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D評価だらけの最下位部署ですが、社長の孫にだけ才能の光が見えるので三ヶ月で立て直します  作者: そらのことのは


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第5話 連鎖

 光は、1人では輝かない。


 信じられたとき、初めて強くなる。


 ——その一方で、濁るのもまた早い。


 帝都建設の契約から1週間。第3営業部の空気が、明らかに変わっていた。


「おはようございます」


 高瀬が出社すると、数人が頷き返す。まだ声はかけないが、視線に敵意はない。


 彼の背後で、橙色の光が穏やかに揺れている。安定した輝き。


「よう」


 久我が珍しく早く出社していた。白い光が期待に震えている。


「真白、次はどこ行けばいい?」


「まだ慌てないでください。坂井さんがリストを作ってます」


 坂井は既にデスクで何かを分析していた。青白い光が、鋭く集中している。


「……見つけた」


 彼女が顔を上げた。


「帝都建設の成功パターンを分析したわ。『本社と現場のズレ』を突く戦術。これ、他でも使える」


 坂井がスクリーンに映し出したのは、中堅企業5社のリスト。


「久我、この5社を回って。ただし——」


「分かってる。売るんじゃなくて、聞くんだろ?」


 久我がニヤリと笑う。


「現場のオッサンと飲んでくりゃいいんだな」



 3日後。


 久我が持ち帰ってきたのは、5枚の汚れたメモだった。


「全部行ってきた。どこも同じだ。本社が決めた資材に、現場が文句言ってる」


 坂井がメモを精査していく。


「……これ、全部いける。高瀬、あなた1人じゃ回りきれないわ」


 高瀬が首を傾げる。


「じゃあ、どうするんですか?」


「増やすのよ」


 坂井が立ち上がった。


「クロージングできる人材を、もう2人育てる」


「ちょっと待った」


 低い声が入った。田所部長だ。珍しくスポーツ新聞を机に伏せている。


「D評価の連中を前線に出すって? 正気か?」


「育成投資です」


 私が答えると、田所は机を指で叩いた。


「忘れてないだろうな。数字が落ちた瞬間、この部署は終わりなんだぞ。

1件でも大きくコケたら、俺は専務側に付くからな」


 重い空気が流れる。


 それでも私は、2人のD評価社員を見た。


 森川健太、29歳。「押しが弱い」と評価されている。


 上田奈々、27歳。「空気が読めない」と言われている。


 視界を歪ませる。


 森川の背後には、薄い緑色の光。揺らぎが激しく、今にも消えそうだ。


 上田の背後には、淡い黄色の光。こちらも弱々しい。


 だが——光は、ある。


「森川さん」


 私は彼に声をかけた。


「あなたは『相手のペースを尊重する』調整型です。高瀬さんの共感型とは違う強さがある」


 森川の緑色の光が、わずかに強くなる。


「上田さん。あなたは『論理を優先する』タイプ。数字で話す相手なら、むしろ有利です」


 上田の黄色い光が、少しだけ輝きを増した。



 1週間後。


 最初に出たのは、上田だった。


 大手メーカーの購買部長。数字にうるさく、感情論を嫌う相手。


「この相手なら、私の方が合ってます」


 上田は自信ありげに会議室へ向かった。


 私は外で光を見る。


 黄色い光が、最初から安定している。


 上田は一切の感情論を排除し、数字だけで勝負していた。

コスト削減率、導入後の効果予測、競合との比較データ。


 25分後。


 沈黙。


 ドアが開く。


「……ダメでした」


 上田が、青ざめた顔で出てきた。


「『数字は分かった。だが、お宅の会社を信用できない』って」


 私は凍りついた。


 上田の黄色い光が——激しく揺れている。さっきまでの安定が、一瞬で崩れた。


「私、やっぱりダメなんです……」


(失敗だ)


