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飴玉の魔法 ①

 私、椎名茜は飴が大好きだった。

 大阪のおばちゃんなんて目じゃないくらい、私は飴が大好きだった。だから、毎日数袋を消費しているのは日常茶飯事だったし、がじがじ齧って噛み砕いて唾液でごっくんなんて、大好きだった。

 もちろんここでいう数袋は、飴玉一つが入った個別包装の一つではない。その、個別包装された飴が大量に入った飴袋が数袋という意味だ。

 だけど、それももう手に入らない。

 なぜならば。


「ここはどこなんだーーーっ!」


 私は大自然の森の中で大声で叫んだ。

 森のくまさんに出会ったらどうしようとか、そんなこと今の私は考えてもいない。だけど、くまってこっちから音を出しておくと、逃げるって聞いたからだぶん大丈夫だろう。

 大丈夫でないのは私の飴袋の残量だ。

 なんと、業務用の飴袋があと一〇袋しかなかった……。

 普通ならばそんなに? と思うだろうが、残念ながら私は普通ではない。数分経たずに編め袋の半分近くを消費していたのだから、おわかりいただけるだろう。いかにわたしが深刻な飴不足であることを。

 だが、ここでは手に入らない。

 あのイチゴ・アップル・ピンクグレープフルーツ・メロン・マスカット・青リンゴ・パイナップル・レモン・グレープフルーツ・オレンジ・グレープ・コーヒー・チョコ。等々の美味しい飴玉達。十三種類。

 ああ、私はもう君達には会うことは叶わないのだね。この残り一〇袋の飴玉を食べてしまえば……。こんなことなら、今日の飴玉の買い付けは、一,〇〇個、いや、一,〇〇〇個にしておけばよかった。

 それも数日でなくなるけども。

 さて、どうして私が先ほど叫んだかというと、なんとここは異世界らしい。

 証拠?

 そんなものはない。

 だけど、私の家の玄関の前は、お向かいさんの家が昨日もちゃんとあって、こんな森の中に私の家が建っていたなんて新事実はないのだ。

 そして、後ろを振り向いたら……。案の定、森だった。終わった。私の人生終わった。

 食料は肩掛けの大きめの鞄にあるミネラルウォーターと、この飴玉しかない。これでどうやって過ごせと?

 それともこれだけあれば、人里に出られるだろうか。そもそも、ここは人間の住む惑星なのだろうか。そして、ここの食物になり得るものは、私の胃袋に合うのだろうか。死活問題だ。

 ちなみに、この業務用の飴玉一袋は、一キログラムで一,三〇〇個入っている。それを一〇袋だ。もしろんダンボールに抱えている。ちょうど今日配達日だったのだ。

 だけど、捺印を私にさせ忘れた配達の兄ちゃんなんかに、親切心をだして玄関の扉を開けるなんてことをしなければ、今でも私はリビングで借りた映画鑑賞でもしながら、ガリガリ飴を齧っていたに違いない。

 ああ、親切心なんて捨ててしまえばよかった。


「これからどうしよう」


 一〇袋も入っているダンボールはそれなりにでかい。一袋一キログラムだからね。単純計算で、ダンボール分抜いたとしても一三キログラムはあるからね。

 一三,〇〇〇個か、はああ。少ない。


「はああ」


 私は盛大な溜息を吐いて受領書を見る。

 そこでふと気がついた。


「あれ? こんな受領書だったっけ」


 そこにはこう書かれていた。


“いつも飴を買ってくれて有難う御座います。ささやかなお礼ですが、あなたを私の世界にご招待しましょう。ユーリエより”


「へへ。へへへへへっ」


 頭がおかしくなったわけではない。

 ただ単に、この冗談が本当だったということがわかったことに対して怒りが湧いてきただけだ。

 辺りを探す。けれど、私を召喚したらしい張本人はぐるりと辺りを見渡してもどこにもいなかった。


“この飴を食べると魔法が使えるようになります。制限は飴玉一つに一回の魔法。まずはどの味がどの効果になるのか見ておいてね。でないと大変なことになるから”


 イチゴ、火の玉。

 アップル、炎の塊。

 ピンクグレープフルーツ、炎の海。

 メロン、真空の刃。

 マスカット、真空砲。

 青リンゴ、真空の一閃。

 パイナップル、石つぶて。

 レモン、小隕石。

 グレープフルーツ、大隕石。

 オレンジ、回復。

 グレープ、重力。

 コーヒー、空間切断。

 チョコ、異空間収納。


 これを見るに、とりあえず一袋は肩掛け鞄に入れておいたほうがいいかもしれない。で、残りをこのチョコ味の飴玉で収納してしまおう。だけど、出し入れを一回とカウントして、一,三〇〇回しかできない。これは注意が必要かもしれない。

 それと、あとは私がすることが決まった。

 それは。


「ユーリエって奴をぶん殴ってやるってことよ!」


 一回じゃ済まさないからね。私が苦労した回数分、きっちり殴ってやる。そう決めた。

 これが最初に私がこの異世界に来てから決めた、最大の目標だった。

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