表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

季節を買うということ

作者: P4rn0s
掲載日:2026/04/05

コンビニの棚の一角に、淡いピンク色が並び始めると、

ああまたこの季節が来たのだと気付く。


特別好きな味というわけではない。


冷静に考えれば、

わざわざ選ばなくてもいいはずの味だと思うことすらある。


それでも、気付けば手に取っている。


理由は説明できない。


何かがそこにある気がするのだ。


家に帰って袋を開け、一口食べる。

やはり、想像通りの味がする。

特別に驚きはない。


ただ、ほんの少しだけ、

柔らかい空気が舌の上に広がる。


そのとき思う。


これは味ではないのかもしれない。


例えば、高い店で食べる料理は、

明確に美味しさを追求している。


けれど、鉄板焼きのフランベは違う。

あれは料理というより、体験だ。


桜味は、きっとそれに近い。


味だけで完結するものではなく、

その前後にあるものすべてを含んでいる。


棚に並ぶ色、少しだけ暖かくなった夜の空気、レジ袋の軽さ。

そういったものが、一緒になっている。


だから、平凡な味のはずなのに、どこか満たされる。


帰り道、コンビニの袋をぶら下げながら歩く。

夜風はまだ少し冷たい。

街路樹の花は咲き始めている。


部屋に着いて、袋から桜味を取り出す。


その動作すら、少しだけゆっくりになる。


たった一つ、余計に買っただけなのに。


そのとき思う。


ああ、これでよかったのかもしれないと。


理由もなく手に取って、理由もなく少し満たされる。


それくらいでいいのだと思う。


窓の外の街灯が、ぼんやりと滲んでいる。


春はまだ途中だ。

手元の桜味は、もう半分くらいになっている。


また来年も、同じことをするのだろう。


それでいい。


残るのは、味ではなく、そのときの空気だけでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