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ふざけた!

 二歳の誕生日からまた二ヶ月くらい経った頃。そろそろ頭もはっきりしてて、昨日と今日も区別するのが簡単になった。

 時間感覚が芽生えたとも言える。

「ねぇまぁま」

「どうしたの?」

「ごはん」

「駄目よ。さっき食べたから」

 一つ問題があるとすれば、ご飯が美味しいあまりにいつも食べ過ぎちゃうという事だ。

 ぽっちゃりと膨れた手や足やお腹のせいで、お母さんがとても心配してた。赤ちゃんはいっぱい食べないといけないのに。

「おやつ」

「それも駄目」

「むーぅっ」

 お母さんは私がご飯を食べ始めた時から、冷静になってしまった。もうおねだりしても駄目なのは駄目になってしまった。

 昔はほとんどしてくれたのに。

 お母さんはもう子離れが出来たみたいだ。

 まぁ。それはさておき。

 この日はいつもより日が暖かく、風は強い日だった。外で散歩をしたから覚えてる。

 とても穏やかで、つい眠っちゃいそうなくらい平和な一日であった。

 でも嵐の前の静けさと言う言葉通り。今日の平和はこの時の為にあったみたいだ。

「パパ、遅いね」

「おそーい」

 お母さんと散歩を終えて、昼寝も終えて、夕飯と終えた頃。いつもならとっくに帰って来たであろうお父さんが、今日はちっとも姿を表せない。連絡もなかった。

 仕事が忙しいのかな。でもいつもはどれだけ忙しくても家にはよく帰って来たのに。

 てことは……

「うわきぃ?」

「…どこでそんな言葉を学んだの?アイラ」

「パパぁのえほん」

「………ちょっと待っててね?」

 言っちゃいけない事を口にしたみたい。

 お母さんが雷の如くお父さんの書斎に入って、そそくさと色々と取り出した。中にはよくお父さんが読んでくれたのも多い。

「わぁっ」

 私が一番好きなのもいる。これ全部捨てるつもりなのかな。

 この本は捨てないで欲しいなぁ…

 隠しとくか。

「ふっ」

 私の半分くらいの大きさを持つ絵本を持ち上げて、てくてくとベッドまで近づいて、その下に隠しておいた。これで問題なし。

 ちょうど隠した頃にお母さんも終わったのか、お父さんの書斎から出て来た。

 それから軽く手を振ったら、本が消えた。

「ぉん?」

 なんだなんだ。

「きえた!」

「全部捨てたわよ。あんなもの、まだアイラには早いから」

 どこに行っちゃったのかな。てかどうやって捨てたのかな。

「まほー?」

「そうだよ。魔法なの。アイラがもう少し大きくなったら教えてあげる」

「はぁい」

 魔法ってこういうのも出来るんだ。

 ごみ捨ての魔法。

 いいのかな?

 今までの人生を振り返ってみると、あんまごみを捨てた記憶はないが。まぁ私がわかんないだけでどこかには使えるだろう。

 お母さんが使ってるのだし。

「それよりアイラ」

「はぁい」

「隠したよね?一個」

「………………むーぅん?」

「知らないフリしても騙せないよ。お母さん、全部見てたから」

 バレたのか。あれだけは捨てたくないのに、捨てなければならないのか……

 どうにか乗り越える方法がないのかな。

 お母さんの気を引きそうなのが……

「わ、ぱぱぁ!」

 ちょうどよく、窓の外にお父さんが見えた。とても疲れてそうな顔で、体には硬そうなのを纏っていた。鎧かな。

「そんな嘘―」

 バタンっ。

 お父さんが思いっきり窓を開いて入って来た。なんで窓かな。

「ごめんリリア。今日から少しの間、帰ってこられないかも知れない」

「……は?」

 とにかく窓から入って来て、土足で家を汚しながらお父さんは真剣な顔で話す。

「敵だ。詳しい事はまだ言えないけど、ひょっとしたらもう帰って来られなくなるかも…」

 なんだなんだ。

「今まで、とても楽しかった。お前との時間も、アイラとの時間も…俺にとってはかけがえのないものだろう。今までの人生の中で一番、輝いた瞬間だった」

「あなた、何を…」

 めっちゃ真剣な話しをしてるなぁ。

「だから俺は、お前達を失いたくない。たとえこの身が朽ち果てるとしても、必ず―」

 何か、こういう状況とはとても似合わないけど…眠くなって来た。

 確かにいつも寝る時間よりは遅い。

 いくら昼寝をしたとしても、いつもの眠る時間を二時間も超えていた。

 これは眠くなって仕方ないだろう。

「アイラ……最後に、抱えてもいいか?」

「ぅあ」

 よくわからないけど話しがなんとかなったみたいで、お母さんが目に涙を滲んで、お父さんは人生最後みたいな顔で私を抱え上げた。

 私、いいって言ってないのに。

「お父さんがいなくても、変な道に行っちゃ駄目なんだよ?お母さんは頭もいいし性格もいいからお母さんの言う事をちゃんと聞くとこれからの人生に迷いはないはずだ。お母さんの言いなりになれって意味ではない。人生で何か大事は瞬間が訪れた時――」

「ふあぁ」

 眠ぃわ。

 二歳児の赤ちゃんにこんな時間まで徹夜させるのはやっぱりよくない。

 今すぐにでも目が閉ざされそうだもん。

「それと、男には注意するんだな。お父さんみたいな男はいつも悪い男なんだから、もし付き合うとしたら……うむむ、いい男の象が思い浮かばないな…恋愛は辞めてくれないか…?いやでも、アイラの人生だから…そうだ。恋愛なら男とじゃなく女とするのはどうだ?男相手だと下手したら悪い事をされるかも知れないが、女が相手なら襲われても少しは対抗出来るだろうから――」

「うるしゃい…」

 お父さんったら口数が多いんだから。

 こういう時は眠らせて欲しいの本当。

「…………ふふっ、その通りよ。あなたの心配過ぎなんだから」

「…そうだといいが」

「何せ、あなたは最強の魔王様なんじゃないの?世界を恐怖のどん底に押し入れた張本人なのに、あなたが弱気になれば駄目じゃない」

「あぁ……そうだな。ちょっと心が弱ってたみたい。ありがとう、アイラ」

 よくわかんないけど、何とかなったっぽい。

 じゃあ寝るか。

「…すやー」

「あはは、可愛い寝言」

「すやーって言って寝るのはお母さんとそっくりなんだね」

「あなたもするじゃない」

「お前の真似だよ」

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