飴玉の魔法 ⑨
今日はお休みの日。
私は冒険者ギルドへ来ていた。なんでかというと、閲覧室を覗くためだ。
一,〇〇〇ジール支払って中へ入ると、静かな空間で、カウンターには本を読みながら何かを書き付けているギルドの人がいた。
ここの書類関係は持ち出し禁止で、情報を忘れないように持ち出したい時は、カウンターのギルド員の人からインクあお借り、羊皮紙を買って書き写すようにしないと駄目なんだって。
私にはちょうどいいわね。
だって、今日はお勉強の日にしようと思ってきたんだもの。
さっそく羊皮紙を買って、インクを借りた私は、五十音表を作る為に、手近な書類に手を伸ばす。
「ブリガンタイガーの捕獲? そんな名前の虎がいるのね」
読み進めながら、対応する箇所に文字を書き込んでいく。この世界ではひらがなにあたる文字しかないから、とても覚えやすい。ただし、古代文字とか、象形文字とかもあったそうだけど、今はひとつの文字の種類に落ち着いてるそうな。
一時間くらいかけて書き終わった私は、羊皮紙をまた数枚買って、今度は自分の名前や地名など、色々思いつくままに書き綴った。
そうして更に三時間ほど経った頃には完璧ではないけど、半分くらいの文字を覚えることができた。名前や地名を思い出せば、対応する文字を思い出すことができるからね。漢字ほど複雑じゃないから、思い出せば、なんとなく浮かぶし。
宿屋に帰ってからも書き続ければたぶん、全部覚えることができるんじゃないかな。それも一夜漬けみたいな覚え方だから、日々練習は欠かさないようにしないといけないけどね。
なら、やっぱりインクも必要か。私は帰りに雑貨屋さんに寄って、インク壷と羽ペンを買って帰った。羊皮紙はまだ余ってるから大丈夫。
「ふーっ、疲れたあー」
私はベッドに勢い良くごろんと寝転がる。夜もランタンの灯りを頼りに書き続けていたのだから、当然疲れる。今日は夕食も軽めだったし。なにかひとつのことに集中しちゃうと、食べるとかそういったことって、つい忘れちゃうのよね。
まあ、今日は有意義な一日だったわ。明日からもお仕事頑張っていこう。
資金を貯めて、買い揃えないといけないし。
ちなみに、インク壷は五〇〇ジールで羽ペンも五〇〇ジールだった。
冒険者ギルドで買った羊皮紙は一枚五〇〇ジール。高い。けど、計五枚買っておいた。
だから、今日の出費は宿泊費と食事代も入れて五,四〇〇ジール。残金は三六,七〇〇ジールになった。雑費代って以外とかかるのよね。
「さてと、今日はもう寝よう」
翌日。
私は良さそうな依頼がないか探しに、冒険者ギルドへと向かった。
「あ、アカネさん。ちょっといいですか」
「おはようございます。大丈夫ですよ」
「ではこちらへ」
受付のお兄さんに呼ばれて私は近づいていった。
「実はアカネさんに指名依頼が入っているんですよ。薬師のリンネさんからなんですがね。最近、アカネさんの仕事ぶりが良いって評判を聞きつけて、彼女があなたを指名したんですが、どうされますか」
「うーん。それは嬉しいのだけど、まずはどういった内容か聞いてみたいことにはなんとも言えませんね」
「ええ。実は、依頼は採集なのですが、暴れ牛の角なんです。それに生えている苔が薬の材料になるそうでして。ただ、名前の通り、かなりの暴れ牛なので、危険なのです」
「ああ、そうでえすか。なら大丈夫です。その依頼、お請けします」
「よろしいのですか。指名依頼を断ってもペナルティ等は発生しませんよ」
「大丈夫です。魔物の討伐は得意なので」
私はそう言ってなんでもないように、その依頼を請けることにした。
牛かあ。なら、角だけ持ち帰って、精肉店に持って行ったら売れるかもしれないわね。そうしたら臨時収入だわ。
私はさっそく暴れ牛が生息しているという、南東の草原に向かった。途中、馬車で移動している人がいたので、すれ違う時に聞いてみると、ここから三キロメートルほど行ったところで草を食んでいたらしい。
でも、他にもいたから、もしかしたら牛同士で決闘をしているかも、とのこと。なにそれ見たい。
「あ、もしかしてあれかな」
近場にちょうどあった岩に隠れて様子を窺っていると、牛が二頭。角をぶつかり合わせて互いに一歩も譲らないといった感じで闘っていた。
だけど。
「ああ! そんなことしたら、苔が剥がれちゃうじゃない!」
私は急いで岩陰から飛び出して、青リンゴの飴玉一つとマスカットの飴玉を二つ口に放り込んだ。
まずは先にいまだぶつかり合い続けている角を取らないと。
「いっけえ!」
真空の一閃は見事二頭の角をスパッと切り離した。これで二対の角ゲット!
そして、マスカットの真空砲で心臓を打ち抜いて、二頭は倒れた。
ほっ。
これで無事にお肉もゲットね。異空間に収納しよう。
こうして私は意気揚々とリバーサイドへと帰るのだった。