3.理科教師殺人事件 後編
俺は職員室に入った。
「失礼します」
「坂上、どうした?」
俺の担任の青島教諭が訊ねてきた。
「先生、警察から事情を伺ってると思いますけど、黒田先生についてお話を聞かせてもらえますか?」
「何だ、探偵ごっこか? 面白そうなことしてるじゃないか。で、どんなことを聞きたいんだ?」
「はい。黒田先生に最近何か変わったことってありませんでしたか?」
「いや、分からないな」
「では、誰かに恨まれていたということは?」
「いや、黒田先生は誰からも好かれるタイプだったから、そんなことはないと思うけどな」
「そうですか。因に、青島先生はホームルームの後、どこに?」
「嫌だな。俺を疑ってんの? 俺はここにいたぞ」
「それを証明出来る先生方は?」
青島教諭は辺りを見渡すが、誰もいない。
「みんな授業で出払っちゃってたからな……」
「そうですか。お話聞かせていただき、ありがとうございます。何かあったらまた来ます」
「そうか。待ってるぞ」
俺は職員室を出て現場へ戻った。
「ああ、坂上くん。今、行こうと思ったところだよ」
「五位堂さん、何かあったんですか?」
「いやね、たった今、事件は自殺と断定したところで、それを伝えに行こうと思ってね」
「自殺?」
「黒田さんの遺体のポケットから遺書が見付かったんだ。『生きることに疲れた』と書かれていたよ。だから、今回は君の出る幕はないね」
「そうですか。遺書、見せていただけますか?」
「ああ、これだよ」
俺は遺書を見た。遺書には確かに、『生きることに疲れた』と書かれている。但し手書きではない。
「これ、捏造ってことは考えなかったんですか?」
「と、言うと?」
「先生を殺害した何者かがパソコンで打って印刷した、とか」
「五位堂警部!」
五位堂の部下が駆け寄ってきた。
「どうした?」
「司法解剖の結果が出ました! 黒田はどうやら死ぬ前にコーヒーを飲んでいたみたいです!」
「それがどうした?……あ!」
「缶コーヒーが現場から消えていますね」
「ああ。ということは、缶コーヒーに青酸カリが塗られていたってことか!」
坂上くん──と俺の方を向く五位堂。「この学校、燃えないゴミの収集は何曜日かな?」
「今日ですよ。……あ!」
俺と五位堂はゴミ置き場へ急いだ。
ゴミはまだ残っている。
「この中に缶コーヒーがあれば、自ずと犯人も特定出来ますね」
俺たちはゴミを漁った。その結果、缶コーヒーが一つ出て来た。
「五位堂さん、ありました!」
俺は缶コーヒー指差した。
五位堂は缶コーヒーを手袋をはめた手で取った。
「じゃあこれは鑑識に」
俺と五位堂は現場に戻る。
「鑑識さん、この缶から指紋の採取を」
「了解しました」
鑑識が缶を受け取る。
その後、鑑識の調べで缶コーヒーから青島教諭の指紋と青酸カリが検出された。
俺と五位堂は職員室を訪ねた。
「青島先生、黒田先生を殺害したのは、貴方ですね?」
「何をしに来たかと思えば、俺を犯人扱いか?」
「青島さん、この空き缶をどう説明しますか?」
五位堂は懐から例の缶コーヒーを取り出した。
「これには貴方の指紋と、青酸カリが付着していました。犯人は貴方ですね?」
「言い逃れは出来ませんよ、青島先生?」
「……俺がやりました」
「青酸カリはどこから?」
「理科の準備室からです」
「後は署の方で伺います」
五位堂が青島教諭を警視庁へ連行していった。
一部始終を見ていた黒田教諭の魂が声をかけてきた。
「坂上、ありがとう」
黒田教諭は天へ昇っていった。