「私の方が美しい」と公爵令嬢の婚約者を奪った女の末路
同じ金髪だった。
同じ碧眼だった。
ただ、彼女の方が美しかっただけ‥‥‥
ウディーヌ・イルグ伯爵令嬢には、幼馴染の令嬢がいた。
アイリーナ・ファルト伯爵令嬢である。
歳は共に17歳。
ウディーヌとアイリーナは共に金髪碧眼で、似たような背丈の令嬢だ。
領地も隣同士で母同士が交流があり、良く互いの家を行き来して付き合いがあった。
違うのは、後ろ姿も似ていて、背丈も似ているのに、アイリーナは華やかな美人だったということだ。
ウディーヌは美人という訳でもなく、ありきたりな顔立ちだった。
貴族なら誰しも行く王立学園、
アイリーナは顔見知りのウディーヌに入学当初から親し気に話しかけて来て。
「顔見知りがいて良かったわ。これからも仲良くしてね」
と言って来た。
ウディーヌは、
「勿論よ。アイリーナ」
と答えはしたものの、彼女と一緒に居るのは嫌だった。
アイリーナは美しい。
どうしても似たような金髪碧眼、似たような背丈なので、比べられてしまうのだ。
母親に連れて行ってもらった茶会でも、人々は明るくて華やかなアイリーナばかり話しかけて、ウディーヌには見向きもしない。
王立学園でも同じ事が起きるのではないかと、本当に嫌だった。
危惧していた通り、一緒にいると、皆、華やかなアイリーナばかり話しかけて、地味なウディーヌには話しかけてこない。ウディーヌ自身も性格が話下手で、気が弱くてどうしようもなくて。
ウディーヌは寂しかった。
私はここにいるのに……アイリーナばかり、色々な令嬢と話をして楽しそうで。
入学して二月程過ぎて、とある日、アイリーナが嬉しそうに、
「私、レイディル様に気に入られているみたいで、話しかけられたの。親しく中庭で話をしたわ。とても楽しくて楽しくて」
頬を染めて自慢するアイリーナ。
いいなと思った。
アイリーナは誰しも認める美人だ。きっとレイディル第二王子の目に留まったのだろう。
レイディル第二王子も金髪碧眼の美しい王子だ。
彼が廊下を歩く姿を見るだけで、令嬢達が頬を染める程の美しさ。
しかし、レイディル第二王子は、確か、婚約者がいたはずだ。
フラウディア・マルデ公爵令嬢。
彼女が婚約者のはずである。
冷たい感じの銀髪のきつい顔立ちの女性だ。
ウディーヌはアイリーナに、
「婚約者持ちのレイディル第二王子殿下と親しくしてはいけないわ」
「どうして?フラウディア様より私の方が美しいわ。どうして付き合ってはいけないの?」
「マルデ公爵家の怒りを買うからよ」
「レイディル様は王族よ。王族に公爵家がかなうはずがない。レイディル様が守ってくれるわ」
なんて愚かなと思った。
アイリーナは恋によって、正常な判断が出来ていないと思った。
でも……
忠告はした。
忠告はしたのだ。
だから、彼女がどうなっても、自分に責任はない。
そう思えた。
想えばずっと日陰の人生だった。
アイリーナばかり皆がチヤホヤして、アイリーナばかり輝いて、自分はちっとも振り向いてもらえなくて。
初恋の男の子がいた。
お茶会で母親に連れられて来ていた男の子。
その子もアイリーナばかり話しかけてウディーヌは無視された。
これ以上、アイリーナに気を使わなくてもいいのではなくて?
私は注意したんだし……
調子に乗ったのか、アイリーナはレイディル第二王子と更に親しく付き合い続けた。
二人で仲良く、昼休み弁当を食べ、一緒にいる姿を見かけるようになった。
マルデ公爵家は怒っているだろうなと。
フラウディア様は怒りまくっているだろうなと、ウディーヌは思った。
だが、自分はアイリーナに忠告はしたのだ。
そんなとある日の昼休み、王立学園の廊下から外階段を降りようとした。
ドンと背に衝撃を感じ、身体が宙にふわりと浮いた。
ウディーヌは階段を転がり落ちた。
どうしてなんで?なんで私が突き落とされなければならないの?
