飴玉の魔法 ②
私は森の中で沢を見つけて、それを頼りに下っていった。そうすると、体感で一〇キロメートルは歩いただろうか。二時間は経過していたと思う。
街が見えた。
歩きつかれて途中の木苺を小さめのエコバッグにしこたま詰め込んで、私は肩掛け鞄ごと念のために異空間に収納しておいた。これで異空間収納の飴玉は、残り一,二九八回分になってしまった。もっと計画的に使っていかないと駄目だなあ。
ちなみに飴玉は、各種類を二個ずつポケットに入れてある。その中でも一番大事な異空間収納用の飴玉は、一つはパンツの中。もう一つは靴の中に入れておいた。そこ、汚いって言わないように!
よくあるでしょう? おばあちゃんなんかが、修学旅行に行く孫に、お金を分散させて持たせていくというあれよ、あれ。私はそれを実行したにすぎないのだよ。
「検問してるのかな、あれ」
街の門の両脇には門兵が一人ずつ脇に立っていた。そして、右側に詰め所らしき小さな建物がある。街に入る人たちは、何かを見せて入っていってるから、私もそうしないと、入れてもらえないかもしれない。どうしたものだろう。
だけど、私はこの世界での身分はなにもない。唯一頼れそうなのは、ユーリエという女? の人だけだけど、その人もどこにいるかさっぱりわからないのだ。身分証がない私でも入れるのだろうか、それとも見せているのは身分証じゃないのかな。
とりあえず、行ってみなけりゃわからんよね。
私は最後尾に並んで列が進むのを待って、ちみちみ進んで行く。
前後の人たちの会話を聞いてみると、どうやら言葉はわかるらしい。あと、やっぱり身分証を見せないと駄目なんだそうだ。
なんでも、この街の領主様の娘が結婚式を数日後にするから、怪しい者を入れないようにするため、普段はしない検問をしているのだそうで。なんとも面倒な時にきちゃったわねえ。
そうしてやっとわたしの番になった時。
「こんにちは」
「身分証はあるかい」
「ごめんなさい。私、森の奥で暮らしてて、お金が必要になったから木苺を売りに来たんです。だけど、森の中で育ったから、身分証がなくて……」
「ああ、そうなのかい。じゃあ、身を検めさせてもらうよ。女性がするから、安心してくれな」
「はい」
ちっ。
やっぱり駄目だったか。仕方がない。なんとか誤魔化して街に入れるようにしないと。
ちなみに私の考えた案はこうだ。
森の中で長年暮らしていた祖母が亡くなり、捨て子だった私には父母がいないため、遺品を整理して街に出てきたということにした。
これから先一人で生きていくこともできるが、人恋しさがある。そういえば、話を聞いていた検問所のお姉さんが涙ぐんで私を抱きしめてくれる。
うう。
嘘を吐くのはやっぱり心が痛みま……せん! だって、生きていく術だもの。この場合は。だから、仕方がないのよ、仕方がね。
「そういうわけなら仕方がないわね。木苺もちゃんと持っているようだし。……そうね、私のよく行くパン屋で木苺のジャムを売ってるのみたから、そこに行けば、買い取ってもらえるかもしれないわよ。……地図は、これ。ここね。あと、宿はおすすめはここ。パン屋の斜め向かいがいいわ。安くて美味しいって評判なんだから」
「そうなんですか。わざわざありがとうございます。私、やっぱりこの街に来てよかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。また何かあれば相談にきてね」
「はい。では」
ううん。
なんて良いお姉さんなんだ!
私はさっそく木苺を教えてもらった地図を頼りにパン屋へ売りに行くことにした。これでどのくらいの金額になるのだろうか。宿で一泊でもできればいいんだけど。
あと、できればご飯食べたい。お腹がすいたけど、飴玉は消費するのに抵抗があるし、今までみたくがりがり食べれなくなっちゃったしで、ちょっとストレスが溜まり中。
飴って、自分でも一応作れるんだけど、飴屋さんでもやってみようかな。練り飴も美味しいしさ。何より簡単だし。水と砂糖があればいいんだもんね。飴は。まあ、焦がさないように気をつけないといけないけどね。
お、そういえば、この木苺で飴を作ったら、美味しそうだよね。どこかに売ってないかな?
検問する前で、私の後ろで話してたおばちゃん達の話じゃ、ポトフとか、ケーキとか名前が出てきたから、食文化もそんなに違わないだろうし。飴だけないから、私が作って丸儲け、なんて上手い話があるわけないしさ。
そんなことを考えながら歩いていると、目的のパン屋さんに到着した。
よーし。売り込むぞお。
味見も散々したから、この味でジャム作ったら間違いなく上手いに決まってるもんね。
ああ、それにしても、飴が食べたい。
私は木苺を一つまみ口に放り込んで、パン屋の扉を開けるのだった。