仕事参観……した?
四歳のお誕生日。
「おめでとう〜」
「もう四年かぁ…」
自分の事のように喜ぶお母さんと、どこか複雑そうなお父さん。どうしたんだ。せっかくいい日なんだから、ずっと笑っててもいいのに。
「もうすっかり大人なんだねぇ」
「えへん」
お母さんみたいに、私の事もっとちやほやしてくれても構わないのにね。
「…アイラって、お父さんのお仕事が何なのかはわかってるのかな?」
「まおーさま?」
「そうそう。怖い怖い魔王様なんだよねお父さんは」
なんだなんだ。真面目な話しをしそうだな。
「魔王ってのは悪い方の呼び方で、単に言うと大統領って見ていいんだ」
なにそれ。
「何それ?」
お母さんもよくわからないって顔だ。
「んー…国の中のどんな事でも、最終的にはお父さんに許可を取らないと何も出来ないって言えばわかりやすいかな」
なにそれー。
「おーさまとちがう?」
「ちが……くなくない?力でねじ伏せて上がって来たんだからほぼ王様なのでは?」
「ちょっと、あなたが迷ったらどうするの」
お父さんって、だらしないだけじゃなく馬鹿みたいなところもあるみたい。
だらしないのが馬鹿みたいなところを持ってるって意味なのかな。
とにかく、ともかく。
「どーしたの?それが」
「実はお父さんね…?仕事の途中にもアイラが見たくて見たくて、たまにサボって家に帰ったりするんだよね」
「子供の教育によくないよそういうの」
「ごめんって」
なんだ?いつも仕事を終わらせて来るんじゃなくて、単に仕事を投げつけて逃げて来てたのか?お父さんなのに。
「そ、そんな顔しないでぇ……いつもじゃないから。一ヶ月に一回くらいだから…」
「ほんと?」
「……週一回かな」
「ほーんと?」
「…………二日に一回かな」
いけない大人。
「とにかく!そのお陰で仕事が全然進まないんだ!アイラが産まれる前からずっとこうだったからもうそろそろ五年くらいこんな生活をしてたんだ」
「そうだったの!?あなた正気なの?」
「あぅぅ」
王様が五年もお仕事をせずに来たって事?魔王様って意外と仕事しなくてもなんとかなる職なのかな。
「それで、その……仕事をする為にさ、職場に子供を連れて来てもいいように法律を作って……って事で」
なんだなんだ。
「つまり、アイラが見たくて仕事が出来ないから、仕事場までアイラを連れて行くって事?正気で言ってるの?あなた」
「………その、通りです。あと正気です」
つまり?
「おしごと、さんかん?」
「おぉ!その通り!アイラもお父さんが普段どんな仕事をしてるのか見たいんだろう?気になるだろう?家で待つだけじゃつまらないし暇なんだろう?今年の誕生日プレゼントはお父さんの職場に遊びに来れる権利だ!」
「いきたぁい!」
楽しそう。働く時のお父さんはどんな感じなのかな。きりっとしててかっこいいかな?それとも眺めるのも大変なくらい怖いのかな?
魔王様だし怖いに違いない。
怖いお父さん…見てみたいなぁ。
て事で、三日後。
お父さんが仕事に行く時に一緒に起きて、まだ眠気に勝てずうとうとしていたらいつの間にか城についていた。
「本当に…入るの?」
「大丈夫だって!もう子供がいるお父さんお母さんはみんな連れて来て、その子達の為の遊び場まで作ったんだからさ」
お母さんは相変わらず気に入らないようだった。お母さん曰く、「政治家はみんな汚く、己の私欲の為だけに動くから、ひょっとしたらアイラが危険な目に遭うかも知れない」らしい。
そんなわけないじゃんって思うけど、もしもの事があるかも知れないから。
今日はお母さんも一緒に来る事になった。
「遊び場はあっちだよ。行って遊んでね。まずは昨日までの余りを片付けて来る」
「昨日までって……あなた」
「あぅぅごめんなさい昨日一日中仕事もせずアイラが安全に遊べるように施設み見回りました…」
「はぁ…まぁいいよ」
お父さんって本当に怖い魔王様かな。実は怖くないのに、怖いように見えたくて怖いって噂を広げたりしたのじゃないかな。
まぁそれはどうでもいいか。
「わあぁぁ…!」
遊び場というところに入る途端、今までの眠気がぱっと消えるのがわかった。
なんと、滑り台がある!
それもぐるぐるって曲がってるやつ!
中に入ったらくるくる回って降りた頃には頭がくらくらするやつだ!
それだけじゃない。砂場もある!
砂場は全力で走っても三十秒以上はかかりそうなくらいだだっ広い。海に来たみたい。
海はないけど、湖ならある。
でも水遊びはあんま好きじゃないし。
「ねねね、あれ!」
「うんうん。滑り台ね?」
どきどき。わくわく。




