涼しぃー
「ただいまー」
ミリウちゃんをお母さんに任せて、部屋に戻るとすぐにあーちゃんがばたばた近づいて来た。全身で喜びを表せるところがなんだか犬みたい。
狼も犬なのかなー?
「よしよしよしっ、元気にしてたー?私は元気だったのー」
舐めたりはしないから犬ではないか。
「それより私ね?新しいのを学んだのー。あーちゃん、暑くない?暑いでしょー?」
すりすりと擦りまくるあーちゃんを引き剥がそうとするけど、離れようとしないあーちゃんだった。
「どけいっ」
無理矢理突き放すとようやく離れてくれた。愛され過ぎるのも考えるべきなんだよな。
「よーく見てね?氷作るよ?」
とにかく、ともかく。
あーちゃんの前に手を開いて、その上に氷を一つ作り出した。普通の氷。触れたら溶ける氷。
冷たい氷。
「どうどう?これで暑さぶっ飛ばすのよー」
私の手のひらよりも小さいその氷を見て、あーちゃんが少しがっかりしたように見える。本番はこれからなんだけどね。
「見ててね、大事なのは氷じゃないから」
その氷をちょっとだけ大きくして、私の口に放り込んだ。冷たさが口の中に広がる。それを見たあーちゃんがとても物欲しそうな目で私を眺める。
「はい、あーん」
私のよりもっと大きめの氷をあーちゃんの口の中に入れた。あーちゃんも口中の氷の冷たさに顔が綻ぶ。
これだけでも十分な気がするが、毎度氷を作るのはさぞめんどくさい事だろう。それに、氷が溶けると水も出るし。そこで思ったのだ。
布団が涼しければいいのでないか。
「うひゃっ」
私とあーちゃんで温められた布団を冷たくして、その中に潜ってみる。
「冷たーい」
体全体に冷気が伝わって来て、秋に外に出た感じだ。涼しいけど、風邪ひいちゃうかも。
「んー」
じゃあどうすればいいのだろう。
むむ。
「わっ」
そこでふと、風が吹いた。
頬を撫で、髪を梳く夏風。
あの時ミリウちゃんと出会う前のように、涼しい風が吹けばいいのでないか。
「わひゃっ」
涼しい風をどんどん部屋の中に作っては流す。確かに涼しいし、寒くない。
あーちゃんもこれに気に入ったのか、私から離れてぐーたらと倒れ込んだ。
私も一緒にベッドに倒れる。
「涼しぃー」
布団がもっと暖かったら、陽だまりの上で昼寝でもするような感じになるんじゃないか。
「きもちー」
ぽかぽか、ひやひや。
眠くなるのう。
寝るか。
「すやー」
眠って、次に眠りから起きた時は汗だくにもなれず、とても爽快な夕空が広がっていた。
「はっ」
日の高さからすると、夕食時間より少し過ぎていたようだった。隣にあーちゃんもいない。
私を覗いてご飯を食べてるのかも知れない。どこからか美味しそうな匂いが漂っていた。
「あら、こんばんは」
慌てて部屋を出るとミリウちゃんが立っていた。見た目はさっきと同じなのに、どこかぼろぼろになった感じがする。
「こんにちわ……」
「ご飯食べた?」
「ご飯…ええ、あなたを呼びにきましたよ」
幸い、まだご飯の時ではなかったみたいだ。よかった。それとお腹空いた。
「そうなんだ。あーちゃんは?」
「あーちゃん…?」
知らないのかな。
「うちの飼い犬みたいな子がいるのー」
「犬……」
どこか期待してる顔だ。犬好きなのかな。
「わ、あーちゃん」
「…!え、い、ぬ…?」
「ちょっとぉ、重いの」
でもうちのあーちゃんは犬じゃないのに。こうして顔見る度に擦りまくるのは犬とそっくりだけど。
「狼だよー?」
「お、おおかみっ」
「気に障ることやったら噛まれるかも?」
「か、かまれ…る」
怯えてるねぇ。可愛いー。
「よーしあーちゃん、今日もいっぱい食べるぞー」
ちょっと暑くなったので涼しい風を吹かしながら、おどおどするミリウちゃんを連れてあーちゃんと一緒にリビングに行った。
「お腹すいたー」
「まだよ」
「はーい」
リビングで三人並んでちょこんと座った。ミリウちゃんは座るって言うより、腰に力が抜けた感じで私の隣に崩れ落ちた。
今日の夕食なんだろうなー。美味しそうな匂い。




