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飴玉の魔法 ⑧

 翌日。

 私は冒険者ギルドで、今度はガルム討伐の依頼を請け負ってみようと思い、依頼書を引っぺがした。


「まさかこれをお一人で請ける気ですか」

「そうよ。そろそろ私も複数相手のもしてみないといけないと思うのよね」

「ですが、ガルムは統率の取れている群れの場合がほとんどですよ」

「いいのよ。私には策があるから、一網打尽にしてあげるわ」

「……。たしかにここ数日の、あなたの功績は素晴らしいですが、相手はある程度の知能を持つ、群れをなす魔物だということを、くれぐれも忘れずにして下さいね」

「ありがとう。じゃあ、これお願いね」


 私を心配してくれてるお兄さんは優しいわね。私がまだ若いから心配なんでしょうけど、これまでもなんとかなったんだし、今回もきっと大丈夫よ。

 そう思ってたんだけど。


「ガルルルルル」

「参ったわね。囲まれた。……風上にいたのが敗因かな」


 今日は北東の風。ガルムの生息地は南西だったから、てくてく歩いているうちに、近づいてくる人間の匂いを嗅ぎ別けて、ガルムの群れは私を囲むようにして森の中に誘い込んでたみたい。頭いいのね。

 どうやって切り抜けようかしら。私は逡巡する。そうだ、ガルムの討伐の証しは二対の牙だから、全部燃やしてしまえばいいんだわ。

 そう思ったら即実行。

 私はピンクグレープフルツ味の飴玉を口の中に放り込んだ。それと同時にガルムが一斉に私に向かって飛び込んできた。

 させるもんですか。


「いっけええ!」


 ゴオオオオ! と炎の海が私を中心にして舞い上がる。どこへちょうと飛び込んできたガルム達は、一斉にボオッと燃え尽きてしまった。恐ろしいほどの威力である。

 対象を燃やし尽くした炎の海は、森を焼き尽くす、なんてことにはならなくて、ガルムだけを燃やして消えていった。


「はああ。よかった。なんか、一気に疲れた」


 私は合計十二頭のガルムの牙、二十四対を集めると、ぐったりしながらリバーサイドへと戻るのだった。

 今度からは群れの場合はもっと下準備もしておおいたほうがいいかもしれないわね。例えば同じ種類の魔物の匂いを纏わせた外套を羽織るとか……。


「え、ガルム十二匹!? それでよく無事に帰ってこれましたね……。魔法使いは後衛職なんじゃ。しかも囲まれていては、集中して詠唱するにも限度があります」

「まあ、そこは私のやり方があったから。で、二十四対、確認できたでしょう? これで依頼達成よね」

「ええ。たしかに。牙はこちらで処分致しますね」


 呆気に取られた表情で二十四対のガルムの牙を受け取るギルドのお兄さん。とりあえず、報酬をくださいな。

 じーっと見つめていると、こほんと咳払いをして、一二〇,〇〇〇ジールを渡してくれた。

 やっほい! これで防具代のもう半分払える。


「こんにちは。残り半分持って来ました」

「おお? 随分早いじゃないか。昨日の今日だぞ」

「今日はガルムの群れを倒してきたので」

「群れを……。なんんともまあ、規格外な穣ちゃんだ。まあ、いい」


 私は残りの五万ジールを渡すと、さっそく試着室を借りて着替えた。うん。いいね。くるりと回ってみると、ひらりとプリーツスカートが舞った。

 これで、私服のニーハイと膝丈ブーツも履いてるし、あとは外套を羽織れば旅の準備は半分は終わった感じよね。

 残金は一二四,〇〇〇ジール。あとは金属製の杖でも買えればいいんだけどな。その方が魔法使いっぽいし、金属だから、殴って攻撃するのもよさそうだしね。鈍器万歳。

 よし、そうと決まればさっそく今度は隣の武器屋さんに行ってみよーう!


「へえ。すごいたくさんある」


 中に入ると、汎用の剣が樽の中に無造作に入れられてたり、斧や豪華な剣などが壁に飾られたりしてる。私はその中で、鈍器にちょうどいい杖を見つけた。

 それは宝石も何もついてない、ただのスチール製の杖だった。こういった鈍器の杖は、普通はプリースト系の職業の人が持つんだって。

 でも、私はそんなの気にしないから、そのまま撲殺用のその杖を購入することにした。ちなみにお値段は八万。高い。

 けど、ここでこの武器を買えば、あとは道具屋で旅の準備をするだけだから、私は思い切った。

 着々と旅の準備が進んできて、いい感じじゃない?

 私はわくわくしながら宿屋へと戻った。

 昼食と夕食も宿屋で食べたし、明日は朝食もあるから、残金は四二,一〇〇ジール。

 また少し心もとなくなったから、明日もお仕事頑張ろう。あ、でも。私、この世界に来てからずっと休まずにお仕事してるから、明日はお休みにしようかな。

 私は元の世界に帰れるのかな。

 元々孤児だったから、未練もなにもないけど、孤児院の先生や兄弟にもう会えないのはちょっと寂しい。

 でも、帰れる望みなんて少なくとも今はないんだから、ぐだぐだしないで、できることを頑張ろう。

 そう考えつつベッドに入って目を閉じると、疲れていたのかいつの間にか寝入ってしまった。

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