飴玉の魔法 ⑦
マスカットの飴玉を口に放り込んで私は、魔法を行使した。
ちなみに、毎回魔法つかってたけど、詠唱とか、呪文とか、使ったことは一度もない。無詠唱ってやつね。他の魔法使いってどんなふうに魔法を行使しているのかしら。今度パーティ組んで見物させてもらおうかしらね。
ヒュンっと飛んでいった真空の砲撃は、眠っていたバジリスクの首元に見事命中。音が聞こえた時には既にバジリスクが事切れていた。
まあ、この死体を持ち帰れば無事に依頼達成ね。
そうして私は異空間にバジリスクの死体を入れて帰ることにしたんだけど。
「卵?」
死体の下にはバジリスクの卵が三つあった。これを温めていたのか。……。私はその卵には手を出さずに帰ることにする。きっと、守るものがいなくなったから、他の魔物とかの餌になるんでしょうね。
私だって生きるためなんだから、仕方がないことなのよ。気にしたら負け。
そうして私は荒野を後にするのだった。
「ここが防具屋ね」
商業区へと向かうと、リバーサイドに一軒しかない防具屋はすぐに見つけることができた。看板代わりに防具が店頭に置かれていたからである。
私はその店舗と隣の雑貨屋の間に入って、路地裏で異空間からバジリスクの死体を取り出した。体長三メートルほどのそれは、体重いかほどのものだろうか。
私はふんぬーっとしっぽを引きずりながら、路地裏から出た。すると、ちょうど防具屋の前を通りかかったおばさんがいて、ぎょっとした顔でバジリスクを見て、私と目が合ったので、にこっとしてみたら、ぎゃっといった感じで逃げて行ってしまった。なんとも失礼な人である。
ずるずると引きずって防具屋の中に入ると、小さいけどがっちりした体格のお爺さんが太い針で革製品を、カウンターで製作しているところだった。
「こんにちは。依頼品を持ってきましたー」
「ん? おお。これはありがたい。……って。おいおい! こりゃあおったまげた! バジリスク丸々一匹とは!」
「駄目でしたか?」
「いや。駄目なもんか。こりゃ、報酬の上乗せが必要だな。背中の部位の鱗だけ剥がして持ってきてくれればよかったんだが……。丸々一匹でこの状態の良さだ。別の部位も使える。しかもバジリスクの肉は嗜好品でな。肝が高値で売れるんだ。肴にもいい。全部でいいんだな?」
小さいおじさんが目をギラギラさせて言うもんだから、つい後ずさってこくこくとうん頷いてしまった。すごい食いつきぶりね。
それにしても、バジリスクって食べられるんだあ。私はお酒は飲まないから、別にいらないし、いっか。
「ええ、全部でかまいません。私じゃ処理に困るので」
「なら、上乗せで五〇,〇〇〇ジールだ。丸々一匹でこの値段なら、まあそこそこだろう」
「ありがとうございます」
「またなにかあれば、よろしく頼むぜ穣ちゃん」
おっし。これで一〇四,〇〇〇ジールになった!
防具ってだいたいいくらくらいなんだろう。ちょうどいいから、ここの防具でも見てから帰ろう。
所狭しと陳列されている防具は布、革、金属ごとに別けられて置かれてて、私は布製品と革製品のを見ることにした。いつまでも一張羅の私服じゃ洗濯もできてないし、下着類も服飾屋さんで買わないと。
うーん。ローブばかりだし、布製品は私服買うとことでいいかなあ。革製品にしぼろう。
革製品は、と。よくRPGなんかである革の鎧とか、革の胸当てとか、そういうのが色々なデザインで置かれてる。その中で女性用のを探してみると。
「あ、これ可愛いかも」
上がコルセット型で下がプリーツスカートになってるのがあった。上下セットで一〇万ジール。
た、高い。けど、これ欲しい。色もグレーで、縁取りが濃緑になってるし、プリーツスカートの柄はタータンチェックでまるで、可愛いメイドさんか、アニメででてくる学校の制服のような出来栄えだった。
これ、取り置きしてもらえないかな。
私はちらと、製品作りに戻った小さいおじさん、もしかしてドワーフ? を見る。
「あの、すみません。ここって商品の予約ってできますか」
「ん。ああ、まだいたのかい。予約は頭金さえ払ってくれればできるぞ」
「なら、この革製品の上下セットを取り置いてもらいたいんですが。手持ち全部出せば買えるんですが、それだと宿屋にも泊まれなくなってしまうので……」
「ああ、そういうことかい。なら、そうだな。なら一週間でいいかい」
「はい。そのくらいなら大丈夫そうです。ありがとうございます! じゃあ、頭金で半分の五万でいいですか」
「あいよ。確かに受け取った。ちょいと待ってな。……おし、これでいいだろう。売約済みの札も貼ったしな。これが受領書の写しだ。残り半分は一週間以内で頼むぞ」
「はい。わかりました。ではまた来ます」
やったね。また明日からまたお仕事頑張ろう。
残り五,四〇〇〇ジールだから、今日泊まる分と夕飯と明日の朝食で、一,六〇〇引いて、残りは五二,四〇〇ジール。
はあ。
やっぱり買い物ってお金かかるわね。
でも、防具は命を守るものだし、妥協はしないほうがいいわよね。