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生まれ変わった!

 目の前に降り注がれる、物凄い光にぎゅっと目を閉じてしまう。

 体に触れる、暖かい感触についびくっと身体を震わせてしまう。

 これはいったいどういう事なのだ。

 さっきまで知らない人と話してたのに、気づけば意識が遠のいて、いつの間にか目の前が真っ白で、何かに掴まれたみたいで……

「ど、どうしようっ!!泣かない!もしかして病気なのでは――」

「静かに…」

 何だ何だ?この、頭の横がくすぐったくなる感覚、確かに耳で声を聞く感覚だ。

 今更だけど腕にも、背にも、何かが触れてる感覚がする。いやその前に、腕が、背中が、耳が、ついてる。

 動ける…?

「こんばんは……私の娘」

 戸惑う私を咄嗟に抱える暖かさに、何だか目元がじんわりしてくる感じがした。

「な、泣いた!ふぅ〜…よかった…」

 目に涙が滲んですぐ、隣から、右から大声で喋るのが聞こえた。つい耳を塞ぐくらい、大きいから迷惑だ。

「あなた……うるさいから出てって」

「あぅ…ごめんなさい」

 その一言で大声を出した人は部屋を出て行く。二人ってどんな関係なのだ。

 私を抱いているのは誰だろう。聞き覚えのある声だけど、もしかしてさっきまで話してた人なのだろうか?

「…ふぅ……ちょっと辛いね」

 何だか苦しそう。どうしてかな。

「大丈夫だよ…心配しなくても」

 心配になるけど、大丈夫なのかな。幽霊が人に出来る事は何もないから、それが残念……

 待って?

 私今手足ついてるじゃん?

 じゃあもう幽霊じゃなくない?

 じゃあどうにかしてくれるんじゃない?

 体の痛みを減らす方法はわからない。でも心の荷を軽くする方法なら知ってる。

 私は、産まれたてのか細い指で、私を抱くその腕をぎゅーっと握り締めた。

「……うふふ」

 それだけで何とか元気が出たのか、痛そうな声は消えて、穏やかな声になった。

「いい子だね」

 あれ。

 あれぇ?

 何か眠くなってきたぞ。

 幽霊なのに。もう幽霊じゃないか。

 じゃあこれは生きてるという証なのだろう。じゃあこれは、生まれ変わったって事なのか。

 さっき言ってたのが本当だったんだ。

「えぇ、あなたは産まれた。今、ここで」

 そんな私の心を読んだのか、そういう声が聞こえた。声じゃなかったのかもしれない。先程の、幽霊の頃に話していた時と同じく、頭の中に響く感じがしたんだから。

 眠くてそう聞こえたのかも知れない。


 ◇


 というわけで、私は新しく産まれた。

 今までの魂の姿は消え、少しでも力を入れただけで折れそうなくらいか細い体に。

「目はずっと閉ざされたままなの…?」

 そして、さっきからずっとソワソワしてるのがお父さんみたい。お父さんなのに、だらしない。頼れない感じだ。

「眠ってるから当たり前でしょう」

 隣でお父さんが近づくのを塞ぐのが、お母さんみたい。こっちはいい人みたい。

 そしてここは、知らない部屋だ。生まれ変わったんだから知らないのは当たり前だろうけど、ここの作り方とか、飾り方とか、初めて見る事ばかりで、楽しい。

 キラキラしてて、触ってみたい。

「ゎああ」

 何か声が出ちゃった!

「起きたんだよね!今の絶対アイラの声―」

「しーっ」

「………はいっ」

 本当だらしない父親だな。

「起きた?」

 お父さんを黙らして、そっと私に顔を近づけるお母さん。初めて見た顔がお母さんの顔か。私がひよこみたいな動物だったらきっとこの人に懐いただろう。

「んぁ」

「うんうん。おはよう」

 上手く語れない。語れないのが当たり前か。産まれたての赤ちゃんがこんにちはとか言い出したらきっと驚くだろう。

「ご飯、食べる?」

 ご飯?

「むん?」

 あ、ご飯。生きる為には食べなきゃ。

「うふふふ」

 ごくごくと頷くと、お母さんはとても嬉しそうな顔で自分の服を捲り上げる。なんで。

「さぁ、飲みましょうね」

 なんで?

 ご飯って言ったのにどうして服を…

 あ。

 赤ちゃんって母乳を飲んでたっけ。ご飯はまだ早いのかな私って。さっき産まれたから早いんだろうね私…

 ご飯食べたいなぁ……でもまだ早いし、仕方ないか。これで我慢しなきゃ。

「あは…♡可愛いなぁ」

 初めて感じる……初めてではないか。

 物凄く昔に感じた事がある、母の感触につい震えてしまう。人の体ってこんなにも熱くて、柔らかいんだ。

「……あのぉ、外で待ちますか?」

「まだ出てなかったの?」

「…ごめんなさい」

 お父さんはやっぱりだらしないな。

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