全身を襲う痛みの中、階段の上を見つめれば、
真っ青な顔をしたフラウディア・マルデ公爵令嬢の姿が見えた。
彼女は慌てたように、階段から降りて来て、
「医者を呼んでくるわっ」
医者がすっ飛んできて、ウディーヌは学園の一室へ運ばれた。
そこで手当を受ける。
幸い、階段から落ちた割には、段数が10段しかなかった為、怪我は酷くなかった。
ただ、打ち身で全身が痛かった。
医者が手当てを終え、部屋を出て行った後、フラウディアが中に入って来て、
「ごめんなさい。貴方の後姿があの女に似ていたから、あの女だと思って。本当にごめんなさい」
泣きながら謝罪をしてきたフラウディア。
ウディーヌは首を振って、
「私が自分で足を滑らせて落ちたという事に致します。ですから、フラウディア様。どうか、ご自分を責めないで下さい」
「でもっ」
アイリーナの事は殺したい程、憎い。
フラウディアもそう思っているのだろう。
私はずっと日陰の身でいた。
アイリーナばかり目立って、悲しかった。
フラウディアはきっとレイディル第二王子殿下の事を愛しているのだろう。
だから、突き落とした。
あの美しさでレイディル第二王子に取り入ったアイリーナ。
アイリーナによって傷つけられたフラウディア。
だから、フラウディアがやった事を責めない事にした。
自分は間違えられて突き落とされたのだし、こうして生きているのだから。
フラウディアはその日からウディーヌの事を気にかけてくれるようになった。
常に傍において、話しかけてくれるようになった。
今まで、距離があった令嬢も、フラウディアのお気に入りだと言うウディーヌに話しかけてくれるようになった。
フラウディアはアイリーナの事は無視し続けた。
アイリーナは焦っているようだ。
教室の高位貴族の女性達は皆、フラウディアに付き従っている。
フラウディアの機嫌を損ねたらどうなるか……
入学当初は話しかけて来た令嬢達も、誰もアイリーナに話しかけない。
アイリーナはレイディル第二王子に泣きついたようだった。
とある日、教室でレイディル第二王子が、フラウディアに向かって、
「お前のような女は婚約破棄だ。破棄っ。アイリーナを虐めているだろう?」
「虐めていませんわ」
「令嬢達から無視されているとアイリーナが泣いている」
アイリーナはレイディル第二王子にしがみついて、
「私がレイディル様に愛されているからって嫉妬しているんですっ」
フラウディアはきっぱりと、
「わたくしと言う婚約者がいながら、アイリーナという女と親しくしている事について。それは不貞では無くて?」
「そ、それは……君と違ってアイリーナは美しいから」
ウディーヌはその言い方に頭に来た。
「不敬を承知で申し上げます。美しいからって何をしても許されると?美しいから不貞をしても構わないと言うのですか?」
アイリーナはウディーヌに、
「美しいことが何が悪いのか解らないわ。美しいから私はレイディル様に愛されているのよ」
「だからって人の婚約者を盗ってはいけないわ」
「美しいから私は何をしても許されるのよ。王家だって私と結婚する方がいいと言うに決まっているわ」
フラウディアは、
「まぁいいわ。レイディル第二王子殿下。貴方とは婚約破棄でよろしくてよ。でも、アイリーナという女の家には嫡男がいたわよね。婿入り出来ないわ。どうするのでしょうね」
レイディル第二王子は慌てたように、
「それなら、アイリーナを連れてお前の家に婿入りする。王族の私が婿入りするんだ。感謝するがいい」
「いりませんわ。そんな婿。お父様もいらないと言うに決まっているでしょう。愛人連れて婿入りだなんて聞いた事がありませんわ。貴方、有責で婚約破棄、受け入れました」
レイディル第二王子はアイリーナの手を引き、
「直接、父上にっ」
二人は出て行った。
フラウディアはウディーヌに向かって、
「やっと踏ん切りがついたわ。わたくし、あの人の事がずっと好きだったの。あの人、婚約を結んだ当初は優しかったのよ。ああ、どうして変わってしまったのかしら。わたくしが美しくないから?」
ウディーヌはフラウディアの手を両手で握り締めて、
「お美しいです。フラウディア様は私と違って……心も知識も全てお美しいですわ」
「でも、わたくしは……」
「これからも精一杯、仕えさせて頂きます」
ウディーヌは心新たに、フラウディアの為に生きよう。そう思った。
レイディル第二王子は国王陛下に訴えたようだ。
しかし、逆に国王陛下から叱られた。
「愛人連れで婿入りなんて聞いた事がない。マルデ公爵家から婚約破棄の申し出を受けている。お前、有責でな。受けようと思う。お前はお前の愛するアイリーナという女と共にどこへでも行くがいい。わしは知らん」
「父上は私を見捨てるのですか?」
「わしが用意した良い婿入り先を蹴り飛ばしたのはお前だ」
レイディル第二王子はふらふらと王宮の外へ出た。
アイリーナが待っていて、
「うちはお兄様がいるから、婿入りは出来ないわ」
「アイリーナ。私はどうしたらいいっ」
「知らないわよ」
「そもそもお前が声をかけてきたのが悪いのだろう」
「レイディル様だって私に声をかけられて嬉しかったんじゃない?私は美人だから」
「しかし、お前のせいで私はっ」
王家の種を蒔き散らされては困るということで、結局、レイディル第二王子は離宮へ閉じ込められる事になった。
その後、屑の美男が大好きな変…辺境騎士団が忍び込んでさらっていったらしい。
これは噂に過ぎないが。
アイリーナは除籍されて、街へ放り出された所を荒くれどもに捕まって娼館へ売り飛ばされた。
美しさに自信があるアイリーナはさぞかし稼げるだろう。
ウディーヌはフラウディアの為にしっかりと働いている。
政略で、婚約話が出たとしたら、美しくない自分でも愛して貰えるのだろうか。
政略でも愛されたい。
だって、私だって一人の女ですもの。
なんともいえない気持ちで秋の空を見上げるウディーヌであった。




