食うべからずって言うでしょ」

「ちぇっ」


 その瞬間、黒電話の音が鳴り響く。


「あら、もう終わったみたい。あんたと違って優秀な社員で良かった」

「姉ちゃんそれどういう意味だよ」

「そのままの意味しかないけど? さーて、さっちゃんのためにアームカバー探してあげなきゃね」


 そう言いながら電話を取る香耶。そんなこんなで今日ももののけカンパニーの1日が過ぎていく。

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