飴玉の魔法 ⑤
「さてと、今日も依頼をこなさないとね」
昨日の依頼で合計11,700ジールになったとはいえ、これでもまだまだ数日分しかない。それに、武器と防具に旅道具とかも揃えないといけないから、これだけじゃ全然足りないのよね。
なにか一気に稼げる方法があればいいんだけど、そういうのってだいたいが闇組織とか、アングラなとこに繋がってたりするんだろうから、堅実にいったほうがいいかな。
ということで、今日もケルピーを一頭狩ることにした。依頼主はまたあの精肉店の店主さんだ。そんなに早くあの大きいケルピーが完売したのだろうか。
まあとにかく、私は昨日と同じようにケルピーを仕留めて、さっそく持って行くことにした。
「お、昨日の穣ちゃんかい。今日もあんたらが狩ってきてくれたんだな。こりゃいいや」
なんか、昨日からこの店主のおじさん、私が一人だってこと、わかってないみたい。仲間がいると思ってるみたいだけど、残念。私はぼっちなのでした。
「荷馬車はどこにあるんだい?」
「えっと、実際にやった方が早いので、まずは屠畜場へ行きませんか」
「ん、おう」
私と店主のおじさんは屠畜場へと向かう。
説明するのも面倒だし、どういったらいいかあんまりよくわかってないしで、実際に見せた方がいいと思ったのよね。
そうして私は異空間収納からケルピーを一頭丸々、屠畜場に出してみせる。そうすると、店主のおじさんは目を大きく見開いて、口はぽかんとしたまま固まってしまった。
そんなに驚くようなことなのかしらね。
私はゲームなんかでよくアイテムボックスやイベントリにバッグなんかの名前で慣れ親しんで? いるからか、そんなに驚くようなものには感じないのよね。
「どっ、こっ、これは一体……」
「私、魔法使いだから。ケルピーも私が倒してきてるのよ。昨日も今日も、おじさんは勘違いしてたみたいだけど」
「魔法使いってのはこんなこともできるのかい。こりゃおったまげた。今回も首を一閃か。状態がすこぶるいい」
「そういえば、昨日あんな大きな一頭を持ってきたのに、もうまた依頼に出すなんて、よっぽどおじさんの精肉店は人気があるのね」
「いやいや。実はな、領主様の娘さんの結婚式が三日後にあるのは知ってるだろう?」
「ああ、そういえば、数日後にあるとは聞きました」
「それの、祝いの料理を各々作って持ち寄り、祭り騒ぎがあるんだよ。だから普段よりも五倍近くは肉が売れるのさ」
「ああ、そうだったんですか」
なるほど。
だから、ケルピーの肉が昨日も今日も、店主のおじさんから依頼に出されてたのね。
なら、また明日も必要になったりするのかしら?
「じゃあ、明日も明後日も明々後日も必要だったりします?」
「そうだな……。おし、じゃあ穣ちゃん。指名依頼を出すから、四〇,〇〇〇ジールで三頭仕入れてきてくれないか」
「一万も多いですけど、いいんですか」
「ああ。こんな状態の良い肉を立て続けに五回も仕入れられるんなら、一頭分多く出してもかまわん」
「わかりました。じゃあ、明日から三日間ケルピーを持ってきますね」
「ああ。よろしく頼む」
やった。
三日間だけど、専属で依頼を請けることができた。しかも一万も多い。
早く三日後にならないかな。その結婚式のお祭り騒ぎも気になるし、なによりお金が早くほしいもの。
こうして私は今日の分の一〇,〇〇〇ジールを手に入れて、合計二一,七〇〇ジールから、昨日泊まった分と三回の食事代合わせて一,九〇〇ジールを引いた、一九,八〇〇ジールまで資金を増やすことができた。
だけど、今日この後また三泊分と朝食と夕食の六回分の食事代で、一五,〇〇〇ジールになる予定……。うーん、なかなか貯まらないものよねえ。
まあでも、三日後にはプラス四〇,〇〇〇ジール増えるから、それで防具でも買ってみようかな。
で。
三日後。
私は無事にケルピーをしっかり納品して、報酬を得ることができたのだった。
これから領主様の娘さんの結婚式があるらしいから、私も見物に行く予定だ。お祭りは大好きだから、なにか美味しいものが食べられるかもしれないもんね。
大通りを歩いていくと、左右の道端に所狭しと屋台が建ち並んでて、美味しそうな匂いとともに私のお腹もぐうぐう鳴っている。
これは早急になにか食せねばなるまい。
私は一番近かった屋台に吸い寄せられるようにして、ふらふらと歩いていった。
「おじさん、二つください」
「あいよ。一,〇〇〇ジールだ」
「はい」
「熱いから気をつけて食べな」
「ありがとう」
私は大きな肉の塊を削ぎ切りにしている屋台で、ケバブを二つ買って食べ歩くことにした。大通りの二階からは、花びらが綺麗にばら撒かれて風に乗って舞ってた。
こんな結婚式なら大歓迎ね。