飴玉の魔法 ⑥
ケバブを食べながら大通りを中央広場に向かって歩いて行くと、大道芸人達が自分たちの芸をこぞって観客に見せていた。私も横目でそれを楽しみつつ、まずは教会に行って花嫁さんを見ようかなと思った。
だって、今日の主役だもんね。
教会は中央広場の右奥にあるみたいで、そっち側に人だかりができていた。皆、花嫁さんを見たいんだろうなあ。私も幸せのおすそ分けをしてもらいたいものね。たとえば今すぐユーリエに会えるとか。そうしたらすぐにでも、ぶん殴れるのに。
「花嫁さん綺麗ねえ」
「さすが領主様の娘さんだ。衣装がとんでもねえぞ」
「ばかね。衣装だけじゃなくて、それをちゃんと着こなしてるユーリエ様がすごいんじゃないの」
ふーん。
領主様の娘さんって、ユーリエさんっていうんだ。料理に使う葉っぱよね。そのくらいの知識しかないわ。
ん。ユーリエ?
それって私をこの世界によんだ張本人じゃない!
なんでそんな人が結婚式なんかしてるのよ。私は一気にむかむかしてきてそのまま教会へと歩いて行った。
ちょうど宣誓が終わったところみたいで、きゃーきゃー黄色い声が上がる中、わりとイケメンな新郎と共に、綺麗な新婦が腕を組みつつライスシャワーの中を歩いていた。
花びらも舞っているし、明日の掃除が大変そう、なんて思う私は冷めているのだろうか。
だけど、とても幸せそうに笑っているのを見るのは嫌じゃない。ようは、私は捻くれているのだ。
「まあ、幸せっていいことよね」
私はそう呟いて、遠くから新郎新婦を見送った。
今ここで騒ぎを起したんじゃ本懐を遂げられないでしょ。だから、このまま後をつけるつもりよ。
だけど、結婚なんて、私もいつかあんな日がくるのだろうか? 想像もつかないから、まだまだ先だろうけど。その前に、相手がいないんだけどね!
どこかに落ちてないもんかしらね。こんなメンドクサイ私でもいいって言ってくれる奇特なイケメン。いないよねーですよねー。
「さてと、花嫁さんというターゲットも見つけたし、ギルドで今日もお仕事お仕事っと」
新築の邸の中へと入っていった新郎新婦。だけど、まだよ。まずは装備を整えないと。
途中で買ったクレープを食べつつ冒険者ギルドへ向かう私は、まさに花より団子なんだろうな。
ブーケトスとかも興味なかったし、ただ、美味しいものを食べられるから出向いただけだったし。
「えっと、なになに。バジリスクの鱗かあ。これってゲームなんかではよく、石化の状態異常してくるやつよねえ」
依頼主は防具屋の店主。素材が足りなくなったのかしらね。まあ、いいわ。これにしましょう。
街を北に……。というか、いつまでも街っていうのもあれよね。街の名前はリバーサイド。まんま川沿いにあるからその名前なんだそうだ。実にわかりやすいね。いいよ、そういうの。
私はさっそくバジリスクの鱗を入手するために、荒野が広がる北の大地に向けてのんびり歩きながら進む。それでもいつ魔物からの襲撃があってもいいように、飴玉の準備だけは怠らずに。
そういえば、依頼書には何匹倒した分の鱗、とか書いてなかったわよね。どうしようかしら。そもそも、バジリスクって群れるのかしら。たくさんいれば、殲滅魔法のほうがいいわよね。例えば効果の高そうな範囲攻撃の青リンゴの真空の一閃とか。もしくは、コーヒー味の空間切断とか。
空間切断って、なんか怖そうな名前よね。どんな感じになるのかしら?
異空間収納だと、明るい真っ白な空間に、物を入れてるから何が入っているのかわかるけど。
切断でしょ? うーん。切った部分はどこにいくのかしら?
うん。いきなり使うよりは試にやってみた方がいいわよね。私は岩がちょうどあったから、それに対して空間切断を使ってみた。
にょーんって、空間が切り取られて、コピペって言った方が早いかしら。同じ場所にもう一つ、同じ空間が重なってるのよ。それが見てわかる。これ、空間切断してコピペ。のほうが名前としてはいいんじゃないかしらね。
けど、このコピペした空間。どうしたらいいのかしら。考えたけどわからないから、岩の隣に移動させてそのまま貼り付けるって念じたら、あら不思議。同じ岩が二つ並んでる。
これ、使いようによってはヤバイ代物よね。
例えば世界に一つしかない物でも、この、魔法があれば増殖できる。やばいやばい。これは封印しておいた方がよさそう。禁忌の魔法指定にしておいた方がいいかもしれない。だって、これで生物とか、物とか色々したら……。恐ろしいことになりそうだ。
「この魔法は本当に何かあった時以外は使わないようにしておこう。うん」
気を取り直して歩いて行くと、やがて岩がごろごろした場所についた。たしかここが生息地なのよね。
私はさっそくバジリスクを探すことに。
そうして気配を探りながら、とはいってもそんな芸当できるわけないけど、気分的にはそうしながら、注意しつつ岩を超えていくと。
一匹のバジリスクが乾燥した草を敷き詰めた上で寝ていた。あれって、巣、よね。
念のために辺りを見回すけど、どうやらあの一匹しかいないみたい。
よし、狩ろうか。
私は今回はマスカットの真空砲でやってみることにした。魔物を倒すときって、風系の切る魔法が使い勝手がすごくよくて、つい使っちゃうのよね。