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D評価だらけの最下位部署ですが、社長の孫にだけ才能の光が見えるので三ヶ月で立て直します  作者: そらのことのは


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第3話 間違った配置

 配置転換は、優しさじゃない。


 戦力の最適化だ。


 高瀬の初受注から1週間。第三営業部には、微妙な変化が起きていた。


「おはようございます」


 高瀬が出社すると、数人が視線を向ける。誰も声はかけないが、明らかに「見られている」。


 彼の背後で、橙色の光が穏やかに揺れている。安定した輝き。


 一方で——。


「チッ……全然ダメだ」


 久我は苛立った様子で外回りから戻ってきた。

白い光が不規則にスパークしている。エネルギーは強いのに、方向が定まらない。


「誰も話聞いてくれねえ。『間に合ってる』『予算がない』って門前払いだ」


「久我さん。どこに行きました?」


「リストの上から順だよ。駅前のビルとか、大手の下請けとか」


「……やっぱり」


 私はため息をついた。


「久我さん。あなたは『突破型』です。整地された道路を走っても意味がない」


「あ?」


「あなたの白い光は、誰も通っていない場所でこそ輝くんです」


 私は1枚のリストを彼に渡した。

坂井に抽出してもらった「過去5年間、営業部が接触できていない企業リスト」。


「ここに行ってください」


 久我がリストを覗き込む。


「……町工場ばっかりじゃねえか。」


「そうです。普通の営業マンが『怖くて行けない』場所。そこがあなたの狩り場です」


 久我の口角が上がる。白い光が期待に震えた。


「で、何すりゃいい?」


「何も売らないでください。ただ——『現場』を見てきてください」


「現場?」


「工場の機械。ラインの動き。職人の手元。

あなたは直感で『違和感』を見つけるのが得意なはずです。

『なんかここ、効率悪くね?』と思う場所を、メモでも写真でもいいから持ち帰ってください」


 久我はきょとんとした。


「……それだけでいいのか?」


「それが『種』になります」



 翌日。


 久我は昼過ぎに戻ってきた。


「おい、これ」


 彼が私のデスクに放り投げたのは、油で汚れたメモ帳の切れ端。

汚い字で殴り書きがしてある。


『大田区の旋盤工場。社長、超怖い。でも機械が古い。

3番のラインだけ止まりがち。油の匂いが変』


 隣の席で、坂井が呆れた声を上げた。


「……何これ。ゴミ?」


 彼女の背後で、青白い光が冷ややかに明滅している。


「報告書です」


 坂井はこめかみを押さえた。


「こんな落書き、何の役にも立たないわよ。具体的な型番も、稼働率の数字もない」


「数字はありません。でも、『事実』はあります」


 私は久我を見た。


「社長とは何を話しました?」


「『おっさん、あの機械の音、なんか苦しそうだな』って言ったら、

『てめえに何が分かる』って怒鳴られて、そこから1時間、機械自慢を聞かされた」


「契約の話は?」


「してねえよ。ただ、帰りに『また来い』って言われたけどな」


 坂井が目を見開いた。


「……は? あの『大田黒製作所』よね? 

うちの営業が過去10回行って、1度も社長に会えなかったところよ?」


「へえ、そうなのか」


 久我は鼻をほじっている。


 私は坂井に向き直った。


「坂井さん。これが『突破』です。久我さんがこじ開けた扉を、今度はあなたが通る番です」


「私が?」


「このメモを、企画書に翻訳してください」


 私はメモを指差した。


「『3番のラインが止まりがち』『油の匂いが変』。ここから推測できる課題は?」


 坂井の目がスッと細められた。青い光が鋭くなる。


「……古い潤滑油を使っているせいで、熱を持って停止している可能性があるわね。

うちの新型冷却システムなら、稼働率を15%上げられる」


「『社長は機械自慢が好き』。なら、提案のアプローチは?」


「コスト削減じゃなくて、

『機械を長持ちさせるためのメンテナンス』という文脈で入るべきね。愛着に訴える」


 坂井の指がキーボードを叩き始めた。


 早い。


 久我の持ち帰った「感覚的なノイズ」が、坂井の手によって「論理的な戦略」へと変換されていく。


 30分後。坂井が出してきたのは、完璧な提案書だった。


 大田黒製作所の課題をピンポイントで突き、社長の感情にも配慮した、隙のない構成。


「これを、高瀬さんに渡します」


 私は言った。


「久我さんが開け、坂井さんが地図を描き、高瀬さんが宝を持ち帰る。

これが第三営業部の『勝ちパターン』です」



 3日後。


 高瀬が大田黒製作所から帰ってきた。その手には、注文書が握られていた。


「……信じられません」


 高瀬は興奮気味に言った。


「社長さん、最初からニコニコしてて。

『あの生意気な兄ちゃんの会社のやつか』って。

坂井さんの資料を見せたら、『なんで俺が困ってること知ってんだ』って驚いて……即決でした」


 フロアがどよめいた。


 あの「難攻不落」の大田黒製作所が、即決。


 私は久我と坂井を見た。2人は互いに顔を見合わせ——ふいっと視線を逸らした。


「……まあ、俺のおかげだな」


 久我がふんぞり返る。


「はあ? 誰が翻訳してやったと思ってるのよ」


 坂井が冷たく言い返す。


 仲は悪い。


 でも、私の目には見えていた。


 久我の白い光と、坂井の青い光が、一瞬だけ混ざり合い、強烈な輝きを放ったのを。


『共鳴』だ。


 光が、爆ぜる。


(いける)


 この3人が噛み合えば、どんな数字だって作れる。



 その日の夕方。


 私は給湯室でコーヒーを淹れていた。


「順調そうですね」


 振り返ると、専務が立っていた。心臓が跳ねる。


「……おかげさまで」


「大田黒製作所の件、聞きましたよ。長年の懸案事項でしたからね。素晴らしい」


 専務は微笑んでいる。だが、その背中の銀色の光は、冷たく凪いでいる。


「ですが、柊さん」


 専務が1歩、近づいてきた。


「これは『実験』としては面白い。ですが、経営とは『再現性』です。

1発屋の成果に、会社は投資しません」


「……分かっています」


「来週、全社定例会議があります。そこで、第三営業部の今月の数字を発表してもらいます」


 私は息を呑んだ。


「今月の目標達成率は、100%ですね?」


「ええ」


 専務の目がスッと細められた。


「では、120%を超えてください」


 120%。


 今のペースでは、到底届かない数字。


「それが無理なら——実験は終了です。私が介入します」


 専務は背を向けた。


「楽しみにしていますよ。あなたたちの『光』が、どこまで続くのか」


 扉が閉まる。


 給湯室に取り残された私。カップを持つ手が、わずかに震えている。


 120%。


 今の「3分業」だけでは足りない。もっと大きな、爆発的な何かが要る。


 私は目を閉じた。視界の裏に浮かぶのは、3人の光。


 まだだ。まだ、彼らの光は「全開」じゃない。


 特に——久我悠斗。


 彼の白い光には、まだ底知れない奥がある。


(やるしかない)


 私は目を開けた。


 合理の壁をぶち破るには、狂気じみた熱量が必要だ。


 まだ足りない。

 でも、もう戻れない。


 全員を救うつもりはない。

 だが、勝てる形には必ずする。


 次は、全社会議。


 そこが、私たちの処刑場になるか、独壇場になるか。


 戦いは、次のフェーズへ移る。

全8話。完結まで毎日投稿します。

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