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飴玉の魔法 ⑪

 なんでもないように歩いていた私は誰の気配も感じなくなると、ささっと路地裏へと隠れた。

 そうして隙を見てさっと壁を登り超えた。ふふ、私の運動神経どんなもんよ。


「首を洗って待ってなさいよユーリエ。私が引導を渡してあげるわ。飴玉の恨み、晴らしてやるわ」


 私が大好きな飴玉を食べられなくなるのはユーリエのせいなのだもの。しっかり償ってもらわないとね。食べ物の恨みは恐ろしいってことをわからせてやらないとね。

 そうして私は裏口をヘアピンでカチャリと開けて、中へとはいる。ここは勝手口のようだった。

 そーっと、そーっと抜き足差し足で忍んで行くと、二階に上がる階段を見つける。ここを上がればおそらくプライベートゾーンなはずだから、新郎新婦どっちかのほうには行き当たるはず……て、あれ?

 新郎新婦って、いったら今日ってしょ、初夜から二日しか経ってない!?


「ど、どうしよう。さすがにそれを邪魔しちゃ悪いわよね」


 私にだって良心はあるのだ。

 せっかくの結婚式の初夜の近日をぶち壊しにされたら可哀想よね。けど、だからこそ、食べ物の恨みの恐ろしさをわからせられるともいえるけれど。

 ……。

 悩んだ結果、私は今日は帰ることにした。

 また明日、今度は正々堂々玄関から乗り込んでやるわ。

 翌日。

 私はユーリエの邸の前で仁王立ちをしていた。呼鈴を鳴らすと、両扉が開いて中から初老のいかにも執事ですっていう感じの男性が姿を見せる。


「これはこれは。お嬢様、本日はどのようなご用件でしょうか。主人はあいにく早朝に登城しに王都へ向かわれてしまいましたので、お会いすることはできませんが」

「こほん。私は茜といいます。私が今日この邸に来たのは、女主人のユーリエ様にお会いするためです」

「奥様でしたか。これは失礼を。では、聞いてまいりますのでこちらでしばしお待ちいただけますでしょうか」


 そう言って私は邸の応接間へと通される。

 結婚してからまだ二日なのにもう登城って、新婚旅行とかないのね。

 通された応接間は調度品や、部屋の配置に至るまで、全て綿密に計算されたかのような、素晴らしい美しさがあった。わかっている者にしかできない芸当ね。なんて、言ってみてるけど、実際は、なにこれすごい、触ったら割れそう、弁償代いくらだ、とかそんなことばかり考えてた。

 紅茶を出されて飲んでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


「アカネ様。奥様がお会いになるそうです」


 ……。ようやく対決ね。負けないんだから。

 だけど。


「アカネ! やっと会えたわね。ずっと会いたかったのよ! 魔法の飴玉の具合はどう? 使い勝手はよくって?」

「わっ、ちょ、ちょっと放して」

「嫌よ。だって、私のお得意様にやっとこうして会うことができたんですもの。だけど、この世界に飴玉全部持ってくるまで気に入ってくれてるなんで、本当に嬉しいわ。なくなったら言ってちょうだいね。すぐに作るから。召喚した甲斐があったわ」

「……え、作れるの?」


 ユーリエに向けるはずだった怒りがその言葉を聞いて一気に霧散した。作れるんだ。なんだ。


「よかった。作れるんだね。じゃあ、私勘違いしてたのか。なんだ、そっか」

「勘違いってなにかしら?」

「ううん、いいの。それよりも、結婚おめでとう。何か持ってくればよかったんだけど……」

「それはいいのよ! こうして会えただけでも私にはとても大きなプレゼントだわ」


 本当に嬉しそうに、にこやかに笑うユーリエに、わたしはすっかり毒気を抜かれてしまった。しかも、飴玉を作れるって聞いたからか、安心して心にもゆとりができた。


「それにしても、あなた。この世界にきてからもぐんぐん魔力量が増えてるのね。飴玉の効果ってすごいわ」

「飴玉の効果?」

「そうよ。この飴玉はね、魔力を体に溜め込むことができる器を持つ者に効力を発揮する、私の開発した画期的な魔力回復薬なのよ。まだあなた以外には売ってないんだから。

 それにしてもあなたの総量は底なしみたいね。あれだけの飴玉を食べててもまだまだ増えてくなんて」

「魔力回復薬……。じゃあ、もしかして、私の体には魔力が溜まってて、飴玉食べなくても魔法が使えるってことなの?」

「そうよ。あら、気づかなかったの。こちらの世界ではあなたはおそらく最強の魔法使いでしょうね。全属性持ちの魔法使いなんていないんだから。その辺は注意してね。利用されないようにも」


 なんだか話が変な方向に言ってるような気がする。私がこの世界最強の魔法使い?

 嘘でしょ?


「嘘じゃないわよ。だって、人間は使えても二属性まで。エルフだって三属性までなんだから」

「じゃあ私、五属性使えるってことなのかな。火、風、土、時、癒って」

「ああ、飴玉にはしてないけど、他にも水属性もあるわよ。だから六属性ね。魔法はイメージだから、水属性の魔法はすぐに使えるはずよ」

「そうなんだ。……じゃあ、例えば……。あ、できた」


 水球を思い浮かべると、私の右手の掌の上に直径一〇センチメートルほどの水球ができた。消すって思ったら消すこともできた。

 なんだこれ。じゃあ私、本当に全属性持ちの魔法使いになっちゃったんだ!


「これからはこの世界で仲良くしてね。アカネ」

「うん、よろしく。ユーリエ」


 こうして、なんだかわからないうちに、私はこの世界の最強の魔法使いになってしまった。

 でも、悪用するつもりもないし、今まで通り普通に生活していればいいよね。

 もしくはこの世界を知るために、旅をするのもいいし。やることがいっぱいでてきそう。なんだかわくわくしてきたわ。

 さて、話もついたし、今日も元気に頑張ろう!

 私の異世界生活はこれから始まるのよ。

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