 私は拳を握った。


「調整型」「論理優先型」——ラベルを貼り直せば、誰でも成功する。


 そう思い込んでいた。


 違う。


 光は、揺れる。いつだって、消える可能性がある。


 その夜。


 私は上田を呼び出した。


「上田さん。あなたの提案は、間違っていませんでした」


「でも……」


「『信用』は数字だけじゃ作れない。相手は、あなた自身を見ていた」


 私は資料を広げた。


「もう1回、行きます。今度は——あなたが『なぜこの提案をするのか』を、言葉にしてください」


「私が……?」


「数字の裏にある、あなたの『想い』を」



 翌日。


 上田が再び、同じ購買部長のもとへ向かった。


「昨日は、失礼しました。もう1度だけ、お時間をください」


 購買部長は渋々頷いた。


 上田は、昨日と同じ資料を広げた。


 だが——。


「私は、数字しか信じていませんでした」


 上田が静かに言った。


「でも、昨日あなたに言われて、気づきました。数字の向こうには、人がいる」


 購買部長の表情が、わずかに変わる。


「この提案は、御社のコストを下げます。

でも、それだけじゃない。現場の職人さんが、安心して働ける環境を作ります」


 上田の声に、初めて「熱」があった。


「私は——それが、したいんです」


 沈黙。


 購買部長が、ゆっくりペンを取り出した。


「……契約しよう」


 その後、森川も同様のプロセスを経て成長した。


 1度の失敗。学習。そして成功。


 光が、隣へ伝わる。


「森川さん、そのやり方、教えてもらえませんか」


 入社2年目の女性社員、仁科が恐る恐る声をかけている。


 仁科の背後で、弱々しかった灰色の光が、薄紅色に色づいた。



 その夜。


 私は1人、オフィスに残っていた。


 目を閉じる。眉間の奥が、鈍く痛む。


 今日は見すぎた。


 視界を歪ませる。


 高瀬の橙色。坂井の青。久我の白。森川の緑。上田の黄色。


 5つの光が、それぞれ安定して輝いている。


 達成率:138%。


 数字は作った。だが——胸騒ぎが消えない。



 翌朝。


「柊さん」


 出社すると、専務が立っていた。


「少し、お時間よろしいですか」


 執務室に通される。


 専務は窓の外を見ながら言った。


「第3営業部の今月の達成率、138%だそうですね」


「……はい」


「先月は128%。今月は138%。順調です」


 専務が振り返る。


「ですが、1つ気になることがあります」


 私は専務を凝視した。


 銀色の光。その縁が、以前より黒く滲んでいる。


「上田という社員が、1度失敗して、再挑戦したそうですね」


「……はい」


「それは『非効率』です」


 専務の声が、冷たくなった。


「1度失敗した案件に、再度人員を投入する。その時間で、新規を1件取れたはずです」


 私は唇を噛んだ。


「それに——」


 専務が1枚の書類をデスクに置いた。


『第3営業部 来期予算案』


 私は書類を覗き込んだ。


 新規採用費、販促費、出張費——全てが大幅に削減されている。


「……どういうことですか」


「他の部署から不満が出ているんですよ。『なぜあそこだけ優遇されるのか』と」


 専務が冷ややかに笑った。


「組織の公平性を保つため、予算を平準化します」


「でも、結果は出しています!」


「ええ。出すぎているんです」


 専務の目が、スッと細められた。


「来週の全社会議で、この予算内での事業計画を出してください。

もし出せなければ——第3営業部は解体です」


 専務は去った。


 私は拳を握った。


(実害)


 数字で勝っても、ルールで潰される。


 これが、組織の論理。



 その日の午後。


 私は第3営業部のメンバーを集めた。


 みんな、笑っている。高瀬も、久我も、坂井も。自分たちの未来を信じている。


 この笑顔を、来週には奪われるかもしれない。


「来週、全社会議があります」


 全員が緊張した顔で私を見る。


「そこで、私たちの『やり方』を説明します。

 ① 適材適所の配置。

 ② 3分業の仕組み。

 ③ 育成のプロセス。

 ④ 失敗のコストと、成長の価値。

 全部、ロジックとして説明します」


 坂井が鋭く言った。


「……専務ね」


「はい」


「あの人、認めたくないのよ。『人の可能性』なんて曖昧なものを」


 坂井の青い光が、冷たく輝く。


「だから、数字とロジックで黙らせる。それしかない」


 久我が立ち上がった。


「やってやろうぜ。俺たちがここまで来れたのは、真白のおかげだ。今度は、俺たちが証明する番だ」


 全員の光が、強く輝いた。


 私は頷いた。


 だからこそ——怖い。


 全員を救うつもりはない。

 だが、勝てる形には必ずする。


 来週、全社会議。

 私たちは、試される。

全8話。完結まで毎日投稿します。

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