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飴玉の魔法 ④

 翌日。

 私は軽く朝食を済ませて冒険者ギルドへと向かう。さっそくできそうな依頼を探すためだ。なんせお金がないからね。ある程度の余裕ができるまでは、節約していかないと。

 ちなみに今日の朝食は、パンに野菜スープ。三〇〇ジールだから、銅貨三枚ね。味はまあ、その値段に見合ったものといったことでお察し。

 そして残金は一,七〇〇ジール。これは今日泊まる分とご飯代しかないわ。危機的状況ね。お金を稼がないと。


「んー、ガルム討伐。ガルムってあれよね、番犬。魔物になってるんだ、ここでは。でも、犬だから、群れるわよね、その討伐っていったら一人じゃ無理か、私は一応、後衛職だし」


 よし、他探そう。

 そうして次のビラを見る。


「ん。これはケルピーか。これも群れるけど、一頭にかかってる間に他は逃げそうよね。幻獣なのに、ここでは魔物。けっこう、私の世界ではあれでもこっちでは魔物ってのが多いのかなあ。まあ、とりあえずこれでいっか」


 依頼書を引っぺがして、私は昨日のお兄さんのところに行く。


「こんにちは。依頼を請けたいんですけど」

「ああ、昨日の。どちらのでしょうか」

「これです。ケルピー討伐。内容は肉を希望だから、体ごと持ってこないと駄目ですよね」

「そうですね。荷馬車を借りる必要がありますね。ですが、お一人ですか? ケルピーは温厚ですが、一人で倒すにはあなたのような初心者では難しいのでは?」

「ああ、大丈夫です。私、魔法使いですよ?」

「あ、そうでしたね。なら受理しましょう。お気をつけて」

「ありがとうございます」


 お兄さんが受理しますと言うと、なんと依頼書が私の左手の中指に填めている、ギルドの証の指輪に吸い込まれていった。すごい、なにこれ。

 あ、ちなみに、私のランクはDだから緑の宝石ね。やれるなら、金のSSまでいってみたいものよね。

 そういうや、ケルピーって、臆病で気性が荒いってあったけど、こっちでは温厚でよかった。姿見られて襲い掛かられたらたまったものじゃないもの。

 私は昨日通った門を抜けて、街道を歩く。今度は身分証になる冒険者の証を見せたから素通りよ。

 しばらくあるいて行くと、ケルピーが数頭草を食んでいた。

 私はこちらに背を向けている一頭に狙いをつけて、風の魔法が使える飴玉を口の中に入れる。メロン味だから、真空の刃の効果ね。これで首をちょんと切ってしまえば、はい終わり。血飛沫がすごかったから、近くにいなくてよかった。

 殺すことに対しての忌避感はないのかって? そりゃ、あるにはあるけど、でもそんなこと言ってたら生きていけないじゃない。

 日本で暮らしてる時だって、私たちは毎日何かを間接的に殺して食べて生きているのよ。

 ある程度、血が抜けるまでその場でまって、だけどなるべく急いで私は街へと戻る。血の匂いに惹きつけられて、ガルムの群れが来たら大変だもんね。

 荷馬車を借りたかったけど、お金がないから、私は仕方がなくチョコ味の飴玉を舐めてケルピーの死体を異空間に収納する。

 そうして依頼主である、精肉店へと向かった私は店主らしきおじさんに声をかけた。


「こんにちは。依頼を請けた者なんですけど、ケルピー一頭持ってきましたので、どこに置けばいいですか」

「おう。穣ちゃん。屠畜場(とちくじょう)が裏にあるから、そっちに荷馬車を頼むように仲間に言ってくれ」


 ん?

 なにか店主のおじさん勘違いしてるよね。私に仲間がいて、荷馬車にケルピーを積んでると思っているみたいだけど。

 でも、訂正するのも面倒だからいっか。

 私は裏にある屠畜場にケルピーを出すと、店主のおじさんに伝えに行く。


「確認をお願いします。一応ある程度は血抜きはしてあるので」

「おう、わかった」


 そう言って、私と店主のおじさんは、一緒にまたうらの屠畜場に向かう。

 そこには綺麗に首が添えられたケルピーの死体があった。私は実家のおじいちゃんが、鶏を剥いでるのを何度も見てるから、こういうのに耐性があるけど、他の日本人だったらきっと残酷、とか思いそうよね。そのくせいただきます、とか言うくせに。ただのくちぐせかっての。おっと、口が悪くなってしまったわ、ほほほ。

 うちはおじいちゃんが狩猟の免許を持ってたから、猪とか狩ってきてたんだよね。鍋でよく食べたんだけどなあ。懐かしい。はああ、帰りたいけどもう帰れないんだよね。なんかセンチメンタル。

 ……なんて考えてるってことは、私はまだまだ大丈夫ね。

 これが何も言わないでも郷愁の念だけ強ければ、なにかで発散するかもだけど、私はまだまだ大丈夫。そう思っていられるうちはね。


「お、随分綺麗に仕留めたんだな」

「はい。首をすぱんとやったので、一撃です」

「ほおお。すごい仲間がいるもんだな」

「いえ、私がやったんですが、まあ、いいです。それで、依頼は達成でいいですか?」

「ああ、いいとも。依頼達成。ほい、これで大丈夫だ」


 店主のおじさんがそう言うと、指輪が光った。これが依頼達成の印なんだそうだ。

 やったね!

 で、報酬はなんと一〇,〇〇〇ジール。まあ、あんだけのケルピーじゃ、そのくらいでも当然よね。私は銀貨一〇枚受け取って精肉店を後にした。

 なんで金貨にしなかったのかというと、やっぱり万札持つより千円札持つ方が気が楽ってことと同じ。それに、分散させて持っておけるしね。

 こうして私の依頼初日は終わった。なんだかけっこう淡々とこなせてたような気がする。私って以外と冒険者に向いているのかもしれない。

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